“映え”ないSNS「BeReal.」が若者に人気の理由

by 鈴木 朋子

リアルを共有するSNS「BeReal.」

SNSのために「映え」る場所に出かけ、自分を良く見せるためにアプリで「盛る」――そんな時代が変わりつつあります。若者に人気のSNS「BeReal.(ビーリアル)」は、「映え」が狙えず「盛れない」仕様でありながら、一大ブームを巻き起こしています。

BeRealは、2020年1月にフランス・パリで開発されたSNSです。「リアルであれ」の名の通り、リアルを共有するために、独自の仕掛けが用意されています。

その仕掛けとは、1日1回ランダムに送られてくる通知です。同じタイムゾーンのユーザーに一斉に送られてくる通知は、早朝のときもあれば、日中や夜のときもあります。通知が来たら、2分以内に投稿しなければなりません。投稿できるチャンスは1日1回。投稿するまで友人の投稿は見られず、1日経つと過去の投稿は見られなくなるため、誰もが投稿したくなります。

投稿できる写真は、BeRealのアプリで撮影した画像のみです。加工アプリで美しく盛った写真は投稿できません。しかも、投稿の形式は決まっており、インカメラとアウトカメラでほぼ同時に撮影した写真のみです。基本的には自撮りと自分の前に広がる風景を投稿します。

つまり、すっぴんのままで散らかった自室にいるときに通知が来てしまったら、そのリアルを投稿するしかないのです。2分以内に化粧を終えて映える場所に移動することはほぼ無理です。誰もが等しくリアルを共有するしかないSNSが実現するのです。

直近では「Roulette」機能がリリースされ、スマホに保存している写真からランダムに選ばれる写真とインカメラでの撮影を組み合わせた投稿も可能になりました(iOSのみ)。こちらも撮影した写真はすばやく流れてくるため、思い通りに投稿できるとは限りません。

「BeReal」の通知はいつも突然やってきます
投稿画面でシャッターを押すと、インカメラとアウトカメラが数秒ずれて撮影します。残り時間がカウントダウンされます
撮影したら「送信」を押します。これは、インカメラ撮影時に天井を写しました
普段は撮らないような投稿もBeRealの魅力です

とはいえ、実は2分を過ぎても投稿できます。その代わり、通知から遅れた時間が投稿に表示されてしまいます。撮影した写真が気に入らない場合はすぐに撮り直しができるのですが、撮り直した回数も表示されます。「4時間遅れ、6回の再撮影」などと表示されている投稿は、「BeRealガチ勢」として頑張っているユーザーから「日和ったな」と言われる状況です。

一方、2分以内に投稿すると、その日はボーナスとして好きな時間に写真を追加投稿できるようになります。例えば、今日は友人とコンサートに行く予定がある、といった場合は、事前に来た通知から2分以内に投稿しておけば、コンサートに行った楽しい様子も追加で投稿できるようになるわけです。

友人の投稿には、「Realmoji」やコメントで反応ができます。Realmojiとは、主に自撮りで作るスタンプです。「いいね」や「悲しいね」を表す表情で自撮りし、それを友人の投稿に使います。手でいいねを表したり、仲良しの人と撮影したりして作成する人もいます。同じスタンプを使い回さず、その友人のためだけにオリジナルのスタンプを撮ることもできます。

2023年末には「BTS (Behind The Scenes) 」という新機能がリリースされ、撮影する直前の数秒間を動画として含めた投稿ができるようになりました。さらに、親しい友人とグループを作ってプライベートなBeRealを楽しめる「RealGrops」、友人をタグ付けできる「Tagging」などの機能も追加され、ますます楽しみ方が広がっています。

授業中にも来る通知にどう対応するか

制限だらけのBeRealですが、それが若者達の心を掴む理由にもなっています。

BeRealの通知が来る時間は誰にもわからないため、いつ来るかというスリルがあります。通知が来ると「BeReal来た!」とざわざわし、今の状況でどれだけウケる投稿ができるかを考えます。

自撮りと友人たちというパターンがもっとも多いのですが、アルバイト中の控室であったり、トイレやお風呂など、普段は人に見せない様子を写すこともあります。女性は顔を写さず、手やドリンクで隠したり、マスクをつけたりするケースも多いようです。何も撮りたくない場合は、天井と床、壁と壁などを撮ります。

