苦しい時は支援センターへ  学生の「支え合い」最前線

入学や進学選択により新たな生活が幕を開ける季節、春。今までにない環境や出会いに胸を躍らせる人も多い一方、不慣れな生活や自分の選択に苦悩する場面もしばしば。そんな時に有効な手段の一つが、信頼できる機関への相談である。その一翼を担うのが、東京大学相談支援研究開発センター(以下:支援センター)だ。

支援センターは、学生など大学構成員の悩みへの相談支援を主な業務として行う「学内共同教育研究施設」。上記の相談支援業務に加え、就労支援や留学生の支援などを拡充展開するため、2019年に従来の支援施設を発展的に統合する形で発足した。

ここからは図1のフローチャートを参照しながら、支援センターの組織図や仕組みを見ていこう。まず、支援センターには多くのカウンセラーや精神科医といったスペシャリストが存在し、センター内の諸施設で日々、学生への対応に従事している。しかし、多くの学生は自分の悩みをどの施設で相談すべきか分からない場面も多い。そこで、役に立つのが「総合窓口」。ここでの電話やZoomを用いたオンライン相談を通じ、学生の必要に応じた相談施設を適宜紹介するという流れだ。主な紹介先は、心理的問題へのカウンセリングを行う学生相談所や対人関係の相談に強いコミュニケーション・サポートルームなど。必要に応じて病院の精神科などといった、学内外の他施設への紹介も行われる。また、ピアサポーターとして認定を受けた学生との交流が可能な施設としてピアサポートルームも存在しており、さまざまなイベントに参加することも可能だ。

(図1)支援センター 相談の主な流れ(相談支援研究開発センターの公式サイトの情報を基に東京大学新聞社が作成)
(図2)支援センター内の諸施設の主な業務内容(相談支援研究開発センターの公式サイトの情報を基に東京大学新聞社が作成)

今回の記事では実際に支援センターを利用した学生や、ピアサポーターとして従事する学生たちの声を特集する。(取材・清水央太郎)

内外機関との連携が強み ニーズに合った利用を 利用者の声

──支援センターの存在を知ったきっかけは

友人が支援センターで相談するのを手助けしたのがきっかけです。メモを取ったり、臨床心理士さんとの会話を適宜補足したりしていたのですが、対応しているなかで自分も精神的に負荷がかかってしまって…ちょうどそんな時、大学の機関から案内のメールが届きました。学生の心労を予見した、素早い対応だったと思います。

──実際に支援を受けて感じたことは

まず面談が必ず臨床心理士、職員、精神科医など複数人体制で行われることに驚きました。相談者の抱える困難をそれぞれの専門家が分割して対処してくださるイメージです。また保健センターや東大病院のほか、ハラスメント相談所など必要に応じた内外の機関との連携が非常にスムーズで、東大本部が管轄している強みが出ているな、と感じました。

──逆に支援を受ける上で改善が必要だと感じた点はありますか

一度目の相談案件では特に不満はなかったです。ただ、その後自分の所属学部で起きたハラスメント事案について二度目の相談をした時は、支援の限界を感じましたね。

──一度目と二度目とで、具体的にはどういった点が違ったのでしょうか

二度目の相談内容は研究室というクローズドな環境で起こった事案だったので、総合支援センターはもちろんハラスメント相談室も動きづらかったんだと思います。全学的な問題の対処には強いんですが、学部の問題は学部内での解決が求められる気がします。ただ、学部に対して文面で交渉する際に、添削等の手助けは行ってくれました。

──利用された身として、支援センターを利用する際に留意しておくべき点はありますか

個人的に支援センターの総合窓口が、メインの相談相手となる場面は少ないように思います。ただ、右も左も分からない状態で「自分がどう対応すべきか?」という道を示してくれる場所ではあるので、困った時にまず頼ってみると良いのではないでしょうか?

──最後に新入生の方に向けてメッセージをお願いします

何か問題が起こった時に初めて、頼れる場所を探し出すのは難しいです。まだ何も問題が起きていない「大丈夫」な時期から、大学の支援体制などを調べておくことが重要だなと痛感しましたね。そして、自分で調べるだけではなく、その情報を友人たちに周知することも結果的に助けにつながることがあると思います。「何か起きてから考えればいい」「自分は絶対に大丈夫」ではなく、常日頃から「もしも」のことを心がけて学生生活を楽しんでください。

「交流の場が存在すること」それ自体が価値 ピアサポートルーム

数ある部署が存在する支援センターに携わる人々の大半は、カウンセラーや精神科医など「大人」である。そんななか、学生が主体となって活動している数少ない組織が「ピアサポートルーム」。今回は現役のピアサポーターの篠原咲希音さん(育・4年)にその実態、活動に懸ける思いを聞いた。

──ピアサポートルームに興味を持つきっかけは

入学諸手続きの際、大量に設置されていた書類の山の中からピアサポートルームの活動紹介冊子「支え合いのキャンパスを目指して」を見つけたのがきっかけです。もともとアクティブラーニング(学生が能動的に考え、学習する教育法)など、座学以外の授業も豊富な学校出身で教育関係に関心があったため、目に留まったのだと思います。「教育学」と一口に言っても多くの分野が存在するのですが、前期教養で様々な科目を履修するうちに、その中でも教育心理の内容に興味を持ったことも活動を続ける動機の一つになっています。

