『デススト』『ゼルダ』『マイクラ』も? “大衆向け”に留まらない注目のゲーム原作作品

人気ゲーム『Fallout』の実写ドラマが4月11日よりPrime Videoで配信され、開始から4日間で同サービス内で最も視聴された作品のトップ3入り。1週間足らずでシーズン2の制作が決定するなど、ヒットを叩き出している。原作ゲームには25年以上の歴史があり、配信前からファンは温まっている状態。この好成績は、その熱が一気に弾けた結果といえるだろう。ドラマファン的には『ダークナイト』『インターステラー』『ウエストワールド』のジョナサン・ノーランがエピソード監督を務めたことも興味をそそられた要因かもしれない。

もう一点、技術の発達等々さまざまな理由はあるだろうが、ゲームと映画の距離がより近くなってきた時代的な流れもあるように感じられる。『名探偵ピカチュウ』『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の世界的ヒット、『ソニック・ザ・ムービー』のシリーズ化、MCU版『スパイダーマン』シリーズで一世を風靡したトム・ホランドが主演した『アンチャーテッド』、変化球ではあれど『グランツーリスモ』『レディ・プレイヤー1』『フリー・ガイ』『シュガー・ラッシュ』もゲームから派生した映画とはいえるだろう。もちろん、これまでにも『トゥームレイダー』や『バイオハザード』等、ゲーム原作のヒット作は輩出されたが、ここまで立て続いてはいなかった印象だ。

そういった意味でも「ゲームの映画・ドラマ化」はここ10年弱のトピックのひとつといえるが、こうした流れはテレビゲームに留まらない。ボードゲームの映画化といえば『ジュマンジ』があったが、今度はマーゴット・ロビーの製作会社が『モノポリー』実写化に乗り出した。なお同社は『ザ・シムズ(シムピープル)』の実写化も着手するそう。意外性というところでは実写版『マインクラフト』がジェイソン・モモアやジャック・ブラックの共演で進行中。『Ghost of Tsushima』や『ゼルダの伝説』といったヒット作の実写化もアナウンスされており、この先ますます量産体制に入っていきそうだ。

このような動きで注目したい点が、二つある。一つは制作体制について。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は任天堂がイルミネーションと共同制作を行い、任天堂内に映画用のチームを編成。イルミネーションサイドと毎週のように会議を繰り返しながら精度を高めていったという。日本版は脚本を変えるなどの気合の入りようで、原作ファンのハートもつかんだ形だ。同作の成功を受け、任天堂とイルミネーションはさらなる『スーパーマリオ』映画プロジェクトを発表。実写版『ゼルダの伝説』においても任天堂自らが制作を行う。

そもそもゲームの映画化が加速した理由の一つに、IP(知的財産)の側面がある。日本においては漫画の実写化がイメージしやすいかと思うが、元々多くのファンを抱えている作品のメディアミックスは話題性や興行面での成功、シリーズ化が期待できるため、既に売れている作品の映像化権を取りに行く傾向にある。映画にしろドラマにしろ大金が動くため、作ってみなければ反応がわからないオリジナル作品は、リスクが高いという判断だ。ただこれは諸刃の剣で、元々のファンや原作者からすると「銭より心」になるのは必定。そもそももう完成されているものに後から映像化が付いてくるわけで、クオリティが担保されなければ認められないというのは自然な感情といえる。そうした中で、「IPの映像化を自ら手がける」を標榜する任天堂の動きは、安心材料といえるだろう。

任天堂にとどまらず、小島秀夫率いるコジマプロダクションも興味深い発表を行った。同社が生み出したゲーム『DEATH STRANDING』実写映画化において、あのA24と国際共同製作契約を締結したのだ。A24とは『ムーンライト』や『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を送り出し、設立10年で一大ブランドの地位を確立した製作・配給会社。A24へ映画化権を独占的にライセンスし、共同で作り上げることーーうがった見方だが、これはただガチガチに管理するのではなくクリエイターの作家性を尊重する、という宣言にもとれる。実際に小島は「ゲームを映画に置き換えた、ただのトランスレーションではない。ゲームのファンだけが満足するのではなく、映画ファンも唸るようなものになるはずだ」とコメントしており(※)、IPビジネスの懸念点である「原作を大事にしすぎてクリエイターの個性が死ぬ」部分への救済措置ともいえる。

そもそも小島監督の作品において、映画/ゲームといった境を語るのは野暮だ。『DEATH STRANDING』でノーマン・リーダス、レア・セドゥ、マッツ・ミケルセンといったスターを起用し、続編『DEATH STRANDING 2』にはエル・ファニングや忽那汐里が出演予定。『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督と新作ゲーム『OD』の開発にも乗り出した。こちらには『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のソフィア・リリスらが出演する。

制作体制の変化、そしてもう一つは評価の部分にも注目したい。先述の通りゲームの映像化は興行的な成功を狙ったものが多く、必然的にド派手なブロックバスター作品に偏る傾向があった。雑な言い方をしてしまえば「大衆向け」のエンタメ性を重視した作品が中心で、となると「数字」は取れても「評価」の面ではまた違ったものになる。もちろん数字を取れているということは評価されている証でもあるのだが、横軸的な一過性の消費ではなく、縦軸的な映画/ドラマ史における地位の確立をできてきたかというと、また別軸だったといえるだろう。しかし近年は、そうした棲み分けが崩れてきている。

その好例が、『THE LAST OF US』だ。生みの親であるニール・ドラックマンが『チェルノブイリ』のクリエイター、クレイグ・メイジンと組み実写ドラマ化した本作は、ドラマ界のアカデミー賞といわれるエミー賞にビデオゲームの実写化作品として初のノミネートを達成。しかも作品賞(ドラマ部門)、主演女優賞、主演男優賞など24ものノミネートを獲得したのだ。本作はエピソード監督に『デアデビル』『アンブレラ・アカデミー』のピーター・ホアー、第71回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ受賞作『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシら辣腕クリエイターを起用。ペドロ・パスカルとベラ・ラムジーという『ゲーム・オブ・スローンズ』出演者の演技も高く評価され、第3話では原作ゲームの登場人物を別視点&別ストーリーで描き、「感動的」と絶賛を浴びた。すでにシーズン2の撮影も始まっており、さらなる飛躍に期待が高まる。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』『THE LAST OF US』そして『DEATH STRANDING』。三者に共通するのは、IP保有者が原作愛をしっかりと打ち出しながら他者の作家性を尊重しつつ、映画ならではのクリエイティブを生み出そうとしていること。この要素は『THE FIRST SLAM DUNK』『BLUE GIANT』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』といったアニメーション映画にも共通するものであり、今後のメディアミックスの成功ポイントとしてより重視されていくはずだ。

参考
※ https://www.kojimaproductions.jp/ja/A24-announcement
(文=SYO)

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