「機能性表示食品」の良し悪しをきっちり理解する…生物学者・福岡伸一さんに聞いた

福岡伸一さん(C)日刊ゲンダイ

小林製薬の紅麹サプリによる健康被害はいまだに原因が解明されていない。しかし、事件の背景に便利な機能性表示食品の氾濫と、政府の規制緩和による後押しがあったのは事実だ。市場は膨れ上がっているが、ここは立ち止まって、機能性表示食品の良し悪しをきっちり、理解しておくことが大事かもしれない。そこで生物学者の福岡伸一氏に聞いてみた。

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「ハンバーガーやカップ麵ばかり食べていると、栄養が偏ってしまいます。総カロリーは足りても不足する栄養素がたくさん出てくる。それを補うために機能性食品は便利ですが、ただ錠剤で量を補えば済むという話ではありません。ビタミンにせよ、ミネラルにせよ、単一の物質として存在するのではなく、タンパク質などと結合して存在するのです。タンパクと一緒に摂取した方が体の吸収はいい。鉄を取りたいならヘモグロビンと結合している食品、レバーやカツオを食べた方が吸収は良いのです。精製して、純化させた物質を錠剤で摂取しても吸収に時間がかかります。だから、サプリの錠剤で足りないものを補うよりも食品をホールフードの形で、丸ごと摂取することをお薦めします」

福岡さんの近著、『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』(発売:講談社/発行:日刊現代、松田美智子さんと共著)には、こうした哲学に基づいたメニューと解説が載っている。旬のものをそのまま食べる。必要な物質をただ摂取すればいいわけではなく、吸収、利用という概念をも取り入れると、やはり、自然の食べ物の方が“効率的”なのだ。そして、食べ物のもつ力が最大化するのが「旬」になる。福岡先生が「サプリより旬のホールフードを!」と本まで書かれたのは、こういう理由だが、もうひとつ、紅麹のサプリには見過ごせない問題があるという。

「長く飢餓に苦しんできた人間は飢餓に備えて自らコレステロールをつくりだすことができます。しかし、飽食の時代でコレステロール過多となり、だったら、そいういうものを取らなければいいのに、体内でコレステロールを作ることを抑制する薬の開発が進みました。きっかけは三共(現在の第一三共)の研究所の遠藤章先生が発見したスタチンという物質で、コレステロールを作る酵素の働きを阻害する。ここから様々な薬ができたのですが、紅麹菌もスタチンを作り出すのに有用なのです」

売らんがための食品と抑制するサプリは「マッチポンプ」の関係

それのどこが問題なのか。

「人間の遺伝子は飢餓には備えてきたが飽食を予想していなかった。だから、飢餓をプロテクトする機能は備わっていても過剰に摂取したものにブレーキをかける機能はないのです。食べ物にもスタチン成分が多いものはあまりない。だから、紅麹が重宝されているのでしょうが、無理やりブレーキをかけるくらいならば、コレステロールを過剰に取らなければいい。それが自然な考え方です。世の中、売らんがために様々な食品が溢れている。そこで取りすぎたものを抑制するために薬やサプリがまた溢れている。これはマッチポンプの悪循環です」

これぞ、売らんがための倒錯の世界のように見える。コマーシャルズムに毒されずに、健康で過ごすにはどうしたらいいのか。その答えは意外にシンプルなのである。

■「理想のレシピ」から春の旬を丸ごと味わう「極上オニオンスライス」

ちりめんじゃこ1カップとオリーブオイル大さじ3をフライパンに入れ、中火にかけてカリカリになるまで炒める。ペーパータオルにとり、余分な脂をきる。新玉ねぎを極薄に切り、氷水に1分間さらす。これを3回繰り返したらザルにあげてペーパータオルで水分をとる。皿にのせ、カリカリのじゃこをかけたら、しょうゆ大さじ1.5、米酢大さじ1を混ぜたタレをかける。

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