なぜ船の異常は見過ごされた? 強化されたJCI検査に密着 人員減少の矛盾 知床沖観光船事故から2年

知床沖で乗客乗員26人を乗せた観光船が沈没した事故から、4月23日で2年。事故原因の一つとされるのが、直前に行われたにも関わらず船の異常を見逃した「検査」。その後強化されましたが、教訓は生かされているのか?密着取材しました。

道東の厚岸町。港にほど近い場所に置かれていたのは、春から秋にかけて知床の海で運航する小型の観光船です。

知床ネイチャークルーズ・長谷川正人船長:「検査項目はこの船体、船体のいろいろなへこみだとか、水漏れだとか、傷だとか」。

この日は、運航開始を前に年に1度の検査を受けます。検査するのは国の代行機関JCI・日本小型船舶検査機構。事故の後にとられた様々な対策。その一つが、JCIによる検査の強化です。

おととし4月23日、乗客乗員26人を乗せた観光船「KAZU I(カズワン)」は、知床の冷たい海に沈みました。国の運輸安全委員会は、船前方にあるハッチのふたがきちんと閉まらず、海水が船の中に入り込んだことが事故の直接的な原因だと結論付けました。また、JCIが事故3日前の検査でハッチの異常を見過ごしたことも、原因の一つと指摘しています。当時の検査ルールでは、「見た目が良好なら開閉試験を省略しても良い」とされていたため、目視による点検で済まされていたのです。

斉藤鉄夫国交大臣:「従前の監査、検査などのやり方について、不十分な点があったことについては、国土交通省として大いに反省しなければなりません」。

国はJCIに対し、検査の見直しを指示。去年1月から、新たな検査方法で実施されています。

知床ネイチャークルーズ・長谷川船長:「(Q.陸揚げしての検査はあった?)なかった。事故後にこの検査が増えている」。

「陸揚げした状態での検査」も義務化されました。これまでは海に浮かべた状態で検査を受けることもできましたが、5t以上の船については陸揚げし、底の部分も含め全体を確認します。そして事故につながったハッチの確認は…。

長谷川船長:「こんな感じだ」。

ハッチのふたの取っ手を持ち、しっかり閉まっていることを確認します。新たな検査のルールでは、実際に触って確認することが求められています。

長谷川船長:「(Q.今日は特に不備は?)何もない。見ての通りだ。不備なんか、そんなにそんなにあるものでもないんだ」。

以前およそ1時間だった検査時間は、およそ2時間半に延びました。船の陸揚げ費用など、事業者側の負担も増えました。

長谷川船長:「(Q.JCIの負担は?)大きい。今までやらないことやるし、北海道だけでは(検査員が)足りないから、この間の点検は東京からも手伝いに来る。人員も足りないと思うよ。今まで以上に(検査項目が)増えて」。

実は、JCIは2018年の中期経営計画で、検査員の人数を減らす方針を打ち出していました。全国で小型船の数が減っているというのが、その理由です。当時150人いた検査員は、事故が起きた2022年には138人に減少。事故後、方針転換し検査員の採用を増やしましたが、現在も141人にとどまっています。専門家は、検査の質が低下することを懸念しています。

神戸大学大学院海事科学研究科・若林伸和教授:「現状どこまで検査員の教育ができているかと、中の検査員もかなり大変になって、どんどんブラックになっていく可能性がないかなというふうに思います。上架(陸揚げ)したからと言って、しっかりと知識のある人が見ないと問題かどうかも見つけられないので、上っ面だけの対応で本当に実が伴っているかどうかというのは検討する必要があると思います」。

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