石破氏、自民総裁選向け存在感 衆院補選島根1区で応援に汗、物言う姿勢封印 地元「ローリスク、ハイリターン」 派閥解消も追い風か

有権者と握手を交わす石破茂元党幹事長(左)=19日、雲南市内

 衆院島根1区補選で、自民党の石破茂元幹事長(衆院鳥取1区)の積極的な姿勢が目立つ。3補選のうち唯一の与野党対決となる中、何度も選挙区入りし、自民新人の応援に奔走。党や政権に物言う姿勢を封印し、汗をかくことで9月の党総裁選に向けて党内で存在感を高める狙いがあるとみられ、「政治とカネ」の問題の余波を受けた派閥解消も追い風になっている。

 「島根、鳥取からもう1度、新しい自民党、新しい日本を作る」。19日に雲南市内であった自民候補の演説会で、石破氏が約100人を前に気勢を上げた。

 島根県連の要請を受け、告示前を含めて4回島根入りし、25日も駆けつける予定だ。会長を務める鳥取県連も地方議員らが島根1区内の知人らを自民候補の陣営に紹介し、支持拡大を後押しする。

 「保守王国」と称される島根は、竹下亘元復興相、青木幹雄元官房長官、細田博之前衆院議長ら一時代を築いた政治家が死去。島根県連に石破氏の応援を求めた木次町支部の吾郷広幸支部長は「山陰で石破氏が大物になってもらわないといけない」と期待する。1993年に「政治改革」を掲げて離党し、党が下野した時期と重なり、島根県連内には「大変な時に逃げる」との声があったが、拒否反応は薄れつつある。

 島根だけでなく、東京・永田町でも動く。「全力で支え、票を掘り起こしてほしい」。今月10日の党水産部会の終了後、党の水産政策の最高責任者として全漁連の幹部に求めた。党水産部長を務める参院議員の島根入りに全漁連の職員が急きょ同行し、JFしまねの幹部との意見交換が決定。後日、応援に入った参院議員に感触を聞き、「とにかくやるしかない」と言い聞かせた。

 各種世論調査で「次期総裁候補」のトップに立ち、国民人気の理由でもある物言う姿勢は抑え気味だ。政権の支持率低迷が続く岸田文雄首相に対し、19日の島根県奥出雲町内での街頭演説では「外国に行かれて華々しい成果を上げている」と評価した。鳥取県連の県議の1人は「補選はローリスク・ハイリターンだ」と語り、負けても首相に矛先が向き、石破氏の責任論にはならず、勝てば評価が上がるとみる。

 政治資金パーティー裏金事件を受けた派閥解消も好材料になるとみられる。

 2月に鳥取市内であった鳥取県連の国政報告会で、茂木派(平成研究会)を抜けた青木一彦参院議員(鳥取・島根合区選挙区)が阪神タイガースの岡田彰布監督が優勝を「アレ」と表現したことを引き合いに「『アレ(総裁)』に石破先生になっていただきたい。微力だが、自由な形で動ける」と踏み込んだ。

 4回挑んだ総裁選で、18年は一彦氏の父の幹雄氏が影響力を持つ参院平成研の支援を得た実績もある。島根1区に張り付く小渕優子選挙対策委員長も茂木派を抜けた。鳥取県連関係者は「補選で恩を売り、青木、小渕両氏が組んで石破氏を押す。そこに他の国会議員も集まる」と期待する。

 党や岸田政権が浮上のきっかけがつかめない中、党内からは「最後は『石破カード』がある」との声も聞かれる。「ラストチャンス」(上杉栄一鳥取県連副会長)の総裁選に向け、19日に対応を聞かれた石破氏は「分からん。今は1票でも積むことを考えないといけない」と語気を強めた後、こう続けた。

 「選挙が終わったら政局だの総裁選だの、そんなことを言っているから自民党は駄目になるんだ」

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