Twitch配信の収益化は「コミュニティ形成とほぼ同義」 担当者が語るストリーマー成功の必要条件、そして“初心者”へのアドバイス

ライブストリーミング配信プラットフォームTwitchは、2023年に日本の視聴者数を46%伸ばし、2022年の51%増加に続き、さらなる成長を示している。2023年は日本での配信時間が28%増加しているように、Twitchストリーマーは日本において増加を続けている。

多くのストリーマーが参入し、Twitchでの収益によって生活する人数も増加傾向にあるなかで、TwitchのChief Monetization OfficerであるMike Minton氏にインタビュー。収益化におけるポリシーや日本市場の成長、これからライブ配信を始めたい“配信初心者”へのアドバイスなど、さまざまな話を聞いた。(片村光博)

■日本で大きな盛り上がりを見せる「eスポーツ」「VTuber」「GTA5」という3つのキーワード

――Twitchにおける収益化(マネタイズ)の基本的な部分からお聞きできればと思います。現在の収益化におけるルールや、Twitchからの支援の内容について教えてください。

Minton:私たちとしては、収益化のツールを始めたばかりの方から大手のストリーマーの方まで、さまざまな方に向けてのツールを用意しています。収益化を目指すうえでの最初の段階は、チャンネルへのサブスクリプションを募っていくということですね。視聴者は好きなチャンネルにサブスクリプションできますし、ほかの視聴者にサブスクリプションをギフトとして贈ることもできます。自分が応援するコミュニティをさらに広げることもできますし、「ビッツ」というバーチャルグッズも用意しています。次にあるのが広告ですね。ストリーマーのみなさんは、コミュニティの規模が大きくなるにつれて広告収入が重要になってきます。そして中規模から大規模のストリーマーになると、スポンサーシップのサポートが必要になります。

全体的なプロセスとして話していくと、配信を始めたばかりの方はサブスクリプションやビッツで収益化していき、そこからサブスクリプションのギフトなどで規模を拡大していきます。そして規模が大きくなってくると、広告などのスポンサー、そしてグッズ販売などが重要になってきます。私たちは、そうしたストリーマーのみなさんをなるべく多くサポートしたいと考えており、収益化をサポートするための最低条件を「フォロワー50人と平均視聴者数3人」としています。みなさん、平均して数週間から数ヶ月でこの数字を達成されますね。全体では、Twitchがサポートしている収益化済みのストリーマーはひと月あたり100万人規模となっています。もう少し数字の話をしますと、私たちは10億ドル以上をクリエイターのみなさんに投じていて、良質な収益化のプログラムを持っていること、そして業界をリードする存在であることを自負しています。

――いまのお話にもありましたが、収益化のハードルが低いことはTwitchの特徴のひとつだと思います。その背景にある狙いについて伺ってもよろしいでしょうか。

Minton:私たちの目標、目的というのは、ストリーマーのみなさんが自分の大好きなことで生活できるようにサポートしていくことです。Twitchの一番の特長は、コミュニティを作れるところ。収益化することと、コミュニティを作ることは、ほぼ同義語だと思っています。

たとえば、誰かのチャンネルにサブスクすること自体が、その人のコミュニティの一部になりたい、その人を応援したいということを意味しています。特に配信を始めたばかりのストリーマーにとっては、収益化してサブスクを受けること自体が、コミュニティを作っていくことにつながっていくと考えています。

――コミュニティ形成という意味では、サブスクリプションのギフト機能(サブスクギフト)はユニークでおもしろいシステムだと思います。サブスクギフトが果たしている役割についてはいかがでしょうか。

Minton:サブスクギフトについては、コミュニティのメンバーがストリーマーをサポートする手段だと思っています。サブスクギフトを誰かに与えることによって、コミュニティに新しい視聴者を招待することができますし、新しい視聴者がコミュニティに入っていくきっかけにもなります。そうした形でストリーマーを応援したいという熱意が、それぞれのコミュニティには存在していると感じています。

――さまざまなライブ配信サービスが存在するなかで、これから配信を始めようという人にTwitchの魅力をプレゼンするとしたら、どのようなところを最も知ってほしいですか?

