50年ぶり「給特法」にメス 教員の労働環境の改善なるか 現職教員や高教組は疑問も

小学校41時間、中学校58時間、これは2022年度に文部科学省が実施した実態調査で出された、学校の教員のひと月の残業時間の平均です。「ブラック」とも揶揄され教員の長時間労働が問題視される中、先日、文科省の諮問機関、中央教育審議会(中教審)である方針が示され、了承されました。教員は給特法という法律のもと働いていますが、その中で、残業代の代わりに月給の4%分を「教職調整額」として支給すると定められています。今回、この 4%を10%以上に引き上げる方針が了承されましたが、果たして、これで問題は解決するのでしょうか。

小川一樹記者:
「きょう文科省の中教審で、教員の残業代にあたる教職調整額が10%に引き上げられる方針が示されます」

公立の学校の教員は、教員給与特別措置法「給特法」のもとで働いています。その中で、教員には残業代を支払わない代わりに、月額給与の4%分を「教職調整額」として支給すると定められています。

この給特法が制定されたのは1971年。4%という数字は、今から60年近く前の1966年度の教員の残業時間が月平均8時間だったことから算出されました。約50年手つかずのままだった「教職調整額」が、今、引き上げられようとしています。4月19日、中教審の特別部会の開催に伴い、現職の教員ら有志による記者会見開かれました。その中で、福井テレビが5年前に制作したドキュメンタリー番組で、初めて顔を出して取材に答えてくれた現職の高校教師も思いを述べました。

岐阜県の県立高校教員・西村祐二さん:
「教職調整額の増額だけの結末というのは最悪の結末だ」

西村さんは、顔をさらすリスクを抱えながら、ここ5年にわたり、自ら先頭に立って国や世間に学校環境の改善を訴え続けてきました。

岐阜県の県立高校教員・西村祐二さん:
「教職調整額の増額だけでは、残業が自発的なボランティア扱いな状況が変わらない。“4%定額働かせ放題”が”10%定額働かせ放題”になるだけで、残業削減のループに入っていかない」

ただ、教職調整額が引き上げられることで教員の処遇は改善されます。

Q.教員採用試験の倍率がどんどん低下している中で、4%から10%の引き上げで教員の職業としての魅力は上がると思うか―

岐阜県の県立高校教員・西村祐二さん:
「いろんな教育実習生を見てきたが、職員室の残業とか定時を気にすることなくいつまでもガンバリズムでやることを、こどものためには美しいけど、自分にはできないと引いちゃっている。手取りを1、2万上げても何も響かない」

会見に同席した、教員を目指す学生の一人はこう話します。

中央大学4年・宇恵野珠美さん:
「教員になりたい学生は、生徒と関わりたくて授業をしたいという思いがあってなる。それが十分にできそうにない学校の環境のままなら変わらないかな」

19日の中教審では「教員は職務と自発的な活動の切り分けが難しい」との理由から、残業代を支給すべきという意見は出されませんでした。

了承された方針案には、教職調整額の制度を維持し、割合を10%以上に引き上げることに加え、小学校の教科担任制を、これまでの5、6年生から3、4年生にも広げることや、若手教員をサポートする新たな職を創設すること、また、働き方改革を推進し、残業時間を将来的には月20時間程度とする目標も盛り込まれました。この内容を受け、県の高教組は次のように疑問を呈します。

県高等学校教職員組合・長谷川浩昭 執行委員長:
「県内の教員も、過労死ラインと言われる時間外勤務80時間以上の人が、減ったとは言っているものの、実際には持ち帰り残業や数字に見えない残業というのが依然としてある。県内の教員の労働環境も非常に厳しい。実際の働き方に応じて残業代が支払われる制度とは根本的に違うので、残業が野放しになるなら調整額が上がっても変わらない」

WEBで配信された中教審での審議の行方を見守っていた西村さんに、話を聞きました。

岐阜県の県立高校教員・西村祐二さん:
「これまで主張してきた残業代の支給や、給特法ではなく労基法に基づくべき、という根本部分が変わらないので、これにより処遇改善を行った結果、教員の採用倍率は高まるのか?給特法を大きくいじらないで働き方改革の施策を打っただけで、本当に残業時間は減るのか?先の未来が不透明だなと思う」

教育社会学が専門で、学校のブラック化や「給特法」が教員の長時間労働の温床だと
訴えてきた、福井市出身で名古屋大学の内田良教授は「コスト意識、時間意識がなかった法律の下で、まだこれからやっていくのなら、4%から10%にするだけでなく、その何倍も時間管理、コスト意識を持たなければいけないことこそが強調されるべき。“給料増えて良かったね”で終わってほしくない」

中教審の特別部会は、5月中に方向性をまとめ、文科省は、2025年の通常国会で給特法の改正案を提出する方針です。果たして、教員の労働環境は改善するのでしょうか。

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