大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

松井(右)と大谷(C)ロイター/USA Today Sports

大谷のこだわりは野球だけ

「こだわり、じゃないですかね。野球だけにこだわる大谷に対し、松井は他にもこだわりがあったように思う」

こう言うのは米紙コラムニストのビリー・デービス氏だ。

大谷翔平(29=ドジャース)が、日本時間22日のメッツ戦でメジャー通算176本塁打となる5号2ランを放ち、松井秀喜が持つ日本勢最多本塁打記録を更新した。この2人のメンタリティーの違いを、デービス氏は「こだわり」とみているのだ。

「大谷のこだわりは野球だけです。ニューヨークに行っても、ホテルと球場以外にいたことがないというのですから。そこへいくと松井は、例えば食べ物やコーヒーなどの嗜好品にも強いこだわりがあった。オフに帰国する大きな楽しみは新鮮な魚介類を食べることだったし、コーヒーに関しては豆や入れ方にまで凝っていましたから」(デービス氏)

同じ日本人の長距離打者ながら、2人の考え方やスタンスの違いは「こだわり」に限らない。それは球団選びやプレースタイルにも表れている。

松井がヤンキースを選んだ理由は、「(ファンやメディアも含めて)厳しい環境にいた方が自分は力を発揮できる」からだ。巨人時代は遅刻の常習犯、米球宴にも遅刻したほどだけに、シビアな場所でこそ自分を律することができると判断したのだろう。

「勝利のためにプレーすることが結果として自分の成績につながる」と、チームの勝利を何よりも優先した。そこには自己犠牲の精神というか、慎み深さがあった。

2003年、本拠地のヤンキースタジアム1号となった満塁本塁打は「犠飛狙いで高めのボールに目付けをした結果」だった。

ヤンキース4年目の06年5月、左翼守備で左手首を骨折。巨人時代から続いていた連続試合出場記録が「1768」で途切れたときには、「チームに迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪したことが話題になった。

懸命にプレーした結果のケガ、自分に非があるわけじゃないのに、なぜ謝る必要があるのかとニューヨークメディアに報じられた。

根底にあるのは二刀流をこなし、かつチームが勝つこと

そこへいくと大谷は個人主義に徹している。最初にエンゼルスを選択したのは、東海岸に比べて球団もファンもメディアも気候も穏やかだから。当初はメジャーで二刀流を貫くことが最優先、自分のパフォーマンスを長い目で見てもらう必要があったのだ。

二刀流として頂点を極めると、「ヒリヒリした9月を過ごしたい」と思うように。10年総額1000億円超のプロスポーツ史上最大の契約で、11年連続プレーオフに進出中のドジャースに移籍した。

根底にあるのは自分が打って投げて二刀流をこなし、なおかつチームが勝つことだ。二刀流を貫くにあたっては、波紋も生じる。他の先発投手のローテーションがズレることがあれば、打者としては他の野手の休養の場でもあるDHを独占することになる。が、本人にそれに対する抵抗はまったくない。

元通訳の水原一平容疑者の賭博スキャンダルを受けて会見。質疑応答なしで話したときは、「お騒がせして申し訳ありませんでした」「迷惑をかけました」という日本流の常套句もなし。「謝ってはいけない」という代理人サイドの助言があったのかもしれないが、かつての相棒を何度も「ウソつき」呼ばわり、あくまで自分は100%被害者というスタンスを通した。

ドジャースとの契約時に年俸の97%を後払いにしたことが話題になった。30球団の戦力均衡を目的とした課徴金制度(ぜいたく税)の網の目をくぐり抜ける、制度の趣旨に反する手法ながら、「よくぞ思いついた」と米国中から称賛された。

大谷はいまや、考え方もアタマの中身も完全な米国人だ。175本打つのに1236試合を費やした松井に対し、打者として725試合目で176本に到達した。野球だけにこだわりを持ち、米国人的なスタンスを貫いているからこそ、メジャーで頂点に立てたし、ゴジラの記録もアッサリと塗り替えられたに違いない。

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そんな大谷は元アスリートだった両親の元、出産に関わった看護師から褒められるほど「ずいぶんしっかりとした顔つき」で生まれたという。

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