社説:子育て支援金 「負担ゼロ」には無理がある

 児童手当や育児休業給付を拡充する「少子化対策関連法案」が衆院本会議で賛成多数により可決され、通過した。

 最大の焦点となった新たな財源の「子ども・子育て支援金」を巡り、岸田文雄首相は個人負担額の説明を小出しにし、掲げる「実質負担ゼロ」の根拠も示さないままだ。中身が見えないのでは国民の理解は得られようがない。参院で全体像の明示と丁寧な議論が欠かせない。

 政府は少子化対策で、年最大3兆6千億円の財源が必要としている。柱となる「子ども・子育て支援金」は、幅広い世代から公的医療保険料に上乗せして徴収する。2026年度から徴収額を段階的に増やし、28年度に満額の1兆円とするという。

 残る財源は、既定予算の活用や歳出改革で確保すると説明するが、具体策は示していない。その上で財源が不足する分は、借金である「こども特例公債」で賄うという。子ども支援としながら、次世代につけを回す弥縫(びほう)策ではないか。これでは持続可能な仕組みと言い難い。

 衆院の審議では、1人当たりの支援金負担額について情報を小出しにし、保険別、年収別の試算を出すまで2カ月かかった。時間を引き延ばし、意図的に制度像を分かりにくくしているとしか見えない。

 28年度の試算では、会社員らが加入する被用者保険で年収600万円の人は月千円、1千万円以上は1650円とする。じわじわ生活にのしかかるにもかかわらず、岸田氏は「実質負担ゼロ」を繰り返すだけである。

 政府の理屈では、高齢化に伴う社会保険料の伸びを歳出削減で、支援金負担を「相殺する」。さらに賃上げが進めば可処分所得が増え、家計への影響がより和らぐという。

 支援金の話に、企業の賃上げまで入れ込んでは議論になるまい。歳出削減も中身を言わない。岸田氏をはじめとする政府の態度を不誠実といわず、何といえるだろう。野党はもとより、与党内からも「国民に分かりにくい」と指摘されている。

 共同通信が3月実施した世論調査では、岸田氏の支援金制度に関する説明に8割が「納得できない」「あまりできない」と答えた。法案通過直前の今月調査では、支援金に「反対」が6割を超えている。

 衆院審議では負担問題に時間が費やされ、児童手当拡充や就労に関係なく子どもを預けられる「こども誰でも通園制度」など、施策の妥当性や運用課題に関する議論が尽くされなかった。

 野党側も「子育て増税」との批判だけでは不十分だろう。一致点を探って連携し、結婚をためらう層に届く施策や財源捻出を含め、参院では実のある議論を求めたい。

 生煮えの少子化対策は将来に禍根を残す。岸田氏は空疎な答弁を改めるべきだ。

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