小林製薬の『紅麹』 通常の3倍以上の培養期間、約80年稼働の工場設備の老朽化 見えてきた“予期せぬ物質”発生の可能性

小林製薬のサプリによる健康被害の発覚から1カ月。患者の数は増加の一途をたどっている。

4月18日、兵庫県姫路市の病院を訪れた61歳の男性。男性は去年7月から「紅麹コレステヘルプ」を飲み続けていたところ、コレステロールの数値は下がったが、ことし2月ごろ、突然体に異変を感じた。

サプリを摂取していた男性:全然疲れが取れなくて、慢性疲労みたいな状態になっていたんです。そのうち頻尿になって、1時間半に一度ぐらい、夜中も関係なく、1日15~16回トイレに行くはめになりまして。夜中に目が覚めて睡眠の質も悪くなり、悪循環が続いていたんです。

そこで、病院で検査を受けると、医師が驚くほど、腎臓に関わる項目が異常な数値になっていた。サプリの摂取をやめると、頻尿などの症状は改善したものの、腎臓の数値がなかなか正常に戻らず、現在も経過観察のため月に2回ほど通院を続けている。

紅麹サプリを摂取していた人:『小林製薬』という名前もですし、サプリメントだから規定量以上飲まなければ、そんなに害があるという認識はなくて、大丈夫かなと勝手に思い込んでいました。軽症でもこれだけ苦しいんだから、重症の方はどれだけ苦しいんだろうと。

■小林製薬の会見から1カ月 患者数が大きく増加

1カ月前、緊急で会見を開いた小林製薬。

小林製薬 小林章浩社長 3月22日:本来想定していない成分が含まれている可能性があることが判明いたしました。深くおわび申し上げるとともに、使用しているお客さまは直ちに使用を中止をお願いします。

当初は、「紅麹入りのサプリ」を摂取した13人が腎臓の障害を訴え、入院や通院を余儀なくされたと説明していた。しかしこの会見後、健康被害を訴える声は増え続け、小林製薬や厚労省に寄せられた相談は延べ9万4000件(4月18日時点)。サプリを摂取した5人が死亡し、240人が入院したことが明らかとなっている。

■紅麹サプリを摂取していた患者に共通してみられた「ファンコニー症候群」

小林製薬は「サプリと健康被害との因果関係は分からない」と説明しているが、紅麹サプリを摂取していて入院した患者2人を診察した医師は、症状に“ある共通点”があると話す。

市立東大阪医療センター 腎臓内科 藤村龍太医師:(腎臓の)尿細管という部分に障害が強くなっていて、一部は“焼け野原”のような状態でかさぶたになっている。体内に必要な電解質が(尿に)漏れ出る『ファンコニー症候群』まで至っているのではないかと推察しています。

共通点とは、「ファンコニー症候群」。ブドウ糖などの体にとって必要な栄養素を腎臓で吸収できず、尿として過剰に排出され、倦怠感など体調不良を引き起こすものだ。日本腎臓学会の調査でも健康被害を訴える患者の大半で食欲不振、嘔吐、頻尿などの症状が確認されている。

市立東大阪医療センター 腎臓内科 藤村龍太医師:比較的短期間の内服でも、このような腎障害をもたらすと考えますと、サプリメントに含まれる物質、同定できていない部分もありますが、非常に“毒性の強いもの”が考えられるのではないかと思います。

「毒性の強いもの」とは、いったい何なのだろうか。

■「未知の成分」含まれる紅麹原料 どこで異変が起きたのか

紅麹は、昔から中国の酒や沖縄の伝統料理「豆腐よう」に使われ、健康に役立つ発酵食品として親しまれてきた。小林製薬ではさまざまな食品に使うため、原料を粉末にして多くの企業に販売していた。

記者リポート:未知の成分が確認された紅麹原料は、ここ小林製薬の大阪工場で作られたということですが、老朽化のため去年12月に工場は閉鎖され、今は閑散としています。

およそ80年稼働していた大阪工場。大阪市は3月、立ち入り検査を行ったが、紅麹を製造する機械などはすでに新しい工場に移されていた。

その中で、原因究明の貴重な手がかりとなるのは、紅麹原料から確認された「プベルル酸」。厚生労働省によると、青カビを由来とする天然化合物だということだが…

記者リポート:医学系論文を検索するサイトで『プベルル酸』を調べてみると、わずか6件しかヒットしません。

「プベルル酸」は世界的に見ても極めて研究の数が少ない。6件のうち4つの論文を発表している北里大学は関西テレビの取材に対し、マラリアに感染したマウスへの毒性は確認されたものの、「人体への影響は分からない」と回答しした。

「未知の成分」が含まれる紅麹原料。異変は、どこで起きたのでしょうか。

■小林製薬の製造法 通常の3倍以上の培養期間でリスク増大か

紅麹原料は、紅麹菌と蒸した米を混ぜ、培養したものを乾燥させて粉末にする。紅麹を長年製造している別の企業は、培養には特有の難しさがあると指摘する。

紅麹を製造する企業:紅麹菌は他の菌と比べてとてもデリケートで雑菌が入りやすい。衛生管理の徹底が重要。

専門家は、詳しい状況は分からないとした上で、そもそも扱いが難しい紅麹に対し、小林製薬が成分濃度を高める独自の製造法をとっていたことに注目している。それは、「通常の3倍以上の培養期間」。

