車窓彩るツツジ守る 岩国市の男性、亡き父の思い受け継ぎ世話 錦川鉄道錦川清流線

敏さんと植えたツツジを守る司さん㊨と敏子さん

 鉄路を走る列車の窓から赤いキリシマツツジの咲く山が見える。山口県岩国市の錦川鉄道錦川清流線の南河内駅付近。地元の会社員神本司さん(53)が、2年前に80歳で亡くなった父の敏(さとし)さんと25年前に植え、沿線を彩る風景になった。「おやじとやってきたことは続けるから」。父と生前に交わした約束を守っている。

 実家そばの山ののり面に、花木が好きだった父とツツジの苗木数本を植えた。一緒に園芸雑誌で勉強し、挿し木や株分けをして苗木を育てた。年々面積は広がり、今は300坪で約300本を栽培している。

 敏さんは齢を重ねるにつれ、急な斜面での作業がつらくなった。春先から秋にかけて毎月の草刈りや苗木の植え付けは司さんの仕事になった。夏場は大雨に打たれたように汗をかきながら約5時間、草刈り機を操る。ツツジが咲き誇る春になると、家族や友人と花見をするのが親子の楽しみだった。

 敏さんは世話好きで明るい性格だった。妻敏子さん(76)と地元のグループ「南河内むらづくり塾」に加わり、南河内駅前を菜の花でいっぱいにしてきた。自治会長を長年務め、地域のにぎわいづくりに積極的に取り組んだ。

 2022年6月、1年の闘病生活の末に亡くなった。がんだった。手術せずに自宅で家族と過ごした。葬儀では、家族や友人が棺に寄せ書きをして送った。亡くなる少し前、司さんは敏さんに伝えた。「ツツジは続けるから」。小さくうなずいてくれた。

 昨春、錦川清流線の列車に乗った山口県外の観光客2人が車窓からツツジを見て、駅から約500メートル離れた実家を訪ねてくれた。司さんは高校時代、坂上高(現岩国高坂上分校)の通学に錦川清流線を利用していた。存廃の岐路に立つ赤字路線の沿線を彩る風景になっていると再認識した。

 敏さんはツツジの山のすぐ下の墓に眠る。15年前、「この場所で墓に入りたい」と山腹の墓地から移していた。司さんは「清流線のお客さんも地域の人も喜んでくれるのがうれしい。おやじも安心してくれているだろう」。体力が続く限り父とのツツジを守っていく。

© 株式会社中国新聞社