たまたま最高のタイミングで通知が来ると、友人とのパーティや旅行先の夕焼けなどを2分以内の撮影で披露できます。投稿を見た人達から羨望される投稿です。一方、困ったことも起きています。学校の授業中に通知が来た場合、かまわず撮影する人もいるのです。こうした行為は学校側だけでなく、生徒同士でも問題視されています。学校やアルバイト先などの写真が投稿されるケースでは、情報流出も心配です。

このように通知に振り回されることはマイナス面もあるのですが、その刺激に夢中になっているのです。

新たにサポートされた「BTS」機能では動画が撮れるので、「投げリアル」と呼ばれる投稿が流行っています。投げリアルとは、スマホを投げて撮影する手法です。スマホを高く投げてくるくると回転しながら手元に落ちる様子を撮影し、最後にキャッチして自撮りと周囲を写して終わります。この動画を上手に撮影できるかをチャレンジするわけです。スマホを壊しかねないため、勇気も必要です。綺麗に決まれば、Berealへの投稿だけでなく、TikTokなどにも共有します。

「BTS」では、シャッターボタンを押す数秒前から動画が撮影できます

Realmojiも、人気があります。変顔の友人、友人のいいねポーズ、自分だけのために撮影してくれた友人の顔など、自分の投稿に友人の顔があふれると幸せな気持ちになれますね。

BeRealの公式サイトによると、通知は「リアルで、フィルターを通さず、本物であるための合図です」と定義されており、「わずか2分の通知で、あなたとあなたの友人が日常生活の本物の瞬間を共有できるようになります」と記載されています。BeRealが作った制限により、誰もが平等な条件で、今を共有できるのです。

また、SNS疲れをしている人にもありがたい仕様です。BeRealでは繋がっている人の数は表示されず、Realmojiの数もわかりません。「友達よりも人気がない」と気に病む必要もなくなります。映えている投稿を見たとき、一般的なSNSであれば「あざとい」とイライラするかもしれませんが、BeRealなら「こんな投稿ができてすごい」と素直に称賛できます。

SNSに疲れた若者が楽しめるゲーミフィケーション、それがBeRealの魅力なのです。

公式アカウントやイベント機能で友人以外ともリアルを共有

親しい友人とリアルを共有するBeRealですが、2024年に入ってからは著名人や企業とのコラボレーションを始めています。

公式アカウント「RealPeople and RealBrands」は、著名アーティスト、ブランド、スポーツチーム、大学などが利用する機能です。海外では、ワン・ダイレクションのナイル・ホーラン、ジョナス・ブラザーズのジョー・ジョナスなどのアーティストをはじめ、Pumaなどのブランド、Boston Red Soxなどのスポーツチーム、UCLAなどの大学がアカウントを開設しています。

国内では、YouTuberのコムドットやまと、アーティストのNovelbright、プロ野球読売ジャイアンツの山瀬慎之助選手、スケートボーダー 星野凛乃選手がアカウントを開設しています。

コムドットやまとをはじめ、公式アカウントを持つ著名人やブランドが増えています

公式アカウントといっても、通知が来る条件は同じ。公式アカウントを追加し、Realmojiなどでリアクションを続けると、「RealFan」になれます。RealFanは限定コンテンツが見られる、コメントができる、特別なコンテンツが見られるなどの特典が得られます。

また、4月12日から「RealEvents」がリリースされました。これは、イベントの特設ページが開設され、イベントの主催者や参加者、イベントを見ている人などでリアルを共有する機能です。

同日から開催されたアメリカの音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」では、イベントページにイベントの舞台裏や、参加している観客のBeRealが投稿されています。会場の外にいる一般ユーザーも、同じ時に何をしているかを共有しています。イベント終了後のリキャップ動画では、数多くのBeReal投稿がまとめられていました。続いて、Diorの秋冬コレクション「Dior Fall 2024 Show」も開設されており、盛り上がりが伝わってきます。

「コーチェラ・フェスティバル」でのRealEventsでは、同じ時を共有し合えました

BeRealは現在、広告やサブスクリプションなどは行なっておらず、このような著名人や企業との協業により、収益を得る方向性を探っているのかもしれません。

商業化されるとBeRealらしさが失われそうですが、親しい友人だけと繋がっていれば、特に変わることなく楽しめるため、依然人気は続きそうです。大人にとってはハードルが高いかもしれませんが、まずは公式アカウントと繋がるために使い始めても良さそうです。

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