視覚認知機能を“見える化“する特許技術 「老化に逆らう未来目指す」 脳鍛えるVRゲーム

VRを用いて視覚認知能力の測定・評価を行う

「脳の老化に逆らえるかもしれない」。そんな可能性があるとしたら、どう思いますか?

【写真】視覚認知能力を測定・評価するVRゲーム「KEEP」

フリーアナウンサーの清水健と絵本作家の夏きこが木曜にパーソナリティーを務めるラジオ番組に、株式会社do.SukasuでCTOを務める落合康さんがゲスト出演。世界初の「視覚認知機能を測定し、“見える化“する特許技術」を持ち、VRゲームを使った視覚認知機能の向上に関する研究を行う同社について、詳しく話を聞きました。

――そもそも、「視覚認知機能」とはなんなのでしょうか?

【落合さん】 かねてより、「人類の脳は10パーセントぐらいしか使われていない」と都市伝説的に言われてきたと思います。しかし、そもそも脳のどこを使っていて・どこを使っていないかの定義は難しいのです。「(脳という)塊のどこがどれだけ動いているか」という考え方以外に、大事だと言われているのが「ネットワーク」なんです。

脳はあっちこっちで機能が異なるため、どこか1か所が考えているというよりは、それらがネットワークでつながって動いている。そのネットワークが少ないと、「脳の機能が低い」といえます。

たとえば私が、赤いペンを持って横に振るとします。これを見たときに脳内では、その画像をただ脳に送る機能、それが赤いペンだと認識する機能、横に振っているという動き・向きを認識する機能が働きます。それらすべてがつながることで、「赤いペンを横に振っている」と認識できるわけです。このネットワーク全体が「視覚認知機能」です。

―― 株式会社do.Sukasu(ドスカス)は、どんなことをしている会社なのですか?

【落合さん】 視覚認知のなかでも、「物体認知」という、物体を見たときにそれが何かを正確かつ早くわかるかどうかの能力を測定し、データ化して数値に表しています。数値で“見える化”することによって、自身の物体認知能力が高いかどうかの判別ができるようになります。ちなみに、物体認知能力が高いとパズルが得意になる傾向にあるようです。

――つまり、物体認知能力が低いということは、それだけ脳が衰えているということですか?

【落合さん】 使わない能力であっても、維持するにはエネルギーが必要になります。ただし脳は、働きを効率化するためにそのエネルギーをカットするようにできているので、使用しないとどんどん使えなくなっていくということになります。

たとえば、若いころにサッカーをしていたとします。その後、10年間まったくプレーしていないと、なんとなくできる気がしても昔と同じようにはできませんよね? その「昔のようにできなくなっている」というのが、かつて脳内で作られたネットワークがだんだん抜け落ちている状態を指します。

――脳の老化は、何歳ごろから始まるのでしょうか。

【落合さん】 私たちが計測したデータでは、60〜65歳くらいから急激に老化が進む人が多いようです。実は、能力の悪化を知ることはとても大切なんです。データや数値に表れると、やっぱりわかりやすいですよね。まずは、「自分はここが弱くなっている」ということをわかりやすくすることこそが、いま私たちが取り組んでいることです。なかでも特に力を入れているのが、交通事故に関してです。

――同社では、データを数値化する特許技術を持っているのですよね?

【落合さん】 そうです。これまで、空間認知や物体認知を簡単に計測する方法はなかったわけです。しかし、空間認知であればVRゲームを使って5分ほどで計測できます。150点満点で点数を出すのですが、平均が75点になるように設定しており、平均値とどれくらいの差があるのかがわかるようになっています。ただし、年齢によって平均値は変わってくるため、同年代のなかで平均より高いのか、低いのかがわかるようになっています。

(数値が)悪いとか良いとかではなく、「自分はここが弱い」ということを意識する。自分だけでなく周囲も意識することで弱い部分をしっかり鍛えて、交通事故など、何かが起こることを防いでいこうという活動をしています。

間違った捉えられ方として、「計測で空間認知能力が悪い人を見つけて、運転免許を取り上げたらいいよね」とよく言われます。しかし、私たちにそういうつもりはありません。先ほども説明した通り、空間認知は使わないと衰えてしまうものです。衰えると、運転どころか、転倒しやすくなったり、寝たきりになりやすくなったりする。単純に「能力が衰えていたから免許を返納しろ」というのではなく、「交通事故を起こさずに長く運転し続けるにはどうすればいいのか」を考えています。

――神戸で行っている実証実験では、どんなことに取り組んでいるのですか?

【落合さん】 技術の、スポーツ利用の可能性を調べています。スポーツをするうえで、空間認知はすごく大事だといわれていますが、測る方法も鍛える方法もあまりないのが現状です。 ボールをキャッチする訓練を行っても、現実では自由落下しているボールを取ることしかできません。しかしVRを使えば、スピードもボールの数も、重力さえも簡単に調節して訓練することができます。

ほかの政令指定都市に比べて、神戸は民間のスポーツ施設を利用する割合がとても高い。それはつまり、お金を払ってでもそのスポーツがうまくなりたいという人が多いということなのではと考え、神戸で実験を行っています。

――この特許技術で、どんな未来を目指していますか?

【落合さん】 交通事故がゼロになったらいい。現在は、視覚認知を“見える化”していますが、同じようにいろいろな脳の能力を“見える化”することができるようになると、「なりたい自分」になりやすくなるのではと思っていて。脳の能力そのものを“見える化”することが最終的なゴールではありますが、私たちが生きている間に実現するのは無理だろうとは思っています。

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視覚認知機能を“見える化“する技術で、自分の能力を知るだけでなく能力を鍛えることにまで目を向けて、よりよい未来への波を起こそうとする。落合さんは、「私たちが行っている、自分に足りないものを客観的に“見える化”することは、自分の能力・可能性をのばすことだと思っています。皆さんがチャレンジし続けることができたら、世の中がもっと楽しく明るくなるのではと思います」と話しました。

※ラジオ関西『Clip 木曜日』2024年4月4日放送回より

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