──ピアサポーターとして活動するにあたり、必要な資格・要件などはありますか

予備研修(ピアサポート活動に必要な基礎知識の習得)と総括講義(重要ポイントの確認とアウトリーチに関するワーク)を受講し、認定を受ける必要があります。一見難しそうに思え、自分も取り組む前は不安でした。しかし、いざ受けてみると普通の授業やレポートといった感じで、新入生の方は是非臆することなく応募してほしいと思います。現在は「ささえあいレシピ」という全学体験ゼミナールを履修することでも、前述の要件を満たすことが可能です。

──ピアサポーターとして、具体的にどのような活動に従事していたのですか

ピアサポートルームは自己表現を通して新しい自分を見つけたり人と繋がったりする「ぴあサポゆるっとART WORKSHOP」などのイベント開催も多いのですが、自分はどちらかというと後方支援の業務に携わることも多かったです。具体的には広報チーム(活動紹介冊子の発行などを行なう)とストレスチェックチームでの活動ですね。ストレスチェックチームではコロナ前は唾液中のアミラーゼ量を測定することでストレス度合いを測ったり、コロナ禍に入ってからはアンケート調査を通じて東大における学年ごとのストレス要因の違いなどをまとめたり(結果は図3)、とさまざまな活動を行なっております。調査結果を学会で発表することもあります。

(図3)学年ごとの悩みとして多いものをプロットした図(画像はピアサポートルーム資料より引用)(上が学部1年、下が後期課程(学部3~6年))

──これらの活動の中で心がけていることや、やりがいについて教えて下さい

ピアサポートは他の支援室とは異なり、相談者と同じ「学生」という対等な立場での活動が可能な点が大きな強みです。そのため活動の際は「サポーターが楽しめる/あったらいいなと思う内容か」も重視していますね。ピアサポートは短期間で得られる「分かりやすい達成感」は正直得にくい活動です。しかし、困った時や迷った時に「他の学生と交流してみようか」とふと立ち寄れる場がキャンパスに存在していること、それ自体に大きな価値があると信じていますし、それを通して学生に貢献出来ることが大きなやりがいです。駒場や本郷だけでなく、柏キャンパスなど様々な場所で活動を行なっておりますので、新入生の皆さんも是非ピアサポを頭の片隅に置いて、いつでも活動に参加してくださるとうれしい限りです。

体験型授業で学ぶ「学生ならではのサポート」 主題科目「ささえあいレシピ」の実態とは?

前述のピアサポートの認定要件を満たす手段の一つとして挙げられた「ささえあいレシピ」。学内に数ある個性豊かな全学体験ゼミナールの一つとして、一体どのような学びを提供してくれるのか。ベールに包まれたその実態を、履修者の証言から紐解いていく。

──「ささえ合いレシピ」を履修した経緯を教えてください

「『ささえ合いレシピ』がちょうど自分の空きコマに開講されていた」というありきたりな理由です。空きコマは可能な限り授業を取りたい性分なので(笑)。出身校がミッション・スクールで、フェアトレード(途上国の製品を適正価格で購入すること)の推進やボランティアといった慈善活動を多く行っていたのもあり、このような活動を行うのかな? というイメージでした。

──いざ受けてみると、思っていたのとはかなり違うテーマだったと

ピアサポートやその活動で重要視されている「アウトリーチ(公的機関の補助が届きにくい範囲を支える援助のこと)」の概念は、この科目を履修して初めて学びましたね。上記の基本的な内容について、前半週の座学で基礎から解説していただけるので初学者でも問題もなくついていけました。後半では実際にピアサポートを体験したり「アウトリーチ」となる企画を立案したり、座学に頼らないカリキュラムも豊富でした。

──他の履修者にはどんな人が多かったですか

非常に少人数の講義というのが特徴で、履修者は私含め8人しか居ませんでした。科類は文IIIの子が若干多かった気がしますね。あと8人中7人が女子でした。

──実際にカリキュラムの一環でピアサポートを受けてみた感想はいかがでしたか

実際にピアサポ―トルームが実施する「よもやま語らいゼミ」を体験しました。正解のないテーマについて、正しい答えを求めてディベートをするのではなく「互いの意見を聞き合い、尊重し、自分を内省する」というプロセスが新鮮でしたね。ピアサポーターの方のファシリテーティング(話し合いをより良いゴールに導くこと)も非常に上手で、初参加でも話しやすい雰囲気が流れていました。

──授業の後半では、実際にピアサポートの企画を立てたそうですが、何をテーマにしたのですか

4人で一つの班を作り、課題に取り組みました。私たちの班は「駒場から本郷への引っ越し」を扱った note(記事コンテンツを発信・共有できるサービス)で記事を作成し、公開しましたね。進学選択を機に多くの学生がキャンパスを駒場から本郷に移すに当たって、引越しは大変重要なイベントである一方、大学当局からの情報提供は十分とはいえない状況です。これこそ、まさにアウトリーチの見せどころだと考え、立案しました。アンケート調査やその分析を基に記事を執筆したのですが、今も現役で活動されているピアサポーターの方がTAとして適宜フィードバックをくださいましたね。

──今後はピアサポーターとして活動を続ける方が多いのでしょうか?

せっかく資格を得たのですが、他の部活や団体での活動が忙しいため、私は現時点で活動する予定はないですね。セメスター終了直後の時点では、履修者の8人中2人ほどがピアサポーター登録を行ったみたいです。

──数多く開講されている主題科目のなかから何を選べば良いか分からない新入生も多いと思います。新入生に向けたPRなどがあればお願いします

1年生のうちは大きな講義室で受動的な座学を受ける授業がほとんどだと思います。少人数で双方向的な授業を取ってみるのも面白いのではないでしょうか。

東京大学相談支援研究開発センター ホームページ

https://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp

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