琉球大学 橘信二郎教授:長く培養するとそれだけ水分を入れたり手を加えることになるので、温度コントロール、水分コントロールが難しくなってくる。手入れが増えると、それだけ汚染リスクが増えることですから。

通常の3倍以上、およそ50日という長い培養期間があると、その中で何らかの異物が混入したり、発生したりするリスクが高まるというのだ。

■大阪工場のタンクが老朽化していた可能性も

また別の専門家は、大阪工場で過去に培養タンクに温水が混入したというトラブルから、タンクが老朽化していた可能性も指摘する。

園田学園女子大学 渡辺敏郎教授:もし仮に小さな亀裂であるとか、パッキンが劣化していって、そこから水が入って影響してきたということは、考えられるとは思います。

-Q.途中で青かびの混入に気付かない?
園田学園女子大学 渡辺敏郎教授:最初だと気付くと思います。最初の段階では赤い色していなくて、お米の色をしています。お米の色をしているところに最初に青かびが入ってきたらおかしいと絶対気付く。ただ、ある程度紅麹が生えてきて、赤い色、ピンク色になってきて、そこにちょっと青カビっぽいものが混ざっていたとしても、多分気が付かないんじゃないかと思います。

通常より長い培養期間や、設備の老朽化によって予期せぬ物質の発生や混入があった可能性が見えてきた、小林製薬の紅麹原料。4月19日には、プベルル酸に加えて、通常は入っていない複数の物質も新たに確認された。物質の特定や混入経路の解明には、まだ時間がかかりそうだ。

■取材した記者は『安全管理(GMP認証)』に注目

この問題の背景には紅麹特有の扱いの難しさと、小林製薬の製造上にも特有のリスクがあったという。

関西テレビ 鈴村菜央記者:普通の発酵食品よりもカビの発生や異物の混入がしやすい環境だったといえると思います。そういったリスクがある中で、私が注目したのは『安全管理(GMP認証)』です。

安全管理の体制について見ていく。
・紅麹の原料を作っていた小林製薬の大阪工場は、衛生面で重要な工程のみ大阪府の安全認証を受けていた。
・一方、厚労省は全工場で全行程を点検・記録し品質管理をする『GMP認証』というものを推奨している。

紅麹の原料を作っていた大阪工場はGMP認証は得ていなかったということだ。

関西テレビ 鈴村菜央記者:そもそもGMP認証は、医薬品では法律で義務付けられているのですが、健康食品では法律では義務にはなっておらず、いわゆる企業努力になります。GMPを認証する日本健康栄養食品協会に話を聞きますと、『GMP認証を取得すると、実施できているか毎年外部からチェックを受ける』ということです。こういった理由から大手の企業ではGMPを認証しています。つまり認証がない小林製薬の工場を第三者が定期的にチェックする機会はなかったといえます。

厚労省が推奨しているGMP認証を取得しなかったことについて、小林製薬はどう説明しているのか?

関西テレビ 鈴村菜央記者:小林製薬は『安全管理のルールは自社で定めて運用できていた』ということです。そのためGMP認証を目指していなかったと説明をしています。

GMP認証を義務化する必要があるのだろうか。

共同通信社編集委員 太田昌克さん:今回明らかになったのは、サプリと医薬品を2つに分けて、医薬品はGMP認証が義務化されていますけれども、サプリは義務ではないという、制度的な問題ですよね。しかしサプリとはいえ、工程が長く、通常の3倍の特別の手間をかけ、そこには異物混入のリスクが高まるわけですから、サプリは全部いいですよってことには、恐らくこれからはならない。今回、どこに問題があったのかしっかり調査をやって、場合によってはサプリの中でもリスクにさらされやすいものは、GMP認証を義務付けていく措置が必要になってくるかもしれません。

想定外の物質が検出されたときに、出荷をストップする判断はなかったのか。

関西テレビ 鈴村菜央記者:どういう場合に自主回収をするかというガイドラインを各企業が準備しているんですけれども、他の企業は原因が分からなくてもある程度被害が確認された場合に回収するという動きをとっているところもあります。小林製薬は関係がある程度見えるまでは回収しないといったガイドラインがあったので、各企業の温度感の違いはあったのかもしれません。

今も後遺症に悩んでいる人がいる。サプリを摂取する時に、どこまで恐れるべきなのだろうか。

関西テレビ 鈴村菜央記者:取材に応じてくれた入院患者の方、ステロイドなどの薬は処方されておらず、接種をやめることで回復された方もいました。腎臓学会の調査でも、透析まで進んだ方は少ないというデータが出されています。ただ今回は被害がかなり拡大したということが問題になっています。腎臓というのは症状が気付きにくいといわれていますので、体の異変を感じたら速やかに病院へ行くことがいいのではないかと考えられます。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年4月22日放送)

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