スティーヴ・ローゼンバーグ、ロシア編集長
ウクライナにとって良いことはロシアにとって悪いことだというのが、ロシアがウクライナに全面侵攻を開始して以来の経験則だ。
20日にもたらされたのは、ウクライナ政府にとっての吉報だった。米連邦下院はこの日、ウクライナに608億ドル(約9.4兆円)の軍事支援を提供する予算案を可決した。
下院はまた、アメリカで凍結されたロシア資産の差し押さえと、ウクライナへの移送を可能にする法案も承認した。両法案は今後、上院で承認される。
当然のことながら、一連の可決はロシアでは評判が悪かった。
タカ派のドミトリー・メドヴェージェフ前大統領は、「血まみれの610億ドル」を非難。「21世紀の邪悪な帝国であるアメリカ合衆国に、不名誉な崩壊をもたらす」新たなアメリカ内戦の勃発を呼びかけた。
21日の国営テレビのトーク番組では、司会者のウラジーミル・ソロヴィヨフ氏が、ロシアの資産をウクライナに移送するのは「金銭的なテロリズム行為だ」と指摘した。
「アメリカがこれを実行するなら、我々は議会と政府のレベルで、アメリカを金融テロリストと宣言しなければならない」と、ソロヴィヨフ氏は述べた。
その上で、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)間の戦争は「不可避」だと思うと語った。
「邪悪な帝国」や「不可避の戦争」という言葉は大げさだ。
しかし、米議会での出来事に対するロシアの反応は、「Keep Calm and Carry On(平静を保ち、普段の生活を続けよ)」という言葉に集約されるだろう。
ロシア政府高官と国営メディアは、アメリカのウクライナへの追加援助には激しく批判的ではあるものの、さまざまな言葉で、その潜在的な影響を小さく見せようとしている。
驚きはない
アメリカの追加支援に対するプーチン大統領の反応を聞かれると、ドミトリー・ペスコフ報道官は、「我々は全面的にこの事態を予想していた」と述べた。
同じ主張が、22日付ロシア政府の機関紙「ロシースカヤ・ガゼータ」の月曜版にも掲載された。 「ウクライナへの支援に関する投票がこのような結果になることは予想されていた」と。
効果はない
一方、親政府派の新聞「イズベスチヤ」は、「アメリカの援助は戦場の状況を変えない」との見出しを掲げた。
ペスコフ報道官も、「戦場の状況を大きく変えることはない」と、ほぼ一字一句、同じメッセージを伝えた。
「ロシア軍は、特別軍事作戦(ロシアのウクライナ戦争)において地位を向上させている」
「提供される資金も、その資金で提供される武器も、その動きを変えることはない。より多くのウクライナ人が殺されるだろう」
アメリカに勝利はない
ロシア政府高官と親政府メディアは、ウクライナを支援し続けることで、アメリカは負ける戦争に「引きずり込まれる」と主張している。
22日付の「イズベスチヤ」はこう問いかけている。
「思いつくままに、アメリカ軍が文句なしの勝利を収めた主な紛争を挙げられる人はいるか? ヴェトナム? イラク? アフガニスタン?」
「アメリカ政府が、こうも次々と失敗に終わる軍事的逃避行に引きずり込まれるのは、時に奇妙に思える」
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、「アメリカ政府はこのロシアに対するハイブリッド戦争に深く沈み込んでいる。この戦争もまた、ヴェトナムやアフガニスタンと同じように、アメリカにとって派手で屈辱的な大失敗に終わるだろう」と述べた。
ロシア政府のメッセージは明確だ。しかし懸念はある。アメリカの支援策はウクライナを助け、ロシアを傷つける可能性がある。
22日付の日刊紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」は、近い将来、ウクライナが「(ロシア)領土の奥深く」を攻撃すると予測している。
「しかし、最も可能性が高いのはクリミアだ。そしてもちろん、クリミアの橋も」と、同紙は書いている。
ロシア本土と、2014年にロシアが不法に併合したクリミア半島を結ぶケルチ橋は、ウクライナにとって重要な標的であり、過去にも攻撃の対象になっている。
国外にあるロシアの資産がウクライナに引き渡されるのではないかという懸念もある。凍結されたロシアの資金の大半は、アメリカではなく欧州連合(EU)にある。しかしロシア政府は、アメリカが欧州のために前例を作ることを望まないだろう。
(英語記事 Steve Rosenberg: Russia defiant over new US aid to Ukraine)