Minton:「自分の好きなコンテンツのコミュニティ形成において、ベストなインフラであること」でしょう。コミュニティを作れることは、Twitchのユニークなところですし、ほかのサービスとは違うところです。動画配信、特にライブ配信をするのは簡単なことではないですし、時間もかかるんですが、そのなかでもコミュニティのメンバーがストリーマーをサポートできるようなツールをたくさん用意しています。それによってTwitchはほかのサービスと一線を画するものになっているのではないでしょうか。

ひとつ付け加えますと、Twitchは特に日本で大きな盛り上がりを見せています。たとえば2023年には、日本の視聴者数は46%増加し、Twitchで最も成長している国となりました。また、配信時間は28%増加しており、日本のTwitchストリーマーの数も増えています。この数字が示すのは、それだけストリーマーのみなさんがサービスに価値を感じてくださっているということだと思います。

――日本でのTwitchコミュニティの発展はたしかに目覚ましいものがあります。そのなかで印象的だった出来事やストリーマーの方がいれば教えてください。

Minton:日本は3つのポイントで大きな盛り上がりを見せていると思います。まずはeスポーツ。代表的なストリーマーはすでに100万人以上のフォロワーがいるSHAKAさんですね。2つ目がVTuberのみなさん。そして3つ目が『Grand Theft Auto V』(GTA5)です。いろいろなユーザー同士でコラボレーションをして、どんどんチャンネルが成長していくチャンスが生まれています。

――『GTA5』のコミュニティ『ストリートグラフィティロールプレイ(ストグラ)』の盛り上がりは凄まじいものがあります。ロールプレイによってもうひとつの社会が生まれるような出来事は、世界的に見ても特殊な例なのでしょうか。

Minton:たしかに、本当にひとつの社会が新たに形成されたと言ってもいいような発展、盛り上がりがあって、すべてストリーマーのみなさんによって牽引されています。それぞれの国、それぞれの言語でさまざまな盛り上がりがありますが、『ストグラ』を運営するShoboSukeさんのように自分でサーバーを運営してしまうところまで発展し、コミュニティの中にまたコミュニティができて、コラボレーションが生まれるというのは、大変特徴的な事例です。ただ、日本だけではなく、スペインやメキシコでも同じような動きがあって、非常に大手のストリーマーがスペインでも生まれています。ゲームを通じたコラボというのは、場所や言語を問わず、非常に盛んになってきていますね。

――ストリーマー主導のコミュニティ形成がここまで大きなものになっているというのは、コミュニティを重視しているTwitchの運営側としても成果と言えるのでしょうか。

Minton:ストリーマーのみなさんが大好きなことを1日中して、それで生活できるようになる。それがコンテンツクリエイターになるということですし、私たちはそのためのサポートをできなければいけません。Twitchとしてサポートしてきた結果、ストリーマーのみなさんがすごくエキサイティングな気持ちになったり、熱意を持ったりできているというのは、私たちにとって毎日の仕事に取り組むモチベーション、原動力になっています。

■なによりも大事なのはコンテンツに対する情熱

――あらためて、収益化についてのお話も伺えればと思います。大手のストリーマーの方々を見て、自分も配信を始めようと思う方は多いと思うのですが、そんな方にこそ活用してほしいツールや、アドバイスなどがあれば教えてください。

Minton:私からは3つアドバイスできるかなと思います。ひとつは、どんなタイプのコンテンツを作りたいか、どんなコミュニティを形成していきたいかということについて、明確なプランを持ったほうがいいですね。そのプランを作るにあたっては、自分らしさを持って、本当にやりたいことを大事にするべきだと思います。

2つ目は、ほかのストリーマーとのコラボレーションや、ネットワークを作っていくということです。成功しているストリーマーのほとんどが、ほかのストリーマーとコラボレーションしていますし、Twitchで成功するためには非常に一般的な方法です。

そして3つ目は、ほかのソーシャルメディアの活用です。自分のコンテンツに対して、ソーシャルメディアを通じていろいろな方を呼び込んでくるという形が必要になってきます。

――その先のステップとして、本業ではないながらも副業としてある程度収益化できているストリーマーの方も数多くいらっしゃると思います。一方で、そこからさらに大手まで上り詰めるのは簡単ではありません。そんな方々のモチベーション維持のために、Twitchとして取り組まれていることや、提案したいことなどはありますか?

