【西村英丈の次世代人事コラム】第3回 インタープレナーは「社会起点」で動く

アントレプレナー(起業家)でもなく、イントレプレナー(社内起業家)でもないインタープレナー(越境・共創型イノベーター)は今、新たな価値観として、ビジネスパーソンの働き方に大きな影響を与えようとしています。

これまで越境という文脈でインタープレナーを捉えたときに、副業解禁などにスポットを当てた議論が多く、一部の人の働き方ということでしか、考えられておらず、体系的にインタープレナー人材としての定義や、その育成方法も定義されてきませんでした。インタープレナーは、単に副業やパラレルワーカーなどの越境人材を指すのではなく、「社会起点」であることが大きな違いです。

日本の経営学の草分けである野中郁次郎氏、紺野登氏が発起人となり創設した「トポス会議」[^undefined]。2022年に開催された第16回目のテーマは、「新生命産業の共創~構想力が築く未来」であり、そのなかでもインタープレナー人材の重要性が議論されました。

トポス会議では、イノベーションは境界線を越えた「交流点」に生まれ、インタープレナーになるためには、新しいトレンドやリスクをデータ分析すること、ランダムさやセレンディピティ(偶然の産物)も重要だとしていました。そして、生物学や物理学、建築学、医学など、境界線を越えていろいろな分野が交流することで、自分の専門分野ばかりに特化していては考えつかないような、ひらめきが生まれるのだと議論されました。

そのようなインタープレナーシップは学校のカリキュラムで身につけられるものではなく、常にさまざまな場面に身を置くこと、多様なプロジェクトに参加してチャンスをつかむことが大切です。

こうしたインタープレナーを育成するための取り組みは世界中で行われていますが、日本で取り組まれている事例の一つを紹介します。

インタープレナー人材としての一歩を踏み出すには、「視座、方法論、マインド」の3つが重要になります(図1)。

図1 インタープレナー実践プラグラムの特徴(出典SUNDRED)

まず、「視座」は、少し先の社会を見つめる視点が必要です。そして、実現したい未来を核に、社会課題の解決策を構想していく「方法論」を体得し、自分事化することでインタープレナー人材になることができます。

そのなかでも、自分事化する「マインド」は最も重要です。

例えば、昨今の教育現場においては、自分の意志が不明瞭な状態で、受験するために勉強している学生は多いのではないのでしょうか。本来は意志を持った自発的な学びの先に受験があることが理想的だと思いますが、実際のところは受験(評価)のために何となく勉強をしている(させられている)、というケースも少なくないのではないでしょうか。

図2 現状のキャリア課題(筆者作成)

受験の話に限ったことではありませんが、このような「主体性なき選択」は、「こうあるべき、こうしなくてはならない」といった客体的なものから発生することが多いと思います。本来は内発的動機から主体的に選択できることがいいでしょう。

内発的動機によるマインドセットはとても重要で、企業人であれば、企業と個人のパーパスの重なり合いが不可欠です。そのために、個人のパーパスの実現・実行に向けた暮らしや働き方を企業が一気通貫してサポートするような仕組みが必要です。人事機能であれば、採用、育成、評価などの各項目が連続して機能し、一人一人が在りたい姿を実現できるような仕組みである「HRイネーブルメント(enablement)」の状態を構築する必要があります。その状態を作り出すためには、企業の仕組みづくりに加えて個人が、「インタープレナーシップ」を備えている必要があります。

次に筆者が感銘を受けた、インタープレナーシップから実践された例を紹介し、そのインタープレナーシップ性について考えてみたいと思います。

愛知県に拠点を置く「久遠チョコレート」。創業者であり代表の夏目浩次氏は、もとは都市開発の仕事をされていました。インクルーシブデザインの推進を試みる中で、経済合理的な制限などに違和感を覚え始め、 経済合理的な社会の不自然さに気づき、行動された方です。 その後、ベーカリーを開業してチョコレート事業を立ち上げていくわけですが、筆者は、その過程がまさにインタープレナーとしての行動であったと思います。

久遠チョコレートは、障がい者雇用を積極的に行っていることでも知られていますが、「障がい者雇用」に問題意識を持ったのは、「障がい者の平均月給は1万円」という事実を知り衝撃を受けたことがきっかけだったそうです。そこから「障がい者に最も適した仕事は、失敗しても溶かしてやり直せるチョコレート作り」だと考え、久遠チョコレートの立ち上げに至りました。私は夏目氏がインタープレナーとしての視点をお持ちだと感じました。まさに「社会の課題に対して何かできることはないか」と考えて行動されていたからです。新しいチャレンジにより、人々にサービスを提供すると共に障がい者の方の活躍の場をつくりだし、同社が表明する通り「これからのあるべき姿を表現」しています。

このように、「問いをたてる」という能力は、インタープレナーの思考が連鎖する、いわば「はじまりの合図」として大切なことです。問いを立てるということは、まず、在りたい姿や状態があることで、目標と問いは表裏一体なのです。例えば、「ごみ一つない街にしたい」という思いがあることで初めて、問いとして、「ごみ一つない街にするにはどうしたらよいか?」という在りたい姿・状態が生まれます。つまり、その問い(目指したい姿)を創るのはその人自身なのです。

図3 インタープレナー人材育成のプログラムの特徴(出典SUNDRED)

筆者は、日本にインタープレナーシップを広めるべく、今日、2024年4月23日に一般社団法人インタープレナー協会を設立しました。インタープレナーについて学ぶことができるe-Learning「Interpreneur for Everyone」を提供し、「インタープレナー」のエッセンスを働く世代の方のみならず中高生や高齢者の方、全世代の方に広げていきます。日本で、知のダイバーシティを推進し、SDGs時代、さらにその先の2030、2050年のリジェネラティブな社会を創り出すうえで、必要不可欠なインタープレナー人材育成の仕組みを一般化していきたいと思います。

【西村英丈氏のコラム】
僕たちがつくる、次世代の人事モデル

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