円安、脱停滞、企業統治改革…スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスのプライベートバンクUBP(Union Bancaire Privee)はジュネーブに本店がある (KEYSTONE/Salvatore Di Nolfi)

スイスの主要報道機関が先週(4月15日〜21日)伝えた日本関連のニュースから、3件をピックアップ。要約して紹介します。 ※SWI swissinfo.chでは毎週月曜日、スイスの主要メディアが報じた日本関連ニュースのまとめ記事を配信しています。こちらからニュースレターにご登録いただければ、メール形式で全文をお読みいただけます。 今回ご紹介するのは①中東危機でも上昇しない日本円②日本は停滞を脱したのか?③スイス資産運用会社が見る日本のコーポレート・ガバナンス改革の3本です。 中東危機でも上昇しない日本円 日本円は安全通貨の一つとされ、金融危機や地政学的な混乱が起きると円高が進みやすいという性質を持っています。ところが、イランがイスラエルを報復しても円安が止まらず、市場では日銀・財務省による介入や緊急利上げの憶測も。ドイツ語圏の日刊紙NZZは、日本でますます円の先安観が強まっている背景を探りました。 記事は「円の急激な下落は、政府と日銀にジレンマをもたらしている」と指摘。一方では経済を腰折れさせることのないようゆっくりと金利を上昇させ、緩やかなインフレに導きたいと考えています。他方では円安が輸入物価を押し上げることが懸念され、追加利上げの必要性が高まっているといいます。 市場ではさらに円安が進むとの見方が広がっています。人口減少が進むなか、多くの日本企業が海外での成長を求め対外投資を増やしています。過去1年で24兆2000億円が純流出し、円安要因になっているのです。個人投資家も円安を見込み、新少額投資非課税制度(NISA)を利用して海外株に投資しています。 こうした状況では為替介入も焼け石に水です。NZZは1ドル=155円を下回る円安・ドル高水準では日銀に対する圧力が高まるとするバンク・オブ・アメリカ証券の山田修輔・主席日本為替金利ストラテジストの見方を引用。利上げや債券購入額の削減がありうるものの、いずれも「資本流出を逆転させる可能性は低い」とのコメントで結びました。(出典:NZZ/ドイツ語) 日本は停滞を脱したのか? 日経平均株価が過去最高値を更新し、日銀が17年ぶりに利上げに踏み切ったことで、日本経済の今後に注目が集まっています。ドイツ語圏の経済紙フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフトは早稲田大学の上田晃三教授に、日本が本当に長期停滞を脱し持続可能な経済成長に向かっているのか、話を聞きました。 上田氏の結論は、「短期循環上は回復局面に入ったかもしれないが、構造的停滞局面はまだ脱していない」です。その理由として、①賃上げと物価の好循環が中小企業やサービス業にまで浸透していない②中期的には高齢化問題を解決しなければならない③需要とイノベーションが弱いことを挙げました。 特に賃上げと物価の好循環は日銀が金融政策判断において重視しています。中小企業は大規模緩和時代に大きな負債を抱えており、わずかな利上げでも少なくない数の「ゾンビ企業」に多大な影響を与える可能性があります。そのため利上げは非常に緩やかなペースになる、との上田氏の見方を紹介しました。(出典:フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト/ドイツ語) スイス資産運用会社が見る日本のガバナンス改革 フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフトはまた、日本の長期株高の背景の一つであるコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革にも注目。スイスの資産運用会社UBPインベストメンツで日本株を担当するズヘール・カーン氏らに取材しました。 UBPは今、「コーポレート・ガバナンスの劣る企業の株をショート(空売り)することでアルファ(超過利益)の大半を生み出している」と言います。カーン氏が特に関心を寄せているのは、2024年3月期決算の発表が集中する5月。資本構成が改善されそうな企業や、赤字部門からの撤退が予想される企業に注目しているそうです。 注目指標の一つは、取締役会の構成です。役員の年齢やスキル、経歴を分析するほか、独立取締役を置いているかどうかもガバナンスへの取り組み姿勢が評価できると言います。 企業間の株式持ち合いにも注目しています。持ち合いは取引関係が強化される、敵対的買収を防ぐといった利点がありますが、利益相反が生じる危険も。カーン氏のチームは各社の「立てこもり」度合、つまりグループが変化から身を守ろうとする姿勢の強さを測定しています。アクティビスト(モノ言う株主)を発端に持ち合い解消が進み、株価上昇につながる機会となるとみています。(出典:フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト/ドイツ語) 【その他、スイスで報道されたトピック】 話題になったスイスのニュース 先週、最も注目されたスイスのニュースは「チューリヒ春祭りの雪男、強風で燃えず 歴史上初」(記事/日本語)でした。他に「UBSの牙を抜かずに飼いならすには?」(記事/日本語)、「チューリヒ工科大、大規模な予算削減を検討」(記事/英語)も良く読まれました。 意見交換 日本語を含む10言語に対応した意見交換ページで、世界の読者やswissinfo.chの記者と意見を交換しませんか?下のリンクからお気軽にご参加ください。 今日のテーマ:あなたの国の「報道の自由度」は? ご意見やご感想、取り上げて欲しいテーマなどのご要望がありましたら、お気軽にこちらのメールアドレスまでお寄せください。 次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は4月29日(月)に掲載予定です。 校閲:大野瑠衣子

© swissinfo.ch