Minton:そういったストリーマーの方々にお伝えしたいのは「もし収益化だけを目指して配信をしていると、非常に難しい状況になってしまうのではないか」ということです。おっしゃるとおり、本当に成功するというのはとても大変なことですし、自分の作っているコンテンツ、配信しているものが大好きで、何日でも何ヶ月でもずっとやっていられるという思いがなければいけません。重要なのは情熱です。どれだけ情熱があり、どれだけ好きでいられるか。そこがなければ、Twitchで成功するのは難しいと思います。

ツールに関しては、いま非常に重きを置いているのがモバイル機能です。ストリーマーのみなさんが、ライブ配信の時間以外でもコミュニティとつながれるようなツールですね。ストリーマーのみなさんには、より少ない時間で、より多くの成功を収められるようにしていきたいと思っています。

――配信ではないところでのつながりや盛り上がりという面では、Twitchではクリップを通じてブレイクする方も多いように感じます。クリップが広く拡散されて伸びるような文化、クリップという機能自体について、収益化を見据えたときにどのような存在なのでしょうか。

Minton:クリップはストリーマーのみなさんにとって非常に重要なツールです。Twitchとしても簡単にクリップを作れるようにしたり、編集・共有がしやすいようにしたりと、機能の改良を重ねてきました。現時点ではクリップと収益化は結びつけておらず、クリップ上には広告もありませんし、機能としても収益化につながるものはありません。ただ、今後はクリップも先ほど申し上げたモバイルの機能と融合していくと思いますので、そこでまた収益化の新たなチャンスやツールが生まれる可能性はあると思っています。

――Twitchにおける収益化全体の話として、現在お話できる範囲で今後の展開などを伺ってもよろしいでしょうか。

Minton:2024年に関しては、2つの大きな戦略を掲げています。ひとつはスポンサーシップとマーケットプレイスの拡充です。これはつまり、ストリーマーのみなさんがより多くのスポンサーシップを獲得できるようにサポートしていくということです。

もうひとつは、ビッツというシステムを単純に誰かを応援するという以上のものにしたいと思っています。それ以上の楽しさや、インタラクティブな形のビッツのメカニズムを作っていきたいと考えています。簡単ではありますが、このふたつが2024年の戦略になります。

――ビッツに関しては、コミュニティがより活性化するような方向性に進化していくということでしょうか。

Minton:現状のビッツはストリーマーを応援するという目的のみで使われています。将来的なビジョンとしては、ゲーム内通貨のようなものを考えていて、たとえばビッツでグッズを買うとか、アイテム収集をしたりとか、あるいはデジタルペットを飼うことができるかもしれないとか……。ビッツをもっとおもしろい、楽しい機能にしていって、応援するためだけのものにとどまらない位置付けにしていきたいと思っています。

――それでは最後に、これからTwitch配信を始めたいという方に向けて、メッセージをいただければと思います。

Minton:私からお伝えしたいのは、「自分のコンテンツに対して情熱をもってください」ということです。楽しいからやる、やりたいからやるということが、Twitchで最も大事なことだと思っています。ライブ配信をしたり、人と関わったり、誰かにエンターテインメントを提供することが大好きな人は、やはり成功しやすいんです。一方で、ゲームが好きでもなければ、雑談も好きじゃないという方は、Twitchで成功することもできないと思います。なによりも自分が提供するコンテンツに情熱を持ち、それを絶やさないことが重要です。

ライブ配信は、ほかの動画配信コンテンツとはまったく違って、非常にユニークなものです。コミュニティに対してリアルタイムでライブ配信をしていくというのは、たとえばYouTubeやTikTokのような、撮影した動画を短く編集して投稿する形とはまったく違います。ほぼ100%を生配信して、コミュニティと交流していくことが必要です。そうした部分で、ほかの動画配信サービスとは異なります。

だからこそ、ライブ配信が好き、人と関わるのが好きという思いがあり、情熱を持って取り組むことが成功のためには重要ですし、Twitchで配信することの特徴的なポイントだと思っています。

(取材・文=片村光博)

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