日米韓の共同声明でいよいよ「円安阻止介入」間近?…その後のさらなる円高進行の可能性【国際金融アナリストが考察】

(※画像はイメージです/PIXTA)

米ドル/円が155円近くと円安が進行するなか、先週までいまだ実施されていない「円安阻止介入」。ただし、17日の日米韓声明を受けて、いよいよ介入がいつ実施されてもおかしくない状況となった、とマネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は指摘します。介入実施により、円安が一段落する可能性について、今週の相場の展開予測を詳しくみていきましょう。

4月23日~4月29日の「FX投資戦略」ポイント

〈ポイント〉
・先週の米ドル/円は、介入不在のなか、155円近くまで一段高となったが、日米韓財務相の円安・ウォン安懸念の声明発表をきっかけに介入警戒感が再燃、155円突破は回避された。
・日米韓声明を受けて、円安阻止介入はいつ実施されてもおかしくなさそう。投機筋は大きく米ドル買いに傾斜しているため、介入実施なら円安は一段落する可能性が高いか。
・今週の米ドル/円は150~155.5円で予想。

先週の振り返り=日米韓財務相声明で介入警戒感が再燃

先週の米ドル/円は153円台での取引開始となりましたが、月曜日に発表された米3月小売売上高が予想より強い結果となり、米金利が大きく上昇したことから、154円台へ一段高となりました。その後、17日の水曜日に日米韓の財務相会合が開催され、円安とウォン安に「深刻な懸念」を示す共同声明が発表されたことから、「米ドル売り介入」への警戒感が再燃し、米ドル上値の重い展開となりました(図表1参照)。

[図表1]米ドル/円の日足チャート(2024年3月~) 出所:マネックストレーダーFX

米ドル売り介入については、米ドル/円が長く続いた小動きのレンジを上放れ、152円を大きく上回り始めたところですぐにも実施されるとの見方がありました。しかし、結果的には、155円に肉迫するまで米ドル高・円安が続いたにもかかわらず、先週まで介入は実施されなかったようです。なぜ、そうなったのか? その「謎」を解く鍵が、先週の日米韓の財務相会合にあったのではないでしょうか。

2022年に実施された円安阻止介入は、日本単独で行われたものでした。このため、今回も当初は日本単独での円安阻止介入が想定され、その場合は、2023年までの高値を更新、152円を超えたらすぐに、米ドル売り介入が実施されていた可能性が高かったといえます。

ただ韓国でも、2024年に入ってから米ドル高・韓国ウォン安が問題になってきたことから、日韓で今回のような「自国通貨安阻止での協調」といった考え方が浮上してきた可能性はありそうです。

まさに、10日に行われた韓国の総選挙で、ユン大統領の与党は大敗を喫し、ユン政権の親日政策姿勢が変更を余儀なくされるとの見方も浮上していたタイミングでした。今回の為替政策をめぐる日韓協調は、それとは逆行するものといえます。日韓の友好関係の有効性を示す狙いから、あえて日本単独の円安阻止ではなく、日韓協調の自国通貨安阻止、それに米国も連携する、今回のような形に変更したのではないでしょうか。

だとすると、日米韓の財務相共同声明発表まで、日本単独の円安阻止介入は基本的に控える必要があった、と考えられます。つまり、17日の共同声明発表により、円安阻止のための米ドル売り介入は、日本単独または日韓協調といった形で、いつ実施されてもおかしくない段階になっているのではないでしょうか? それでは、実際に円安阻止介入が実施された場合、それにより円安は止まるのか。

CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は先週16万枚以上に拡大しました。これは、2022年9月から約1ヵ月、円安阻止介入が実施されたときより、足元の円売り越しが倍近くにも拡大しているといった意味になります(図表2参照)。

[図表2]CFTC統計の投機筋の円ポジションと米ドル/円(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

投機筋が極端に米ドル買い・円売りに傾斜しているなかでは、さらなる米ドル買いの余力は限られ、むしろ損益確定売りに転換しやすい状況にあると考えられることから、米ドル売り介入で米ドル高・円安は止まる可能性が高いといえます。2022年の円安阻止介入は3回行われましたが、すべてその日のうちに最大で5円前後の米ドル急落となりました。それを参考にすると、今回155円前後で米ドル売り介入が実施された場合、その日のうちに米ドルは150円前後に急落する可能性があるでしょう。

介入後、一段と円高に向かうための「鍵」となるのは?

私は、為替介入により円安は止まり、150円以下へ円高に戻る可能性はあると思います。ただし、さらに145円を割れて一段と米ドル安・円高に向かうためには、日米の大幅な金利差米ドル優位・円劣位が縮小に向かう見通しが必要になるでしょう(図表3参照)。そしてその鍵を握るのは、「米利下げ」の可能性が現実的になることに尽きるといってもよいと考えています。

[図表3]米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

その米利下げについては、最近にかけて顕著に期待感が後退しており、「2024年中に3回」との見方から「1回あるかも微妙」な感じになってきたようです。こういったなかで、利下げへの期待も一因となり、さすがに短期的な「上がり過ぎ」への懸念が強まっていた米国株も、最近にかけて反落が広がってきました(図表3参照)。ただ私は、この株安の動きこそが、この先、米利下げが現実的になるかどうかの鍵を握っているのではないかと考えています。

[図表4]NYダウの推移(2023年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

株価は基本的に景気の先行指標の1つです。3月末まで、そのような株価の高値更新が続いたということは、景気の先行き減速をまったく想定しなかった動きといえるでしょう。そういったなかでの「利下げ期待」こそ不自然だったといえます。

NYダウは、3月末に記録した高値から、先週にかけて5%以上の反落となりました。この下落率がさらに1割を大きく超えてくるようであれば、2023年7月の「最後の利上げ」以降では、最大の株安ということになります。

それは、景気の先行指標という株価の動きとしては、景気減速を先取りしている可能性があるでしょうから、そのとき初めて米利下げに現実味が出てくるでしょう。それこそが、日米金利差の本格的な縮小にともなう一段の「米ドル安・円高」見通しの手がかりになるのではないでしょうか。

今週の注目点=日銀会合、1~3月米GDP発表

今週は、26日に日銀の金融政策決定会合が予定されています。また米経済指標発表では、1~3月期の実質GDP伸び率・速報値やFRB(米連邦準備制度理事会)が注目するインフレ指標、PCEコアデフレータの発表などが、特に注目を集めそうです。

そういったなかでも米ドル/円の行方は、円安阻止介入との攻防が最大の焦点になるのではないでしょうか。すでに述べたように、155円前後で米ドル売り介入が実施される可能性が高く、その場合、米ドルは急落する可能性がありそうです。そういったことを踏まえ、今週の米ドル/円予想レンジは「150~155.5円」で想定します。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン