「ユニコーンはライブで演奏しているときの空気感がいちばん大事」ユニコーン・川西幸一×直木賞作家・今村翔吾×ミステリー作家・今村昌弘のトークバトル【THE CHANGE特別鼎談】

川西幸一・今村昌弘・今村翔吾 

人気ロックバンド、ユニコーンの川西幸一と、2022年に『塞王の楯』で直木賞を受賞し、コメンテーター、書店経営者などの顔も持つ作家の今村翔吾。毎年恒例となった2人のトークイベントに、デビュー作『屍人荘の殺人』がいきなりの大ヒットを飛ばし、本格ミステリー界の寵児となった今村昌弘が加わった。レジェンド級のミュージシャンと人気作家2人によるトークバトルは、音楽業界と作家業界が共通に抱える問題点などにも及び、白熱したものになった。【第3回/全8回】

※TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISEで2024年2月10日(土)に開催の「Artistと本vol.3」より

川西幸一(以下川西)「昌弘さんが小説を書くときって、見取り図が先なのか、プロットが先なのか気になってるんだけど」

今村昌弘(以下昌弘)「『屍人荘の殺人』のときは、やりたいトリックをいくつか先に考えて、このトリックなら、こういう建物で、こういう部屋が必要だなっていうのを考えました。なので、結構いびつな建物にはなってるんですけど」

川西「書き進めながら、この部屋はこうじゃマズイなとか、ドアは内開きにしようかなとか、そういうことを考える感じ?」

昌弘「途中で、この登場人物がこういうふうに移動できるから、この人も怪しいことになるなって気づいて、扉を1枚余分に付けたり、この人から見えるようにしようっていうのはありましたね。書き上げたあとに、校閲さんからツッコミが入ったりもします」

今村翔吾(以下翔吾)「昌弘さんは書くのにすごく時間がかかるよね。僕らはデビューして7年目かな。デビュー時期が半年くらいしか違わないのに、昌弘さんは著書が5冊とかでしょ。僕は40冊以上ある(笑)。でも、累計の発行部数はそんなに変わらないと思うんです」

昌弘「そんなことないですよ!」

翔吾「いやいや、昌弘さんはスーパーホームランバッターですよ」

昌弘「とはいえ、ワンシーズンのうち、半年くらいは故障してますよ。あいつ、なかなかバッターボックスに立たないなって言われてる(笑)」

翔吾「僕なんか、セーフティーバントで盗塁してみたいなタイプですよ。やっぱり今のミステリ界では昌弘さんがナンバーワンじゃないかな」

昌弘「デビュー作がヒットして名前を売ってもらったっていうのがありますね。でも、翔吾さんは直木賞作家じゃないですか」

翔吾「ミステリーは直木賞との相性が悪いんですよね」

本格ミステリーの作家はミュージシャンと似ている!?

昌弘「本格ミステリーの作家は、権威を持ちたいとかいうのがあんまりなくて、その部分ではミュージシャンと似ているかもしれない。自分の好きなものを作らせてほしいという意識しかなくて、自分の作風が好きだっていうファンのことも見えているので」

翔吾「川西さんもそっち派ですか? 自分の好きなものを作りたいという」

川西「いえ、まったく何にも考えてないです(笑)。でも、昔で言ったら、『日本レコード大賞』とか、そういうものにノミネートされたり、そこを目指してくださいねっていう風潮はいまだにあるんじゃないかな」

翔吾「そういう賞は、昔に比べたら若干下火っぽいイメージがあるけど、やっぱりパワーはあるんですね」

川西「僕はまったく関係ないと思ってるけどね。それよりも、自分たちがライブで演奏したときのお客さんとの空気感がいちばん大事だから。でも、作家の方はライブで何かを見せることがないでしょ。そこがいちばん違うよね」

昌弘「作家としては、自分の作品がどう読まれているのかは知りたいんですよ。本格ミステリーを書いている作家はホント恵まれていて、うるさいことを言うファンもいるんですけど、その人たちは横の繋がりがあったりして、サイン会をやるとたくさん来てくれる。ダイレクトに声が伝わってくるんですね。自分たちは、こういうファンに向けて書いているんだ、っていう心構えを持ちやすいんです。でも、それ以外の作家の方は見えにくいかもしれないですね。やっぱり、賞にノミネートされたりして話題にならないと、自分のファンがどこにいるのかわからないと感じている作家の方は多いと思います。結構すばらしい経歴をお持ちの方でも、新刊を出すときは“誰がこれを読んでくれるんだろう”って心配されてますね」

翔吾「僕は結構ライブっぽく書いているタイプなんですよ。昨日も新聞連載のラストのほうをほぼ徹夜で書き上げていて……歴史小説ってネタバレしているんで言いますけど、主人公の楠木正行が……死にます(笑)。なので、死ぬ前の15枚を書くってなったら、僕は昔ダンスをやっていたので、心を整えて、舞台に上がるみたいに音楽聴いてテンション作っていきますね」

昌弘「ミステリーは最後にどうなるかわからないけれど、歴史小説を書く作家さんは、みんなが最後どうなるか知っているのに書いているのがすごいですよ」

川西「ホントそうなんだよねえ」

翔吾「調べてもらえれば、何年何月に死ぬっていうのがだいたいわかりますからね(笑)。読者が“あと2週間で死ぬよ”とかSNSで書いてたりする。ただ、僕らはそこに行くまでを、どの角度でどう見せるかという演出をしていくわけです」

■川西幸一(かわにし・こういち)
1959年広島県生まれ、広島県在住。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退し、バンドは同年9月に解散。2009年にユニコーンが再始動。最新アルバムは「クロスロード」。時代小説の大ファンとしても知られ、年間百冊近くを読破する。

■今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。2017年に発表したデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。『童の神』で第160回直木賞候補、第10回山田風太郎賞候補。『八本目の槍』で「週刊朝日」歴史・時代小説ベストテン第1位、第41回吉川英治文学新人賞を受賞。『じんかん』で第163回直木賞候補、第11回山田風太郎賞受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。最新作は『戦国武将伝(東日本編・西日本編)』(PHP研究所)。

■今村昌弘(いまむら・まさひろ)
1985年長崎県生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、放射線技師として働きながら小説を書き、2017年『屍人荘の殺人』で第27回九鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。同作は「このミステリーがすごい」で1位を獲得し、神木隆之介、浜辺美波の主演により映画化された。ほかに『魔眼の匣の殺人』、『兇人邸の殺人』、『ネメシスI』。最新作は『でぃすぺる』(文芸春秋)。

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