“4月期1強”『アンチヒーロー』で日本は「20年先を行く」韓国を追えるか 『セクシー田中さん』問題にも通ずる映像制作の根本

※画像はTBS日曜劇場『アンチヒーロー』 公式X(旧ツイッター)『@antihero_tbs』より

長谷川博己(47)主演のTBS日曜劇場『アンチヒーロー』(毎週日曜日夜9時~)。4月21日には第2話が放送され、大きな盛り上がりを見せている。

『アンチヒーロー』は長谷川演じる明墨正樹(あきずみ・まさき)ら弁護士チームが、有罪率99.9%と言われる日本の刑事裁判において、被疑者の無罪を勝ち取る物語。第1・2話は勤務先の社長を殺害した罪に問われている町工場の社員・緋山啓太(岩田剛典/35)の裁判が前後編で描かれた。

第2話の視聴率は後編ということで注目度も高く、世帯12.8%、個人7.8%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)。第1話の世帯11.5%と個人7.0%から右肩上がりの数字となった。

「現在、テレビ界が最重要視している13歳から49歳のコア視聴率も第1話は4.5%と非常に高く、4月クールの連続ドラマの中では断トツの高数字となっています。数字面ではすでに“1強”状態。

肝心の中身も、やはり面白いですね。”2話のラスト10分に衝撃の新展開がある”という煽り文句があったのですが、その通りで驚きの展開でした。そこに至るまでのシナリオの流れも目が離せなくて、調査パートも裁判パートも見応え抜群で、次回につながるエピローグも完璧でしたね。

本作は堺雅人さん(50)主演で社会現象を巻き起こした23年7月期の日曜劇場『VIVANT』の飯田和孝プロデューサーが企画したオリジナル作品ですが、俳優だけでなく制作陣もまさに『VIVANT』級。“ドラマ最強のTBS”の本気を感じさせるクオリティで注目を集めています」(テレビ誌編集者)

そのクオリティの高さは、たとえばVFX(視覚効果)にも表れている。『VIVANT』は戦車の砲撃で岩肌が破壊されるリアルなVFXが用いられたが、『アンチヒーロー』はさらに凄い。ロケ先で撮影した廊下から、TBS緑山スタジオ内に作られたセットに入るまでに“つなぎ目”が全く感じられず、説明されても分からないほど自然に映像が合成されているのだ。

また、本作は脚本が『VIVANT』にも参加した山本奈奈氏、李正美氏、宮本勇人氏の3人と福田哲平氏の4人体制となっているが、飯田プロデューサーが脚本の制作工程を明らかにしていて、その手法が注目を集めている。

■“ハリウッド方式”で『アンチヒーロー』の脚本はできている

4月22日、飯田プロデューサーはX(旧ツイッター)で《最初に70ページほどの全話のアウトライン》を作っていて、すでに最終話までの脚本も完成していると明かしている。

「1人の脚本家が全話を書くのではなく、4人の脚本家がみんなで1つのエピソードを書き上げる、という“ハリウッド方式”のやり方です。『アンチヒーロー』の第1・2話は4人の名前がしっかりクレジットされていましたね。

第3~5話は担当制で、そこからはまた全員で練って、脚本を作ったそうです。さらに、最終話の脚本を受けて、第1話の脚本にセリフを追加したことも明かしています。とにかく脚本が重要、ドラマは脚本ありき、ということが伝わってきます。このやり方は、映像業界ではハリウッドからも高く評価される韓国でも行なわれていますね」(制作会社関係者)

『海月姫』や『東京タラレバ娘』など実写ドラマ化作品も多い漫画家の東村アキコ氏(48)は『東京新聞』(4月6日)のインタビューに、漫画『私のことを憶えていますか』が韓国で実写ドラマ化されることになった際のエピソードを話している。

東村氏は、韓国から原作を読みこんだ脚本家が4人やって来て、4時間缶詰めにされて質問攻めにあったと明かしている。セリフ1行1行について背景を質問され、途中、東村氏が任せる意向を見せると、《先生そんなんじゃ駄目です。先生の世界観、思いをしっかり反映したいんです》と原作へのリスペクトあふれる熱い思いを示されたという。

同インタビューは、芦原妃名子さん(享年50)の漫画作品『セクシー田中さん』(小学館)の実写ドラマ化(日本テレビ系/23年10月期)を巡る、望まぬ原作改変の末の不幸を受けてのもの。当初、東村氏には《自分が何を言っても脚本は、テレビ向けに変えられてしまうという諦めもあった》というが、前述の韓国の制作陣との経験を経て考えが変化したという。

東村氏は、同じインタビューで、韓国では出演俳優や配信媒体を決めるより先に、4話分の脚本を先に作るということも話している。

「『セクシー田中さん』問題を受け、日テレも改善に動いています。特別調査を行ない、『セクシー田中さん』以外も、過去に放送された漫画原作のドラマ作品の関係者からヒアリングをしていることを明らかにしています」(前同)

■鈴木亮平「お隣の韓国に20年くらい差を開けられちゃった」

前出の制作会社関係者は続ける。

「今後は『セクシー田中さん』のようなことが起きないように、制作過程は大きく変化していくのででしょうが、これまでは、やはり局の都合が一番だった。

“俳優の都合”や“スポンサー企業への配慮”、“予算・スケジュール面”、もちろん“ドラマとして分かりやすく”というものもあったでしょうが、原作者の同意を取らず進められたものは多数あるでしょう。それは、東村さんの発言からも明らかですよね。

そして、そこから感じられるのは、日本のドラマにおいて、脚本のプライオリティ、優先順位が低いことですよね。局の都合や予算、出演俳優のスケジュールなどの方が優先されてしまうと。

一方、ハリウッドや、世界中で多くのファンがいる韓国ドラマは、まずは脚本ありき、ということですね」

ハリウッドのやり方を学び、急成長を遂げ、今や世界で高く評価される韓国ドラマ。それに対して、日本のドラマは国内に向けて作られ続けてきた。日本のトップ俳優である鈴木亮平(41)は、3月31日放送の『だれかtoなかい』(フジテレビ系)で、日本の現状を「海外に、たとえばお隣の韓国に20年くらい差を開けられちゃった」と表現している。

「世界のドラマ制作では、出演俳優が誰かというよりも、とにかく面白い脚本を作ることが第一になっている。それを日本国内でようやく本格的に着手したのが、今回の日曜劇場『アンチヒーロー』ということではないでしょうか。

日本も人口減少が進み、国内の市場はどんどん小さくなっています。同時に、配信の登場で世界の作品が見られるようになった。ドラマ好きは配信で世界のドラマを楽しんでいて、わざわざつまらない日本の地上波のドラマを見る必要はなくなった。かつてと比べて、連ドラの視聴率が大きく下がっていますが、それは、環境的に仕方のないことですよね。

『アンチヒーロー』は各話放送後にNetflixで順次配信されていますが、“ハリウッド方式”で作られている同作が意識するところは、日本の他のドラマや、ましてや同時間帯にやっているバラエティ番組ではなく、世界のドラマコンテンツ、ということになるのではないでしょうか」(前同)

2020年にプロトタイプの企画が作られ、4年越しにドラマ化されたという『アンチヒーロー』。同作が日本のドラマ制作に与える影響は、どのようなものなのか――。

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