きらぼし銀行と中央大学がタッグ結成。「スポンサーではなく、パートナー」

すべての写真(3)を見る

スポーツに造詣が深いきらぼし銀行と中央大学が強力タッグを結成。きらぼし銀行は首都圏を基盤とする銀行だ。「金融にも強い総合サービス業」を将来像に掲げ、ブランドスローガン「TOKYOに、つくそう。」のもと、20社を超えるグループの総合力を最大限に発揮して、地域やお客さまの課題解決に取り組んでいる。そして、きらぼし銀行は、スポーツを通じて地域を元気にすること、地域の住民との「つながり」を創出することを目的にスポーツ支援、アスリート支援にも力を入れている。一方の中央大学は、バスケットボール部やサッカー部の一般社団法人を設立、トークンを発行してそこで得た資金を練習設備や寮の環境改善に充てるなど、大学スポーツの新たな運営方法を示す。

サッカーのFC東京やラグビーのクボタスピアーズ船橋・東京ベイなど、トップリーグに所属するチームのスポンサーから地域イベントへの協力まで、スポーツに造詣が深い東京きらぼしフィナンシャルグループ(東京きらぼしFG)及びきらぼし銀行と中央大学が「包括連携に関する基本協定」を締結したのは2021年3月のこと。本協定では東京きらぼしFG及びきらぼし銀行と中央大学の人的・知的資源の交流と活用を図り、産学連携のもと教育、研究等の分野において相互に協力し、社会の発展に寄与することを目的としている。

中央大学ではソーシャル・アントレプレナーシップ・プログラムの講座を開講。中央大学商学部の学生が東京都檜原村と連携し、担当講師の指導のもと、きらぼし銀行行員や自治体、地元NPO法人の協力も得て、特産品のゆずワインを活用したボンボンチョコレート「ゆずぼん」を商品開発した。

中央大学渡辺岳夫教授

渡辺教授は東京きらぼしFGとのかかわりについて、このように語った。

「ひとつはソーシャル・アントレプレナーシップ・プログラムです。奥多摩の檜原村・小菅村・丹波山村の3つの村と提携して、学生たちの主体的な地域活性化への取り組みをご支援いただいています。また個別に私のゼミにご支援いただいたり、またきらぼし銀行さんがスポンサードされているAPOLLO PROJECT(アスリートのキャリア支援に取り組む一般社団法人)と本学の体育会系の学生を結び付けた取り組みをさせていただいています。私の授業をハブにして、きらぼし銀行さんと地域をつなぐ活動をしてきました。ベンチャービジネスプロジェクトにも講師を派遣していただいて、実際起業する際の具体的な手続きやコンセプトの作り方を含めてご指導いただいています。そこを経た学生が奥多摩の村の活性化であったり、スポーツビジネスの道を進んだりして3年が経っています」

東京きらぼしFGも「バスケットボール部やサッカー部の指導に関わっていらっしゃり、勝敗だけではないスポーツの意義やアスリートのキャリア支援にも積極的に取り組んでいらっしゃる、中央大学におけるスポーツ分野の中心的な方」と渡辺教授の活動に注目していた。

きらぼし銀行と中央大学の連携は多岐にわたる。渡辺教授が具体例を挙げながら説明した。

「一昨年スポーツ組織と提携して学生がワンマッチを企画する事業があり、きらぼし銀行さんにご協賛いただきました。関東サッカーリーグ1部リーグ所属である東京23FCと提携したのですが、ホームタウン江戸川区の抱える問題として高齢者が多く、自殺率も高いということがありました。我々はただ集客を伸ばすことを目指すのではなく、サッカークラブが根差したホームタウンの課題解決をすることによって、集客に結び付けることを短期的、長期的に目指していければという考えを持っています。では実際に課題を解決しつつ何か集客につなげられるものがあるか考えた時、江戸川区には銭湯が多いことに気付きました。銭湯もスポーツ観戦で高揚することも精神的にいい効果がありますので、銭湯とスタジアムの相互集客を目指しました。高齢者の方が観戦チケットを見せれば、銭湯が一定期間無料になり、付き添いの方は半額にし、その割引資源をきらぼし銀行さんにスポンサードしていただきました」

