クラウド基盤(IaaS/PaaS)サービス市場に関する調査を実施(2024年)~2023年のクラウド基盤サービス市場は前年比120.5%の1兆9,400億円、クラウド基盤上で生成AIの活用に取り組む企業が増加~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内のクラウド基盤(IaaS/PaaS)サービス市場を調査し、現況、クラウドベンダ動向、新サービス普及状況、将来展望等を明らかにした。

1.市場概況

2023年のクラウド基盤(IaaS/PaaS)サービスの市場規模(事業者売上高ベース)は、前年比120.5%の1兆9,400億円と推計する。市場はこれまで通り、業務上のデータ・システム等の既存要件を維持しながらほかの環境への移行または新規システムに乗り換えるマイグレーション案件が中心であるが、その対象となる領域が情報系システムから基幹系システムへと広がり、市場の成長を支えた。また、概して産業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)に対する関心も衰えてはいない。業務効率化のためのDXから競争力向上を目指すDXへ対象が広がり、戦略的なDXから実践的なDXに進展したことが市場の伸びにつながった。

さらに、2023年は生成AIが高い注目を集めた。これを契機に落ち着きをみせていたAIの活用も見直され始めている。特に生成AIは手軽に利用できるため、ビジネス用途への有効活用を模索しているユーザー企業は多い。また、クラウドベンダをはじめとするITベンダはそうしたユーザー企業のニーズに応えられるよう、自社で生成AI活用してノウハウの蓄積を進めている。生成AIが市場に与える影響は今のところそれほど大きくはないが、こうしたトレンドも市場の成長要因になった。

加えて、クラウド基盤の運用を支援するクラウドマネージドサービスの認知拡大による同サービスを利用するユーザー企業の増加、同サービスメニューの拡充により、ユーザー企業にとってクラウドを利用しやすい環境が整いつつあることも市場の成長を後押ししている。

2.注目トピック~生成AIが新たなビジネスチャンスに

2022年11月に登場したChatGPTは、あたかもAIと会話できているかのような新たな体験をもたらした。生成AIは直感的に使える手軽さもあることなどから急速に関心を集め、実際にビジネス用途についても模索が始まっている。

生成AIの技術には基盤モデルと呼ばれる、一般化された膨大なデータによってトレーニングされた機械学習モデルが利用される。大手クラウドベンダは、基盤モデルや機械学習モデルの開発、各種モデルを組み込んだアプリケーションの開発が可能なプラットフォームを提供し、さらには、対話型AIチャット機能やユーザーの業務をサポートするAIアシスタント機能などを既存サービスに組み込んで提供している。

またユーザー企業では、対話型AIの活用は現時点でセキュリティ環境下における運用が重要視されている。そのためにまずは、生成AIとの対話によるアイデアの整理や議事録の作成・要約などの自社内の限定的な領域で、生成AIの活用を進めている。一方で、生成AIの自社外でのビジネス利用については、様々な活用事例を参考にするなど、様子見の状況にある。こうしたなか、各所で進められている指針やガイドライン策定は、ユーザー企業のより積極的な利活用を促すためには必要であるものと考える。

3.将来展望

クラウド基盤(IaaS/PaaS)サービス市場は、今後も順調に成長していくと予測する。その要因のひとつが、過去の技術や仕組みで構築され、最新技術の適用が難しいといわれるレガシーシステムの刷新である。経済産業省が2018年に「DXレポート」で指摘した、レガシーシステムによりDXの遅延や経済損失などが引き起こされる「2025年の崖※」も迫っており、レガシーシステムの刷新を考える企業は今後も増加していくとみる。

一方で、ユーザー企業内ではDXやデータドリブン経営(勘や経験に頼らず、蓄積・収集したデータをもとに意思決定を行う経営手法)に対する関心も引き続き高い。特にDXは単なる業務効率化ではなく、競争力向上の観点から実践レベルで進んでいるが、DXとデータドリブン経営の連携なくしては最大の効果は得られないと考える。これに伴う投資は、企業の経営戦略に直結し、今後の本市場の成長を牽引していくとみる。こうしたなか、各クラウドベンダ事業者は、ユーザー企業に対しDXやデータドリブン経営を意識したシステム刷新に関する提案を行っていく必要がある。

※参照:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(平成30年9月)

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