A24製作のディストピア映画『Civil War』北米2連覇 『劇場版 SPY×FAMILY』は第5位で発進

映画興行には波がある、そのことは当たり前だとしても、ハリウッドの現状はいささか不安定だ。コロナ禍の大打撃から回復しないうちに、2023年の脚本家&俳優Wストライキにより話題作が不足し、もはや「正常」とは何なのかがわからなくなっている。少なくとも劇場興行においては、時折現れる大作・話題作の波が去ったら、再び急激な冷え込みが起きるというサイクルを繰り返しているのだ。

4月19日~21日の北米映画市場は、累計興行収入およそ6500万ドルで、2024年ワースト級の成績。3本の新作映画が公開されたが、A24最新作『Civil War(原題)』からトップの座を奪うことはできなかった。

Civil War | Official Trailer HD | A24
もっとも、『MEN 同じ顔の男たち』(2022年)のアレックス・ガーランド監督の最新作である本作が思わぬ強さを見せたことも確かだ。週末3日間の興行収入は1112万ドルで、前週比-56.4%と下落率も思いのほか低かった。A24は同社史上最高の製作費・宣伝費を投じ、公開初週に勝負をかけていたほか、観客評価も賛否両論気味だったため、2週目以降は数字が急落することも考えられたのである。

北米興行収入は4488万ドルで、『ヘレディタリー/継承』(2018年)を越えてA24作品としては歴代トップ5に入った。次の週末には、『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)や『レディ・バード』(2017年)、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2023年)を一気に抜いて歴代トップ2となる可能性もある。しかしながら、5000万ドルという製作費を鑑みれば、配信&ソフトリリースを含めてさらなる伸びが必要だ。

Abigail | Official Trailer
惜しくも『Civil War』に敗れたのは、ユニバーサル・ピクチャーズ製作のR指定ホラーコメディ『Abigail(原題)』。事前の予測では1200万~1500万ドルとみられていたが、実際の週末興行収入は1020万ドルにとどまった。

本作はユニバーサルによる古典的モンスター映画の再創造プロジェクトのひとつで、1936年製作『女ドラキュラ』を、『レディ・オア・ノット』(2019年)や『スクリーム』シリーズのマット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレット監督が新たに蘇らせた。6人の誘拐犯チームが犯罪王の娘を誘拐するが、その少女は吸血鬼で……。

出演者には『イン・ザ・ハイツ』(2021年)のメリッサ・バレラ、『ゴジラxコング 新たなる帝国』のダン・スティーヴンス、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)のキャスリン・ニュートンのほか、ジャンカルロ・エスポジート、マシュー・グード、遺作となった『ユーフォリア/EUPHORIA』(2019年~)のアンガス・クラウドと実力者たちが結集した。

バレラはイスラエルのガザ侵攻に対してSNSで抗議の意を示し、『スクリーム』シリーズから降板しているが、このことはユニバーサルの広報戦略や実際の興行成績に影響を与えなかったと伝えられている。製作費は2800万ドルと控えめで、黒字化の道のりはそう遠くない。

Rotten Tomatoesでは批評家スコア83%・観客スコア88%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「B」評価と、ホラージャンルではかなりの高評価。今後の口コミ効果にも期待したい。日本公開は未定。

The Ministry Of Ungentlemanly Warfare (2024) Official Trailer
ガイ・リッチー監督&ヘンリー・カヴィルという『コードネーム U.N.C.L.E.』(2015年)コンビが再タッグを組んだ戦争スパイアクション『The Ministry of Ungentlemanly Warfare(原題)』は、週末3日間で900万ドルを記録して第4位に初登場。残念ながら、『ゴジラxコング 新たなる帝国』の945万ドルには及ばなかった。

原案は第二次世界大戦中、イギリスがナチス・ドイツに対抗するため密かに結成した極秘戦闘チームの実話。ナチスの潜水艦破壊に挑む精鋭たちを、カヴィルをはじめヘンリー・ゴールディングやエイザ・ゴンザレスらが演じる。

