東京再発見 第15章 下町を守る赤と青の水門~北区志茂・岩淵水門~

赤門を渡った中洲にある彫刻「月を射る」(青野正作)

埼玉、山梨、長野県境の甲武信ヶ岳を源に流れる荒川は、ここ岩淵水門で隅田川と分かれる。旧水門である赤水門は1924年に完成(既に運用停止)。現在の水門である青水門が1982年に竣工、日々運用されている。通常時、水門は開いており、荒川と隅田川、新河岸川とに水の流れを分ける役目を果たしている。

洪水危機、温暖化への対応が課題

2019年10月の台風19号の襲来によって、上流の降水量が大量となった。そのため、岩淵水門を閉ざしたというニュースが流れた。

中州から赤門を望む

荒川は上流の埼玉県鴻巣市あたりで、川幅が2,537メートルとなる日本最大の川。流量の関係で水門が開いていても、そのほとんどの水は荒川に流れるらしい。しかし、この日は隅田川堤防を越える可能性があったとも言われている。

昨今、梅雨末期の線状降水帯や温暖化による大型台風の影響で、日本各地で河川水量が堤防を越えるという事故が多発している。東京の下町は、ゼロメートル地帯と呼ばれる標高が川のそれより低い場所がたくさん存在する。これらの地域を守る意味からも岩淵水門の位置づけは高い。

そして、地球温暖化によって、もたらされる大量の降水の影響での洪水への対応は、今後も大きな課題だ。

江戸の町を作り上げた隅田川、その歴史と役割

江戸時代、千住大橋をはじめ5つの橋が建築された。そして、明治時代以降現在まで、徒歩で渡ることができるものは、26を数える。また、東京都は、先だってのオリンピック時に夜の観光コンテンツとして、すべての橋梁のライトアップを進めた。単純な白だけではなく、赤や青、緑となかなかカラフルである。そのため、橋梁建築を愛でるツアーなども人気が高く、船を活用した水辺から見る橋も見ごたえのあるものである。

過去の洪水時の水量表示が見える
(上流側)

かつて、利根川東遷事業と言われる江戸時代初期の河川改修が行われた。それは、それまで現在の荒川の流域に流れていた利根川を太平洋側の銚子に移したものである。

1590年、徳川家康が江戸城に入った頃の江戸は現在の日比谷付近が入江であったという。神田の大地を開墾し埋め立てを行なった。幕府を開いたことによる人口流入に対応するためであった。そして、江戸湾には荒川と江戸川が流入していた。また、それらの川を結ぶための運河が縦横に整備され、舟運が発達した。

群馬・栃木から利根川や鬼怒川を下り大きな船で運ばれてくる物資を、途中で小さな舟に乗り換えさせ、江戸城下の方々へ運ぶことができるようになった。日本一大きな関東平野の自然地理的な状況は、人の手によって、大きく変化させられたわけである。しかし、このことによって、当時の江戸の町は、世界最大級のものになったと言われている。

荒川放水路という名前が意味するもの

赤門の上から青門を望む

荒川が岩淵水門で隅田川と分かれるようになったのは、前述のように1924年である。しかし、その前後17年にも渡る難工事であった。そして、工事が完成するのは1930年、「荒川放水路」と呼ばれるようになる。これによって、東京は洪水の被害から解放されたのだ。

また、「荒川放水路」は1965年に正式に荒川の本流とされ、それに伴い岩淵水門より分かれる旧荒川全体が「隅田川」となった。それまでは現在の千住大橋付近までが荒川、それより下流域が隅田川と区別されていた。

隅田川を下流に進むと一番古い千住大橋にたどり着く。ここは江戸時代には、単に「大橋」と呼ばれていた。そして、その次の橋は白髭橋だった。

しかし、近年、千住汐入大橋と水神大橋という2つの橋ができあがった。完成後、荒川区と足立区、墨田区との行き来がたやすくなった。

そして、その途中に「旧綾瀬川」という荒川と隅田川を結ぶ川が存在する。ここも、かつての河川改修の名残である。東武鉄道の線路が荒川で分断され移設。また、荒川両岸に「堀切」という地名も存在している。

河川と共存する時代が、再び・・・

明治時代になり、日本全国に鉄道が敷設されると物資輸送は、船から列車に変化していく。この分断された地域の荒川区汐入地区(現・南千住3、4、8丁目)は、その集積地でもあった。まず、旧国鉄(現JR貨物)隅田川駅に、東北地方からの物資を積み下ろす。そして、隅田川を使って東京の町、各地に運ぶ重要拠点なのだ。(詳しくは、またの機会「汐入地区」として別章を設けたい)

ともあれ、岩淵水門がもたらす最大のメリットは、洪水危機からの解放だけでなく、流通革命であったと言っても過言ではない。

河川と共存する時代が、再び、やって来る日も近い。

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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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