『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』重田智が明かすCG制作の挑戦 新機体のモデリングに一苦労

『ガンダムSEED FREEDOM』大迫力の3DCGはこうして制作された! - (C) 創通・サンライズ

「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」最新作として、1月26日に劇場公開された『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。公開2か月後も快進撃は続き、興行収入43億2,000万円、観客動員266万人とガンダムシリーズ劇場公開作品で歴代ナンバーワンとなる興行成績を更新している。作品の大きな見せ場となる3DCGでのバトルシーンや、モビルスーツ(MS)のモデルチェックなどを担当した重田智(メカニカルアニメーションディレクター)がインタビューに応じ、本作におけるCG制作を振り返った。(数字は公式サイトより)(以下、映画のネタバレを含みます)(取材・文:編集部・倉本拓弥)

『SEED』ルックに近づけるためのモデル監修

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Q:『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の劇場公開から約3か月、作業がひと段落しての率直な感想をお聞かせください。

素直な感想は「大ヒットしてよかった!」でしょうか。公開スタートからあんな数字が出る(注:公開初日から3日間で興収10億6,500万円、観客動員数63万4,000人)なんて思ってもいなくて、本当に待っていてくれたファンの方がたくさんいたんだなと実感しました。ただSNSなどでも「面白かった」という意見がほとんどで、これが逆に怖くなってしまいましたね(笑)。制作側の人間は、どうしても観客側とは同じテンションというか熱量は一緒になれないところがあるので、実は今でもピンときていないところではあるのですが、とにかくファンの方に向けて公開できたのはよかったですね。

Q:『SEED FREEDOM』では、MSのモデルチェックやアニメーションチェックを担当されたとお聞きしています。

『SEED FREEDOM』以前にも、メカやロボットが3DCGで処理される作品が多く、立ち上げから作品に携わることも何度かあったので、どんな作業をすればよいのかまったくわからないということはありませんでした。今回、制作が始まって最初に言われたのは、 MSを俗に言う『SEED』ルック=大河原(邦男)さんのデザインからテレビシリーズのような作画で起こしたプロポーションに近い感じに、モデルを監修してほしいということでした。また、映画本編の中盤~ラストまではCGモデルチェックと並行作業で、CGカットのチェックもすることになってしまって、メカパートの作画/作監作業よりもCGパートの方にほぼかかりっきりでした。

苦戦したブラックナイトスコード&ズゴック

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Q:MSのプロポーションを整える作業において、苦労したところはどこでしょうか?

3DモデルではMSが約50体、他にも戦艦などが総出演するお祭りのような構成になっているので、出演シーンが少なくてもモデルは制作する必要がありました。CGカットのアニメーション作業もあるので、登場順が早いMSから制作していきましょうという形で、ライジングフリーダムガンダム、イモータルジャスティスガンダム、ジン、ストライクダガー等から取りかかりました。後半に登場するストライクフリーダムガンダム弍式やブラックナイトスコード カルラなどは、後半かなり追っかけで作業していきましたね。

自分的に困ったのは、モデリングをチェックする時、どういうフォーマットで確認すればいいのか全くわからなかったことなんですよ。3Dモデルの担当の方たちに、具体的にどういう指示を出せばいいのか聞いてみたところ、立体物の商品監修と同じで「人それぞれです」とか言われてしまって……。監修作業はそれぞれあって、言葉で全部説明するのか、画を描いた方がいいのか、図面に赤を入れたらいいのか、いろいろなやり方があるとは思います。自分はガンプラや METAL BUILD 等の立体物の監修作業をさせてもらった事もあったおかげで、自分の監修意図が伝わりやすい手段がある程度固まっていました。今回はそれと同じような方法で、モデリングチェックをさせてもらいました。

