専門は魚だったのに…白羽の矢立った新人、奮闘20年 飼育技術は特許取得 東武動物公園「ほたリウム」

リニューアルオープンした「ほたリウム」をマスコット「カミナガさん」と紹介する東武動物公園の神長正さん

 埼玉県宮代町の東武動物公園で、劇場型ホタル観賞空間「ほたリウム」が3月にリニューアルオープンした。飼育担当の神長正さん(43)は入園来20年以上に渡り、ホタルの飼育に携わってきた。ホタルが羽化せず休館を余儀なくされたことも。苦闘の末、開発した技術は特許を取得するまでに。

 2004年、同園に新設された「ほたリウム」。日本固有のヘイケボタルを飼育繁殖し、世界初、1年を通してホタルを観賞できる空間としてオープンした。

 当時、担当に入社して間もない神長さんに白羽の矢が立った。神長さんは「専門は魚。ホタルについてはまったく知らなかった。何もかも初めてだった」と振り返る。

 3年目、急にホタルのサナギが羽化しなくなった。原因が分からない。園と検討し、1匹でも水槽にホタルを放てる日は施設を開館した。しかし、ついにホタルが死滅し、休館を余儀なくされた。施設も神長さんも信頼を失った。そんな中、あきらめず神長さんを支えたのは、当時の上司。毎週末、ミーティングを開き、羽化しない理由を分析した。「なぜと問い詰められる繰り返し。辛かったが、あの時の経験がその後に生きた」

 春日部市の自宅にホタルの栽培環境を整備。家に帰ってもホタルの飼育に没頭した。「飼育管理を徹底的にやらないと駄目。エサを管理し水を育てる。ひたすらいろんなことを試した」

 飼育の鍵はホタルの羽化を促す「羽化床」。水辺空間に水没せず水質、湿度を保ち、害虫の侵入を防ぐ、そんな資材が求められた。ある時、ホームセンターで売られていた軽量ブロックに目を付けた。壊れにくく、主成分となる軽石や石灰水は水質安定や湿度を保つ効果が期待できた。水槽の中に置く位置を工夫し害虫の侵入を防ぐことができた。年間を通じて安定的にホタルを飼育することに成功した。    18年、同園は神長さんの実績を踏まえホタルの飼育技術で特許を取得。利用者数、売り上げも回復。

 「ほたリウム」入り口前には、キャラクター「カミナガさん」が鎮座する。園は20年がかりの執念と情熱を燃やした神長さんそのものをマスコットに。「ホタロウくん」「ホタコちゃん」とともに、モニュメントを制作した。

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