ECの売上左右する「ささげ」専業で18年!どこにも負けないノウハウとは

小売のEC化が着実に浸透する中、“裏方”として需要を増している「ささげ業務」。目立つ存在ではないが、ECサイトでは、そのクオリティが売上を左右するとも言われる重要な業務だ。このパイオニア企業といえる、その名も「ささげ屋」(東京都)が、アパレル販売のEC化が進むなかで着々と業績を伸ばしている。秋山宙士代表に、その要因や強みを聞いた。

「撮影」「採寸」「原稿」の頭文字を取った業務

専用スタジオでの撮影の様子

ECサイトで商品を購入する際、ユーザーがその判断材料にするのは、主に画像と商品説明だろう。適切なカット数、カット割りがあればより参考になるし、説明が的確でわかりやすければ、購入を決断しやすくなる。

ささげ業務とは、「撮影(つえい)」「採寸(いすん)」「原稿(んこう)」の頭文字を取った業務。だから「ささげ」と呼ばれる。撮影は画像加工も含み、「採寸」はサイズを測ったり、原産国や素材などの情報を転記したりする。「原稿」は、デザインや素材感を消費者に伝える商品説明を作文する。

なぜ、あえて外注するのか

本来、こうした業務は、製品をよく知るメーカーが内製していそうだが、実は業務を切り分けて外注しているケースも多い。その理由は、ECのバックオフィス、いわゆるフルフィルメント業務はあまりに煩雑で、特にささげ業務はECならではの商品情報の制作ノウハウがなければ致命的に非効率となってしまう奥深さがあるからだ。

秋山代表が解説する。「例えば内製チームを作ろうとしても、撮影はできるが、レタッチができる人がいなかったりする。あるいは、スタッフの評価が適切にできない、メンバーが辞めてしまったが、必要な職種の採用がうまくできない、といった悩みは付きもの。新製品を早くECで販売したくても、内製チームだけでは1日にこなせる量は決まっているから難しい。店頭での販売は始まっているのに、2週間経ってもまだECサイトに上げられず機会ロス。閑散期や繁忙期もある。本当にさまざまな悩みを聞いてきた。内製するリスクは大きいんだな、と思わざるを得ない」

こうした理由から、内製に行き詰まったメーカーがネットなどで検索し、たどり着くのが、「ささげ屋」だという。「社名に『ささげ』と入っており、検索でも上位に表示されるので、とりあえず問い合わせられているのでは」。こうライトに明かす秋山代表だが、ささげ業務には絶対の自信がある。

ささげ屋が信頼される理由

1つのスタジオに撮影、採寸、原稿担当が集まって作業を行っている

もともとは、あるファッションECモールのささげ業務を回していくために、「専業の会社をつくって欲しい」と要望を受けたのがスタート。2006年のことだ。そこから試行錯誤しながら、まだ「ささげ業務」の認知度がほとんどない時期から、依頼主のECサイトのささげ業務をこなし、試行錯誤しながらノウハウを蓄積。少しずつ受注先を増やし、信頼を積み上げてきた。

「競合といえる会社もあるが、我々のように見積もりで完璧に単価感を出せるところはないと思う。そもそも、料金表で示せるような業務ではなく、依頼内容によって価格は全く変わってくる。それに対応できるような人材育成もやっている。それが信用されている要素かなと」と秋山代表。

業務内容だけ見れば、単に撮影して、採寸して、原稿を執筆する。一定のスキルがあれば対応できそうだが、そうではない。たとえば撮影する画像は、いかにサイト閲覧者が店舗で実物をみるのと遜色ないくらいにイメージしやすい画角やカットで撮影するか、説明文も、メーカーの打ち出したい特徴を的確に、かつ購入検討者が知りたい要素を盛り込むかが重要になる。

依頼主がアパレルメーカーなら、サイズ、カラーなどもあり、自社製品なのでこだわりも強い。そうなると対応パターンも大量になる。モデルが必要になる場合もある。こだわればこだわるほど、業務が複雑化し、知見のある者でなければミスが頻発する。商品情報のミスは消費者とっては「嘘」であり、ブランドイメージを大きく棄損してしまう。

内製の壁になる目に見えない難しさ

フォトグラファー(社員)は約20名

ECならではの難しさもある。ECの場合、閲覧者は、PCでみる人もいれば、スマホで、タブレットでと、端末がそれぞれ異なる。このことを想定していなければ、せっかくの画像が十分にその効果を発揮できないことになる。

さらに、画質も異なるため、そのことを考慮した色補正をしなければ、閲覧者から「色味がイメージと違う」といったクレームが発生しかねない。また、生地感や特徴的なデザイン、隠れた仕様などを漏らさず伝えなければならない。サイズ感が伝わりづらいこともECの大きな弱点のひとつだ。採寸を正確にすることはもちろん、画像でもできる限りサイズ感を表現する努力が必要だ。

これらはほんの一例だが、こうしたさまざまなリスク要因も踏まえた最適な「ささげ」ができないと、結果的に依頼主から不信感を持たれてしまうことになる。

「ささげは、『集客』という点では直接的な効果は期待しづらいが、『コンバージョン』という点では非常に大きな影響がある。写真のプロが見ればわかるようなテクニカルな1枚の写真を商品ページに載せても意味はない。情報の正確さはもちろん、スタイリング、見やすさ、読みやすさなど、ターゲットに『いいな』と思ってもらえることが最優先される」

年間大小150サイト以上に対応

まさにECの縁の下の力持ちとして、EC化の伸長とともに業績を伸ばす同社。創業以来、ささげ業務の専業会社として徐々に広く知られるようになっていったが、生産性が上がらず長時間残業が常態化したり、顧客に正しい提案や見積ができず、赤字になってしまったりと、常に順風満帆だったわけではない。

そこで2017年には社長を交代。そこから秋山代表が陣頭指揮を執り、評価制度の改訂や残業削減対策、システム化、業界分析など、ドラスティックな改革を行い、数年前には社内体制も安定したという。

「約18年、ささげ業務を請け負い続けて、どこにも負けないほどのノウハウは蓄積された。それを最大限に活かすのに重要なのは人。試行錯誤でやっていく中で、評価制度をはじめとしたさまざまな人事施策も積極的に行い、人材育成に注力し続けて、ようやくここ2、3年、胸を張って社名に恥じないささげ業務を提供できる体制が整ってきた」

いまでは年間大小150サイト以上、月間作業数は2万SKU以上のささげ業務の実績を誇る。

餅は餅屋というが、ささげはささげ屋ーー。裏方、そしてささげ業務の先駆者として、創業から18年走り続ける同社が、今後も加速するEC化を、陰ながら支え続けていく。

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