中央大学にとって東京きらぼしFGはスポンサーではなく、パートナーであると渡辺教授は続けた。

「檜原村・小菅村・丹波山村のプロジェクトで、『こういう企画で村に役に立ちたい』という学生たちのプレゼンテーションをやるのですが、そこにきらぼし銀行さんに同席いただき、学生たちにフィードバックしていただいてコミットを深めています。時間は合計10時間にも及びますし、出していただいたお金も学生が作る試作品に振り分けています。パートナーなので、お金を出していただいて終わりではなく、『一緒にプロダクトを作り上げていきましょう』ということで、きらぼし銀行さんは巻き込まれてくださっています」

きらぼし銀行も渡辺教授の考えに「私たちも中央大学さんと一緒に地域に根差していきたいと考えています。スポンサーではなくパートナーとして地域とつながっていくことが地方金融機関の役割ですから」と同意する。

渡辺教授はスポーツビジネスもソーシャルビジネスも課題を特定することが重要だと断言した。

「学生が主体的に課題を見付けて、その課題解決に主体的に取り組む。そのプロセスで実行力やリーダーシップを身に付けていくものですが、おおもとの課題のフォーミュレーションが一番難しく一番の本質です。課題を特定するには現地のリサーチが必要であり、分析力も必要ですが、スポーツビジネスもソーシャルビジネスもそこにいくまでが難しい。でもアインシュタインが言うように『問題の特定が問題の解決より重要だ』と。フォーミュレーションをしっかりやる立て付けにソーシャルビジネスもスポーツビジネスもしています。学生は早く解決に向かいたがりますが、はっきり言ってつまらないので脱落する者も出てきます。しかし、そこが大事だと理解した学生はその後のものの見方が変わったりしています」

さらに渡辺教授はステークスホルダーや関わる人が多ければ多いほど、課題の特定を困難にさせると言及した。

「檜原村のプロジェクトも村の住人がいれば役場の方もいて、きらぼし銀行さん、NPOの方、地域おこし協力隊の方、ハンター製菓さんと相対的な大学の授業よりステークスホルダーが多い中、課題を見付け、同じ方向を見て、課題解決に向かうのはどれほど難しいか。この経験は絶対必要なので、社会へ出るのに役に立つと思います」

実際、檜原村の特産品「ゆずぼん」の開発に携わり、今は戸田建設に勤める中央大学OB藤井拓輝氏は渡辺教授の言葉にうなずく。

「檜原村のプロジェクトは2年の期間を与えられていたのが大きかったですね。1年だけだとおそらく檜原村が抱える課題を特定し切れず終わっていたと思います。情報がないと課題が見付けられないので、現地訪問や村から受領したデータの分析を通して課題整理に取り組みました。またOEM委託先のハンター製菓さんとの打ち合わせを繰り返しながら、商品企画を行いました。1期目だった私たちは商品を開発するところまでを行い、具体的な商品化とマーケティングは2期目以降の後輩たちに引き継ぎました。ここで学んだ課題整理を行う思考プロセスや0から1を生み出した経験は今の仕事にも活きていると感じています」

中央大学OB藤井拓輝氏

またきらぼし銀行がぴあスポーツビジネスプログラム(ぴあSBP)のきらぼし銀行枠1名について渡辺教授に相談した際、教授の推薦を受けたのが藤井氏である。渡辺教授に相談した経緯をきらぼし銀行側はこのように振り返った。

「東京きらぼしFGのスポーツに関する協賛先・関係先は複数ありますが、『スポーツビジネスを学ぶことに意欲と目的を持っている人に参加してもらいたい』と考えた時、真っ先に浮かんだのが渡辺先生の存在です。スポーツビジネスの講義も展開されている渡辺先生であれば、ぴあSBPの価値にも共感いただけるのではないかと思いご相談したところ、趣旨や東京きらぼしFGの協賛目的にご賛同いただき、すぐに現役のゼミ生やOB/OGにお声掛けをしてくださいました。複数の候補者の中から藤井さんをご推薦いただいたと聞いています」

2023年4月から10月にかけてぴあSBPを受講した藤井氏はこのように講義の感想を口にした。

「講師の先生方の熱がすごかったです。どの先生方もスポーツが好きでスポーツ業界を良くしたいという思いで仕事と向き合われているのが印象的でした。現場で戦っている方の人柄や熱意、目力に直接触れられたのはすごく刺激になりました。また授業内容ではスポーツマーケティングが印象に残っています。お客さんをいかに楽しませて体験価値を高めるかという視点が個性的なものが多くて面白かったです。特に常任講師の中村武彦氏の『みんながスタジアムにスポーツ観戦を目的で来ているわけではない』というお話は印象に残っています。競馬場で子供が楽しめる環境を作っていたり、野球場でバーベキューシートを設置していたり、さまざまな層をキャッチするためのスポーツマーケティングの視点の持ち方には驚きました。中でもチケット完売最長記録を持つマイナーリーグのデイトン・ドラゴンズの試合の勝ち負けに頼らない集客術の話は衝撃でした」

