【4月23日付編集日記】走る理由

 消えかけた心の火を、再び燃え上がらせるものは何だろうか。教科書にも登場する太宰治の短編小説「走れメロス」の主人公メロスの場合は信頼だった

 ▼一歩も歩けないほど疲れ果てたメロスが思いを巡らせたのは、自身の到着を待つ友の存在。「間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ」。信じられているから再び立ち上がって、走った

 ▼バドミントンの桃田賢斗選手(富岡高卒)が日本代表からの引退を表明した。最盛期はどこまで行くのかと思わせるほど強かった。しかし、4年前の交通事故で負った目のけがが深刻だった。競技人生にピリオドを打つことも考えたが、再び世界一を目指す道を選んだ

 ▼ただ思うようなプレーができず、東京五輪など国際大会で結果を出せない日々が続いた。それでもパリ五輪を目指した。理由は自らの都合で一線を退くのではなく、今まで支え、応援してくれた人たちを前に諦めたくなかったからだと言う

 ▼今後は国内の大会に出場しながら、バドミントン教室などを通じて、応援してくれた子どもたちへの恩返しをしていく考えだ。日本代表は人生の通過点。福島が、全国が桃田選手を待っている。走る理由は尽きない。

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