東海旅客鉄道、リニア駅の近隣に研究拠点をオープン

__イノベーション創出促進拠点「FUN+TECH LABO」をオープンした。
様々な企業・団体が宇宙開発や次世代モビリティなどの研究で共創する場とし、先端技術による豊かな暮らしの実現を目指す。__

東海旅客鉄道(以下JR東海)は、建設中のリニア中央新幹線 神奈川県駅(仮称)の近隣地にイノベーション創出促進拠点「FUN+TECH LABO(ファンタステックラボ)」(相模原市緑区)をオープンした。

神奈川県は、2013年2月に相模原市や平塚市など県内の10市2町が「さがみロボット産業特区」として国から総合特区の指定を受けている。ここでは、住民生活の安全安心の確保と地域経済の活性化を目的とした生活支援ロボットの開発・実証実験などが行われている。そのため、「さがみロボット産業特区」には全国トップレベルのロボット技術が集結している。

こうしたロボット技術などを活用して同特区を含めた周辺地域のまちづくりをさらに促進しようと、神奈川県、相模原市、JR東海の3者は23年11月に「中央新幹線神奈川県駅(仮称)の周辺開発を契機としたさがみロボット産業特区におけるイノベーションの創出促進に係る連携と協力に関する協定書」を締結した。

「FUN+TECH LABO」はこの協定書に基づいて建設された施設で、23年12月に着工を開始し、24年3月に竣工した。施設の整備・運営はJR東海が行う。「FUN+TECH LABO」という名称には、「より良い未来を創りたい」という考えを持つ企業・団体が集い、様々な技術や知見(TECH)を掛け合わせた共創によって日々の生活のワクワク(FUN)を生み出す場所にしたいという思いを込めている。

FUN+TECH LABOの外観

建物はレンタルオフィス(7室)と会議室(1室)からなるオフィス棟、セミナーやイベント時などに使用するコミュニケーション棟の2棟で構成されており、延べ床面積は351.23㎡。建築デザインをアンデザイン(東京都渋谷区、佐々木博一 代表取締役)、構造設計を飯島建築事務所(神奈川県川崎市、飯嶋俊比古社長)、意匠設計・施工を長谷萬とアンデザイン建設工事共同企業体が担当した。

オフィス棟には、自動運転システムの開発などを行う名古屋大学発のベンチャー企業であるティアフォー(愛知県名古屋市、加藤真平 CEO兼CTO)のほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、大成建設、日本電気(NEC)、ヤマハ発動機などが入居しており、レンタルオフィスは全室満床となっている。入居企業・団体はこの施設で宇宙開発や自動運転技術を含む次世代モビリティの研究などに取り組む。

具体的には、①「無人ローバーなどの開発と、相模原市と連携した情報発信」(JAXA)、②「月面有人探査拠点の開発とまちづくりへの応用」(大成建設)、③「自動運転を含めた多様なモビリティによる移動・運搬サービスを最適化するプラットフォームづくり」(ティアフォー、NEC、ヤマハ発動機)、④「自動運転のためのインフラ協調技術の開発」(大成建設、ティアフォー)、⑤「屋外対応自動運搬ソリューション提供による工場等敷地内での作業革新の促進」(ティアフォー、ヤマハ発動機)といったプロジェクトに取り組み、先端技術による豊かな暮らしの実現を目指す。

「グラビオルーバーUSボルト固定式 新幹線再生アルミ芯タイプ」を設置した様子

JR東海・事業推進本部副部長の谷津剛也 執行役員は、「『FUN+TECH LABO』は当社にとっての『新たな挑戦』。施設を利用する企業・団体が一丸となり、住民のワクワクする豊かな暮らし(ウェルビーイング)の実現に向けて歩んでいきたい」と意気込む。

建材に再生アルミや間伐材を使用

ルーバーを大建工業などと共同開発

「FUN+TECH LABO」は、建材・構造材に東海道新幹線再生アルミや、相模原市の地域産材であるさがみはら津久井産材の間伐材を使用しており、環境に配慮した点もポイントだ。建物の柱、梁、土台など98%に津久井産材を使用しているほか、新幹線再生アルミは窓サッシなどとして使用している。

東海道新幹線再生アルミとは、廃車となった新幹線の車両から不純物を除去し、高純度のアルミ合金を抽出したもの。新地金アルミと比較して製造過程でのCO2排出率を97%削減できる。

また、オフィス棟とコミュニケーション棟それぞれの入り口天井部分に設置している内装用ルーバー「グラビオルーバーUSボルト固定式 新幹線再生アルミ芯タイプ」にも津久井産材と新幹線再生アルミを使用した。このルーバーは、JR東海グループ、大建工業、相模原市の3者が共同で開発したもの。芯材に新幹線再生アルミ、化粧材基盤に大建工業の不燃材「ダイライト」、表面化粧材に津久井産スギの突き板を使用しており、環境貢献性を高めている。

これまでJR東海は、新幹線再生アルミをネクタイピンなどとして活用してきたが、定量的な利用先として建材利用を検討していた。また、相模原市は森林循環を促進しており、間伐材の有効利用先を模索していた。こうしたなか、大建工業では環境に配慮した建材開発を検討しており、3者の思惑が一致したことがルーバーの共同開発につながった。

従来、大建工業で取り扱っていたルーバーは、芯材と化粧材が分かれており、施工時は芯材を天井下地にビスで固定した後に化粧材を後付けする必要があった。

一方、「グラビオルーバーUSボルト固定式 新幹線再生アルミ芯タイプ」は、芯材と化粧材が一体化しており、取り付けもボルトで固定するだけと非常にシンプル。取り付け作業を簡略化したことで施工性が大幅に向上し、施工時間は従来品と比較して半分程度で済むという。表面化粧材は津久井産材以外のものにも変更が可能だ。

リニューアル工事中の東急田園都市線 駒沢大学駅のホームへの採用も決まっており、今後、公共施設やオフィスなどの非住宅を中心に販売していく。「3年後の27年までに従来品ルーバーの2倍以上の売上を目指しており、非住宅の内装木質化を積極的に進めていく」(大建工業 国内製造本部長・遠藤稔 執行役員)考えだ。

なお、JR東海は、今後も大建工業と新幹線再生アルミの建材利用について協議を進めていく方針で、「FUN+TECH LABO」を通じたイノベーションの創出と共に、環境貢献への取り組みも加速させていくとした。

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