大学時代陸上競技に打ち込み、今も走り続けている藤井氏は陸上界の課題をこう挙げた。

「陸上競技のサステナビリティが問題だと感じています。陸上競技は収益化が難しいスポーツであるが故に運営母体の陸連は学校の先生、競技会の運営は先生や生徒をはじめとしたボランティアで成り立っています。

また実業団に行った友人からは『走れなくなった時の将来が心配』という話をよく聞きます。他のプロスポーツと違って実業団選手の給料はサラリーマンとほとんど変わりません。その中で他のスポーツと同様にアスリートのセカンドキャリア問題が降りかかるとなると、陸上競技を続けたい学生が生まれにくくなっているのではないかと思います。

これらの課題に対して、私は街づくりに関わる社会人として、陸上競技場を街にとってどのように価値あるものにできるか考えていきたいです。現状では陸上競技場は市民に開いた場所ではなく,競技者のための場所になっており,陸上競技場に行くことのない方も多く存在すると思います。スポーツイベントを通して飲食業や宿泊業が盛り上がるように,陸上競技場でも“街に開けた運動場”という価値を生み出すことができれば、陸上競技の運営にもっと企業や住民を巻き込むことができ、将来的に競技を盛り上げていくことができるのではないかと考えています」

競技が異なれば成功体験が通じないのは当然、同じ競技であってもカテゴリーが異なれば同じ手法が通用しないなど、ひと口にスポーツビジネスでは括れない難しさと面白さがあると渡辺教授は指摘した。

「チームに関わるいろんな関係者の思いを実現する方向で結び付けつつ、一定のマネタイズをしていかないといけないとここ10年ほど強く思っています。戦うディビジョンが違えば手法が異なってきます。Jリーグのクラブ経験者のやり方が地域リーグでは全然通用しない場合があります。前提としてマイナーリーグはアマチュアなので、どうやれば家族のように応援してもらえるか考える必要があります。Jリーグのようにエンターテインメント性を前面に出す施策が通用しません。成功例が当てはまらない難しさはありますが、スポーツビジネスはディビジョンによってガラッとタイプが変わるのが面白さでもあると思います」

渡辺教授は興味を持った他の大学に一般社団法人立ち上げの情報をオープンにしている。その心は?

「我々が作った一般社団法人の定款は個人の情報の部分を除いて見られますし、ご相談を受ければトークンを含めてご説明しています。我々は同志を増やしたい。大学スポーツは一部を除いてお金がなく、監督もコーチも手弁当でやっています。収益を出して素晴らしいクラブハウスを作りたいわけではありません。学生の努力と我慢の上に成り立っている状況なので、それをゼロにしてあげて、競技に集中できる環境にしたいと思っています。ステップゼロを目指すためには多くの同志が必要なので、うちの監督、コーチには『関心を持ったところにどんどん説明します』と言っています。相談を受けたある大学ではすでに『HPを作りました』と言ってきたので、今度は我々が見習わせていただくというのがいい関係だと思います」

渡辺教授は一般社団法人のさらなる可能性を探っていた。

「OB/OGが困った時にキャリア支援できるような機能も一般社団法人にあってもいいかなと思います。いろんなOB/OGの力を借りて、プロ以外のキャリアを進む際のお手伝いができればと思っています」

東京きらぼしFGは今後もスポーツを通じた地域活性化に取り組んでいく。

「大前提に私たちが地域金融機関グループであるということがあります。東京きらぼしFGのスポーツ支援にはいつも地域の存在があります。スポーツを通じて地域のみなさまと喜怒哀楽を共有でき、一体感が生まれます。アスリートがひたむきに努力し、諦めずに前に進む姿勢は地域を元気にしています。東京きらぼしFGはスポーツの力、アスリートの力を信じて、これからもさまざまな地域スポーツチームや地域スポーツイベントを支援しています」

また、ぴあSBP第4期が3月30日よりスタート。きらぼし銀行枠にて渡辺教授のゼミのOBである藤井誠氏がスポーツビジネス概論をはじめ、スポーツマーケティングやパートナーシップセールスの概論や事例、スタジアムビジネスとチケッティングの概論・事例・実践などを10月12日(土)にかけて、受講する。

すべての写真(3)を見る

© ぴあ株式会社