また、監修する物量も非常に多く、3Dカットチェックも並行作業としていたので、物理的に大変でした。もう1つは、フリーダムやジャスティスといったすでに登場しているMSであれば多少のバージョンアップした機体でも、自分の中で「こんな感じに見えたら良いかな」というイメージがあるのに対して、ブラックナイトスコードなどの完全な新規機体の場合、大河原さんのデザインから「どういう風にリライトしていったらいいのかな」と自分の中で曖昧模糊としていましたね。ブラックナイトスコードは顔にしても装甲パーツにしても完全にデザイン言語が違っているし、ズゴックはSEED系ではあまりない“あのプロポーション”が捉え所がなくて大変でした。これら既存の機体とは全く異なるので、彼らは1回や2回ではなかなか着地点に辿り着けませんでした。

キラやアスランと「イコールで見えなければならない」

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Q:終盤に登場するマイティーストライクフリーダムガンダムやインフィニットジャスティスガンダム弐式は、『SEED』『SEED DESTINY』当時のベースがあるので、モデリング作業も比較的スムーズだったのでしょうか?

3Dモデルに関しては、プロポーションやバランスのイメージが極端に変わるものでもないので、胸や肩などの装甲デザイン部分、画面上での見栄えなど、全体のバランスを取るような感じでした。プロポーションに関して言えば、フリーダムやジャスティスなどの主役機は基本的にはスラリとしていなければいけないんですよ。作中では兵器(乗り物)としてのMSですが、映像上ではキラ・ヤマトやアスラン・ザラといったキャラクターとイコールで見えた方が良いので、そういった意味合いもあってスラリとしたプロポーションとさせています。福田(己津央)監督は「このモビルスーツにはこのキャラクター」というのを当て込んで考えているので、こちらもそれに合わせるようにモデリング時に修正作業をしています。

Q:20年間「ガンダムSEEDシリーズ」に携わっている重田さんですが、20年前から変わらず意識していることはありますか?

「ガンダムSEEDシリーズ」はある意味リアル志向で独特のジャンルだと思うんですね。『SEED』の実作業が始まった2001年ごろ、福田監督に「どんなイメージのガンダムにするのか」と話をしていた時に「メカは子供たちが喜んで観てくれたらいい」と話していて、(メカ描写に対する意識は)未だにそれをベースにしています。すでに「ガンダム」というジャンルはテレビシリーズとは別に、ビデオ作品もあり、ストーリーや世界観、メカ描写や情報量などが大人たちの鑑賞に堪えるように作り込まれていました。

では『SEED』ではどんなことがやりたいのかと聞いた時、「ストーリーは『ガンダム』だから人類同士の戦争という展開で、キャラクターは以前の『ガンダム』ファンとは違う層、これから新しく観てくれる人を捕まえたい」と女性層にも支持されるようなキャラクターという感じで明確になっていました。メカについては「幼稚園生や小学生が観て喜んでくれればいい。勇者シリーズみたいな描写でいいんじゃないか」とお話しされていて、自分もテレビシリーズという時間や予算、参加してくれるクリエイターに制限があるのであれば「その方向性でやります」と、その姿勢は未だに変わっていないと思います。『SEED FREEDOM』は劇場作品なのでもう少し大人っぽくといった方向ではなく、テレビシリーズではやり切れなかった部分を補い、お金を払って映画館に観に来てよかったと思える映像をと思っていました。『SEED』的な意味でのグレードアップした感じをなんとか出せればいいかなと考えていたので、CGチームには少し(かなり? な)無茶ぶりだったかもしれませんね。

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Q:最後に、「ガンダムSEEDシリーズ」ファンに向けてメッセージをお願いします。

時間を割いて交通費を払って映画館に行き、お金を払って鑑賞することは、受動的にテレビや配信で観ることとは異なり、ものすごく能動的で自主的な行為だと思うので、何度も何度も観てくれることは本当にありがたいことです。制作側としては、制作過程や完成したクオリティに対して忸怩(じくじ)たる思いもありはするのですが、みなさんが合格のハンコを押してくださっていると思っていますので、内心ホッとしましたし、今の時代に制作した意味はあったと思っています。改めて、観てくださっている方々へ「ありがとう」と伝えたいですね。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』全国公開中

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