「彼はバスケを知らない。別の惑星から来たんだ」ヨーロッパ出身選手を軽視したアリナスにレジェンドが反論<DUNKSHOOT>

現代NBAにおいて、ヨーロッパ出身選手はリーグの中心を担う重要な存在だ。今季、ルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス/スロベニア)は自身初の得点王に輝き、過去5年のうち4年はヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス/ギリシャ)とニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ/セルビア)がMVPを独占している。

これに対し、かつてワシントン・ウィザーズなどで活躍したギルバート・アリナスは守備の強度不足の要因にヨーロッパ出身選手を挙げていたが、ユーゴスラビアのレジェンドである元NBA選手のイゴール・ラコチェビッチがこの意見に反論した。

2023-24シーズンのNBAは、リーグ全体の平均得点が114.2点。1970年以降では最高値の昨季(114.7得点)に続いて、2番目に高い数字となった。オールスターゲームを含めて攻撃偏重の傾向が強まるなか、アリナスは自身がホスト役を務めるポッドキャスト番組『Gil's Arena』でディフェンスの強度不足の改善案を問われると「すべてのヨーロッパ出身選手を排除しろ」とあまりにも極端な意見を述べた。
「選手たちはディフェンスを学ぶために大学へ行く。ヨーロッパ出身選手はどんな大学に行くんだ?彼らは運動能力がない。スピードもジャンプ力もない。ディフェンスでは足手まといだ」

この主張に物申したのが、ユーロリーグで得点王3回に輝いたイゴール・ラコチェビッチだ。ラコチェビッチは2000年のシドニー五輪はユーゴスラビア代表、2004年のアテネ五輪にはセルビア・モンテネグロ代表の一員として出場。2002年の世界選手権(現ワールドカップ)ではユーゴスラビア代表の一員として、準々決勝でジャーメイン・オニール(元インディアナ・ペイサーズほか)やポール・ピアース(元ボストン・セルティックスほか)を擁したアメリカ代表を撃破し、金メダルを獲得している。

一方で、24歳だった2002-03シーズンにNBAのミネソタ・ティンバーウルブズで42試合に出場したが、平均5.8分のプレータイムで1.9点、0.4リバウンド、0.8アシスト、FG成功率37.9%という平凡な成績に終わった。この1年で欧州に戻り、セルビア、スペイン、トルコ、イタリアを渡り歩いて成功を収めたが、ジャーナリストのアレクサンダル・ストヤノビッチがホストを務めるポッドキャスト『ALESTO』に出演した際、現代NBAでプレーしたならば、当時よりも成功を収められただろうとの見解を述べた。
「今のNBAの方が間違いなく簡単だと思う。クオリティは大きく落ちているし、ディフェンスもほとんどない。より多くのポゼッションがある。私には合っているだろうね」

そして、ヨーロッパ出身選手を軽視するような発言をしたアリナスに関して尋ねられたラコチェビッチは、NBAとヨーロッパのバスケットボールの違いを挙げている。

「彼はバスケットボールを知らない。別の惑星から来たんだ。ヨーロッパ出身選手が強豪チームに行き、いきなり成功する例はレアだ。NBAのスターがヨーロッパにやってきて活躍が期待されたなか、平均10点もできない例は無数にある。(NBAとヨーロッパは)違う哲学、違うバスケットボールなんだ。アメリカでもヨーロッパでも、ルーズなシステムの中でしか機能しない選手もいるしね」

ラコチェビッチは「NBAで得点するのはヨーロッパよりも何倍も簡単だ」として、アメリカの攻撃重視のマインドが問題だと指摘している。
「まずNBAは試合時間が8分長い(NBAは1クォーター12分、そのほかのリーグや国際大会は1クォーター10分)。コートも大きい。ディフェンスの3秒ルールがあって、(身長221cmのウォルター)タバレスがゴール下で待ち構えていることもない。アメリカ人はスポーツの商業化に関してはスマートだ。その哲学のすべては攻撃志向にある。そうやってルールが作られているんだ。プレーオフの終盤を除いて、今のNBAはディフェンスがひどい。もちろん、いくつかはいいディフェンスをするチームもあるけどね」

ドンチッチもルーキーイヤーの2019年2月に「ヨーロッパはコートが狭い。NBAにはディフェンス3秒ルールがある。だから、NBAでの得点はヨーロッパよりも簡単だと思う」と発言している。

いずれにしても、NBAで堂々たる成績を残しているヨーロッパ出身選手も多いだけに、両方のバスケットボールを経験しているラコチェビッチとしては、アリナスの主張に黙ってはいられなかったようだ。

構成●ダンクシュート編集部

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