社説:住宅弱者 誰も入居拒否しない社会に

 「住宅弱者」をどう救うか。

 1人暮らしの高齢者が2050年に1千万世帯を超え、5軒に1軒の割合になるという国の最新推計が公表された。死別や未婚で頼れる身寄りがなく、暮らしの根幹となる住まいへの入居を拒まれ、行き場をなくす人の増加が懸念される。

 単身高齢者らの住宅確保を支援するため、住宅セーフティーネット法改正案が今国会で審議されている。2017年に創設した高齢者、低所得者らの入居を拒まない賃貸住宅を紹介する「セーフティーネット登録住宅」制度を拡充する内容だ。

 日本賃貸住宅管理協会の調査では、単身の高齢者の入居に拒否感がある大家は65%、実際に60歳以上の単身者の入居を断っている大家は11%あった。大家側の理由は、孤独死と遺品の処理への不安、家賃滞納、認知症になった場合など入居後の課題の相談ができるかといった懸念が背景にあるとされる。

 セーフティーネット登録住宅は昨春時点で、京都府約1万3千戸、滋賀県約1万千戸。制度創設後の新型コロナウイルス禍での停滞を勘案しても、伸びを欠く。入居相談や家賃債務保証をサポートする居住支援法人の数も十分といえないという。

 障害者や低所得者、ひとり親世帯も家を借りにくい住宅弱者だ。児童養護施設を出た人も保証人を見つけるのが難しい。

 一方で、空き家は増えている。18年調査で京都府は17万戸、全国で846万戸に上り、総住宅数の1割を占める。住宅施策と福祉施策の間に空いた大きな溝を埋めねばならない。

 改正法案は、入居後の見守りや一定の債務保証などサポートの強化で、大家の不安を軽減する狙いがある。国会審議を通し、実効性を高めてほしい。

 国が同法で「住宅確保要配慮者」と定義するより幅広く、入居差別に苦しむ人たちがいることにも目を向けてもらいたい。

 同性パートナーの世帯、生活習慣の異なる外国籍の世帯、ヘルパーが頻繁に訪れる難病患者、刑務所を出所した人らである。差別や偏見から家を借りにくい「住宅難民」ともいえよう。理不尽に住まいの確保を拒まれ続け、諦めている人の実態を十分に把握する必要がある。

 府県営や市町村営などの公営住宅こそ、本来の住宅セーフティーネットにほかならない。

 連帯保証人が見つからずに入居できない人をなくすため、国土交通省が、公営住宅の募集に際して保証人規定を削除するよう全国の自治体に要請したことは評価できる。京都府や京都市も保証人規定を除いた。

 民間賃貸住宅がいまだカバーできない住宅弱者の受け皿として、公営住宅が果たすべきことは多い。福祉施策と結びつけてさらに要件を柔軟にし、入居後のサポートを充実させることが求められよう。

© 株式会社京都新聞社