ほぼ売り一色、数字で見る日本企業の「対中M&A」の内実とは?

中国を象徴する天安門広場(北京)

日本企業がかかわる海外M&Aの相手として米国が断然トップに立つ。件数で中国が次ぐ。米国、中国は世界1位、2位の経済大国だけに順当といえるが、M&Aの中身をみると、実は好対照だ。対米M&Aは日本企業による大型買収が途切れることなく、攻めの姿勢で一貫するのに対し、対中M&Aは中国事業の整理・縮小に伴う現地子会社を中心とする売却案件でほぼ埋め尽くされる。

「売却」が圧倒的な対中M&A

日本企業の海外M&Aはコロナ禍の影響による落ち込みから復調を遂げた。2023年の海外M&A(適時開示ベース)は216件と前年比60件の大幅増を記録し、2016年(207件)以来7年ぶりに年間200件に乗せた。

全216件の内訳は日本企業が買い手のアウトバウンド取引147件(前年91件)、外国企業が買い手のインバウンド取引69件(同65件)だった。折からの記録的な円安の逆風にもかかわらず、日本企業による買収が活発化し、総件数を押し上げた。

2023年の海外M&Aを国・地域別にみると、米国53件を筆頭に、中国15件(香港、マカオは除く)、ドイツ14件、シンガポール12、インドネシア、カナダ各10件が続いた。ここで注目されるのが日本企業のM&Aスタンスだ。

対米M&Aでは53件中、43件が日本企業による買収。残る10件が米国企業による買収で、米投資ファンドが手がけるTOB(株式公開買い付け)案件が目立つ。ドイツ、シンガポール、インドネシア、カナダの場合も日本企業による買収が7~8割を占める。

対照的に、対中M&Aは15件中、日本企業による買収は4件に過ぎず、その他の11件は中国側の買収、つまり日本企業による売却だ。しかも、11件すべてが日本企業が中国子会社・事業を合弁パートナーなどの現地企業(個人を含む)に売却する案件だった。

※2014年は1~3月、適時開示ベース。M&A Online作成

「脱中国」の流れを反映か

対中M&Aに関し、こうした傾向は2023年だけのことではない。

2014~23年までの10年間をみると、日本企業の対中M&Aは計151件(M&A Onlineが集計)。内訳は日本企業による買収が46件、中国企業による買収が105件。

この105件中、約8割にあたる86件は日本企業が現地子会社・事業を売却する案件で、中国企業が日本に親会社やその子会社、あるいは東南アジアなど第三国にある傘下企業を買収ターゲットにするケースは極めて限定的であることが分かる。

2020年からのコロナ禍をきっかけに、日本企業は事業の選別にアクセルを踏み込んだ。なかでも海外事業をめぐっては縮小、移転・撤退の動きが加速した。これに伴い、日本企業の海外M&Aの内容も売却のウエートがにわかに高まった経緯がある。

ただ、対中M&Aについてはコロナ禍以前から日本企業による売却が断然優位のまま推移していたのが実情だ。いわゆる「チャイナリスク」への警戒感から、海外拠点の国内回帰や多様化など「脱中国」の流れが早くからできていたことがM&Aからもうかがえる。

影をひそめる本格的な日本企業買い

もちろん、過去には中国企業による本格的な日本企業買いが勢いづいたこともある。しかし、近年は動きがぴたりと止まった感がある。

中国がGDP(国内総生産)で日本を抜いて世界第2位になったのは2010年。この頃、業績不振に苦しむ日本企業買いが相次いだ。

ラオックス(09年)、本間ゴルフ、レナウン、三洋電機の白物家電事業(いずれも10年)、NECのパソコン事業(11年)などが次々に中国企業の軍門に下った。

さらに、2016年に東芝の白物家電事業、2018年には富士通のパソコン事業を中国企業が買収した。2017年に負債総額1兆円超を抱えて経営破綻したエアバッグ大手のタカタの主要事業を買い取ったのも中国企業傘下の米国企業だった。

足元の2024年1~3月の対中M&Aは6件。このうち4件は日本企業による売却で、買収を上回る。中本パックス、トヨタ紡織、サカタインクス、三洋化成工業がいずれも中国子会社を現地の従業員や企業に手放すことを決めた。

文:M&A Online

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