製作費6000万ドルに対して900万ドルという初動成績は厳しいが、北米でライオンズゲートが配給権を獲得したこの映画は、多くの海外市場ではPrime Videoでの配信リリースとなる模様。劇場公開が叶わない国や地域は多そうだが、ビジネス的には成立しているものとみられる。Rotten Tomatoesでは観客94%、CinemaScoreでも「A-」評価と観客の支持が高い。日本でのリリース予定は発表されていない。

第5位には、日本から『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が初登場。2009館で480万ドルを記録し、現地では「日本製アニメの勝利が続く」とも語られている。北米配給を担当したクランチロールとしては、『ONE PIECE FILM RED』(2022年)の1276万ドルに次いで歴代5位となった。しかしながら事前のプロモーションを含め、スケールのやや小さい劇場公開となった印象は否めない。

ランキングを概観すると、『デューン 砂の惑星PART2』、『ゴジラxコング 新たなる帝国』、『Kung Fu Panda 4(原題)』などの大ヒット層や、興行成績1億ドル規模の『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』と、これら以外の層のギャップが広がっていることがわかる。『Civil War』のような中規模の作品はレアで、今週公開された3作品や、大手スタジオ製作の『Monkey Man(原題)』、『オーメン:ザ・ファースト』も興行収入の狙いと実績は決して大きくないのだ。

以前より記してきたように、現在は映画業界全体が不安定であるがゆえ、スタジオ各社が「リスクを抑えて小さく稼ぐ」劇場興行や、早期の配信リリースで確実な利益につなげる戦略にシフトしつつある。つまりは大作・話題作でないかぎり大きな賭けには出ず、ポテンシャルのある作品は口コミでヒットを狙う(あるいは配信でたくさん観てもらう)作戦だ。しかしこの傾向が続くほど、映画興行の縮小は避けられず、洋画の日本公開のハードルも上がってゆくだろう。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』があった2023年に比べると、年間興行収入は前年比80%程度。ライアン・ゴズリング&エミリー・ブラント主演のアクションコメディ『フォール・ガイ』が北米公開される5月3日からはサマーシーズンが始まるが、今年は果たしてどうなるか……。

北米映画興行ランキング(4月19日~4月21日)
1.『Civil War(原題)』(→前週1位)
1112万ドル(-56.4%)/3929館(+91館)/累計4488万ドル/2週/A24

2.『Abigail(原題)』(初登場)
1020万ドル/3384館/累計1020万ドル/1週/ユニバーサル

3.『ゴジラxコング 新たなる帝国』(↓前週2位)
945万ドル(-39.2%)/3658館(-189館)/累計1億7161万ドル/4週/ワーナー

4.『The Ministry of Ungentlemanly Warfare(原題)』(初登場)
900万ドル/2845館/累計900万ドル/1週/ライオンズゲート

5.『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(初登場)
487万ドル/2009館/累計487万ドル/1週/クランチロール

6.『Kung Fu Panda 4(原題)』(↓前週4位)
460万ドル(-16.9%)/2955館(-149館)/累計1億7998万ドル/7週/ユニバーサル

7.『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』(↓前週3位)
440万ドル(-23.6%)/3109館(-241館)/累計1億291万ドル/5週/ソニー

8.『デューン 砂の惑星PART2』(↓前週5位)
290万ドル(-33.1%)/2014館(-387館)/累計2億7659万ドル/8週/ワーナー

9.『Monkey Man(原題)』(↓前週6位)
220万ドル(-46.2%)/2641館(-396館)/累計2167万ドル/3週/ユニバーサル

10.『オーメン:ザ・ファースト』(↓前週7位)
170万ドル(-55.3%)/2430館(-945館)/累計1776万ドル/3週/20世紀スタジオ

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年4月22日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W16/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/civil-war-box-office-drawing-blood-abigail-1235878317/
https://variety.com/2024/film/box-office/box-office-a24s-civil-war-wins-weekend-again-1235977592/
https://deadline.com/2024/04/box-office-abigail-civil-war-ministry-of-ungentlemanly-warfare-1235890123/
https://deadline.com/2024/04/godzilla-x-kong-dune-japan-china-global-international-box-office-1235891070/
(文=稲垣貴俊)

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