J1昇格の重圧を感じて戦う幸せ 多種多様なクラブ渡り歩いた“リオ五輪戦士”矢島慎也の現在地

大岩剛監督率いるU-23日本代表が目下、パリオリンピック2024アジア最終予選を兼ねるAFC U23アジアカップ カタール2024を戦っている。

一種独特の緊迫感に包まれるオリンピック最終予選の難しさを痛感する一人が、リオデジャネイロオリンピック2016代表の矢島慎也だ。手倉森誠監督が率いた代表チームは下馬評が低く、6大会連続(当時)の出場権獲得は難しいのではないかと懸念された。しかし、最終的に決勝で韓国を破って(○3-2)アジア王者に輝いた。その大一番で同点とする2点目を叩き出したのが矢島である。

「僕らの世代でアジアを獲ったことは、たぶん自分のサッカー人生の中で最も大きな出来事」と本人もしみじみと語る。

あれから8年が経過し、矢島は当時所属していたファジアーノ岡山から浦和レッズ、ガンバ大阪、ベガルタ仙台、大宮アルディージャ、レノファ山口を経由し、今季から清水エスパルスでプレーしている。

その指揮官はリオオリンピック代表でコーチを務めた秋葉忠宏監督。「あの時、秋葉さんが代表にいて、その人に今年呼ばれて清水に来たことには縁を感じます。(原川)力とか当時の仲間たちがJ1でやっているのを見ると、自分もまたJ1でやりたいなと。そのためには、このチームで上がらないといけない。頑張りたいです」と気合を入れていた。

矢島は新天地の清水でけがなどがあってやや出遅れたが、4月7日のヴァンフォーレ甲府戦で初先発。左サイドに陣取って中央に絞りながら山原怜音の攻撃参加を引き出すといういい仕事を見せた。

そして今季2度目の先発となった20日のベガルタ仙台戦でも左のいい連携を披露。北川航也やカルリーニョス・ジュニオらと近い距離感を保ちつつ、攻めの組み立てに絡み、自らシュートを打ちに行く形もあって、状態が上向いている様子だった。

「自分が中に絞る時は、サイドハーフの中に入って高い位置で受けられればいいなと思ってやっています。前線に航也とカルリーニョスがいるので、自分のところにボールが来れば空きますし、狙い通りにやれたかな」と手応えをつかみつつある。

秋葉監督はここまで攻撃陣の組み合わせを頻繁に変えながら戦っている。35歳の乾貴士が大黒柱なのは確かだが、ベテランにフルシーズンを託すわけにもいかない。若い西原源樹や千葉寛汰、移籍組のルーカス・ブラガや松崎快なども積極的に活用しながら、多彩な勝ち方を模索しているようだが、仙台を3-2で下し、直近3連勝という結果が出ているのを見れば、ある程度、成果が出ていると言っていいだろう。

ただ、矢島としては、ここからもっと出場時間を増やし、存在感を高めていくことが課題。今季まだ取れていないゴールはもちろんのこと、アシストやチャンスメイクなどチームを勝たせる仕事を遂行することが重要だ。それが経験豊富な男に託される大きなタスクとなる。

「監督は『誰が出ても、その人がうまくやれるでしょ』って思いながら、選手を使っていると思います。だから期待に応えないといけない。僕が左に入る時は張るより中に入りますし、スペースを使ったりと、考えながらやることが求められていると思います。今まで多くのクラブに行って、ポジションも役割もいろいろでした。たくさんのポジションをやりましたね。CB以外はほぼやったかな。そういう経験も生かしたいです」

矢島は多種多様な環境で戦い抜いてきたタフさや柔軟性、万能性を清水というクラブに還元しようとモチベーションを高めている。

彼ももう30歳。ベテランと言うべき年齢に達している。ただ、リオオリンピックで共闘した遠藤航は大台を迎えてからリヴァプール移籍を果たし、主軸に上り詰めていく姿を見ていれば、まだまだ成長できるという前向きなマインドになるはずだ。

「(遠藤については)俺からしたら全然あり得る話です。近くでやっていて、能力の高さも知っていましたから。『ワッさんなら、そりゃそうだよな』という感じでしたね(笑)。以前はあまりリヴァプールの試合を見ていなかったですけど、今季はほぼ全部見ています。自分もここでしっかり試合に出て活躍したい思いが強くなりました。過去2年間は大宮と山口でやって、残留争いメインで結構、固い試合をしないといけなかったですけど、今は価値を求められているので違った楽しさがある。そこで結果を残したいと思っています」

矢島慎也の30代キャリアはまだ始まったばかり。ここから清水をJ1に引き上げ、再び国内トップの舞台に立つこと。そこに集中してほしい。

取材・文=元川悦子

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