「敵は自分自身。最後に信じるところは自分自身」“五輪3大会連続出場” 元広島県警の射撃名手 中重勝さん(60)

オリンピックに3大会連続で出場した射撃の名手が広島にいるのをご存じでしょうか。広島県警の警察官でこの春、定年退職しましたが、それでもなお練習に励む姿を取材しました。

米田健太郎 記者
「木に囲まれた道の先に見えてきたのは、射撃場です」

中重勝さん(60)です。中重さんは、射撃競技の日本代表として1994年のアジア大会で金・銀・銅、3つのメダルを獲得。さらに、オリンピックにも3大会連続で出場しました。還暦を迎えた今でも毎日、練習を続けているといいます。

中重勝 さん
― 正月も練習を?
「正月は逆に時間がたっぷりあるので練習しています(笑)」

実際に腕前を見せてもらいました。結果は…?

中重勝 さん
「このくらい当たれば、オリンピックでもいいところいくかなという点です。きょうは珍しいです。7発打って9点に1回しかハズレていないので」

中重さんは10mエア・ピストル男子の日本記録保持者です。

中重勝 さん
「きょうは調子いいですね」

射撃では、相手との駆け引きはありませんが、自分の心と深く向き合う必要があります。

中重勝 さん
「敵がいないんです。あえて敵がいるとしたら自分自身ですね。もう一人の自分が中にいるとしたら、それが敵になる」

中重さんを支えてきた妻の美和さんです。美和さんも元射撃選手で、いまでも一緒に、射撃場に足を運んでいるといいます。

中重勝 さん
「家庭の中でもやりやすいし、いろんなことを理解してくれているので、無理もかなりきいてくれますし、やっぱり女房でよかったなというとこですよね」

中重美和 さん
「競技の面でいえば神様のような人だと思っています…」

中重さんが警察官を志したきっかけは、高校生の時に地元の駐在所の警察官と話したことでした。

中重勝 さん
「警察の仕事であるとか、そういうのを聞いているうちに徐々に駐在所のおまわりさんはすごいんだとあこがれるようになって」

「射撃」との出会いは、警察学校に入ってからでした。

中重勝 さん
「学校の授業ではトップではないけど、よく当たる方だった。教官も筋がいいねと言ってくれた」

県警の強化指定選手にも選ばれた中重さん。アジア大会が地元・広島で開催されたことが大きなモチベーションになったといいます。

中重勝 さん
「運がよかったですね。広島でアジア大会があるというのは、わたしの力ではどうにもならないことなので」

― 地元愛が強いですね?
「もう広島県、大好きです。地元の三次市、大好きです」

その後、初出場したアトランタオリンピック。RCCには当時、24歳の青山高治 アナウンサーと中重さんの共演映像が残っていました。これには中重さんも…

中重勝 さん
「若いですね~。青山さんも若いですね~(笑)」

しかし、オリンピックではメダルを獲得できませんでした。

中重勝 さん
「ほかの世界大会と違うことはないんですけど、なんか自分の中で "オリンピック" というくくりをつくってしまっているから、ふだんと違う成績になってしまうのかなというのはあります」

苦しんだことも多かったという中重さん。

しかし、射撃をやめようと思ったことはないといいます

中重勝 さん
「魔物は自分自身と言いましたけど、やっぱり最後、“信じるところは自分しかないんです” 。自分が自分をあきらめたら、もう自分が終わってしまうような気がして。絶対、そこは強い気持ちは持っています」

これまで機動隊や警務課などで勤務してきた中重さんですが、60歳になり、勤めてきた広島県警からも退職となります。

いよいよ、警察官として最後の時間を迎えました

棗田英雄 警視
「機動隊で一緒にやってきたので、アニキのような感じ」

田中克典 警部補
「パッと一瞬、射撃を見てもらったら、いけないところが直る。一瞬で見抜かれてしまう」

県警では「レジェンド」や「世界のナカシゲ」とも呼ばれていましたが、こんな声も…

佐々木智恵子 係長
「(中重さんは)だじゃれが多い」

中重勝 さん
「最初はみんなすごく笑ってくれていたのに、だんだんと笑いがなくなり、しまいには無視するように」

すると…

中重勝 さん
「 ”動” の中で ”どう” 打つかよ~」

周囲
「出た出た、おやじギャグ」

きょうは「無視」されませんでした。オヤジギャグも聞き納めです。

後輩たちとも熱い握手を交わし、いよいよ県警を後にします

中重勝 さん
「職場の窓から外を見たら、もうこの景色は見られないんだなと思うとさみしいものがある」

今後は射撃のパラ競技の指導に当たるほか、自身の射撃も続けていくといいます。

中重勝 さん
「わたし自身も一つの目標として国体がありますので、やっぱり優勝を目指してがんばりたいなと思っているので、引き続き競技者としてもがんばりたい」

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