【社説】パリ五輪参加問題 IOC方針は納得できぬ

パリ五輪は開幕まで100日を切った。2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、初めて開催される五輪となる。

「平和の祭典」と呼べる状況ではない。ロシアと同盟国ベラルーシの選手の五輪参加を巡り、国際スポーツ界は混乱の渦中にある。

原因は国際オリンピック委員会(IOC)の一貫性を欠く対応だ。

IOCは両国の選手が国の代表でなく、中立の個人として出場することを認めた。ウクライナ侵攻を積極的に支持せず、軍や治安機関に所属していないなど条件を付けた。

侵攻直後は、両国の選手を国際大会から除外するよう国際競技連盟や大会主催者に勧告していた。その後は復帰を検討し、昨年3月に中立選手として世界選手権などへの参加を促した経緯がある。

競技団体の足並みはそろっていない。陸上競技は両国の除外を継続している。

一方、出場を認めた柔道ではウクライナが世界選手権をボイコットした。自国に多大な犠牲をもたらしている国の選手と対戦したくないのは当然だ。

別の競技では、対戦した中立選手との握手を拒否する選手がいた。五輪に出場するロシアとベラルーシの選手は少数とみられるが、ウクライナ以外の選手も集中して競技に臨めないのではないか。

いくら中立と称しても、五輪で活躍すれば国威発揚に利用される可能性がある。

パリはウクライナと同じ欧州にあり、フランスはウクライナを軍事支援している。中立選手の出場への反発が、大会をボイコットする動きに発展する懸念は拭えない。

五輪憲章はスポーツの政治的中立を掲げ、五輪の目的は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」と明確にうたっている。

人間の尊厳を著しく傷つけるロシアとベラルーシの戦争行為が五輪憲章に反するのは明らかである。IOCの方針は納得できない。

ウクライナ侵攻が始まった翌月に開催された北京冬季パラリンピックを思い起こしたい。国際パラリンピック委員会(IPC)は中立選手の出場をいったん認めたが、参加国や選手の強い抗議を受けて撤回した。

大会の主役である選手の意向に沿った方針転換だった。IOCもロシアとベラルーシの選手の出場を考え直すべきではないか。

もちろん、選手たちに罪はない。両国の選手が出場するのに必要なのは、ロシアが侵攻をやめることだ。

パレスチナ自治区のガザではイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘が続く。イランとイスラエルとの間でも衝突が起きている。

国家間の緊張が五輪を揺るがす事態は避けなければならない。国連は改めて、パリ五輪期間中の休戦決議の順守を呼びかけるべきだ。

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