MZ世代の取り込みを強化 50周年を迎えるイオン「トップバリュ」がめざす方向性

イオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループが展開するプライベートブランド(PB)「トップバリュ」は、2024年で発売から50周年を迎える。とくに23年以降は、これからの消費の中核をになう「MZ世代」に特化した商品開発に力を入れている。ブランド誕生から現在に至るまで一貫する姿勢について聞いた。

価格、価値の双方で消費者に寄り添う

イオン執行役副社長商品担当兼イオントップバリュ代表取締役社長の土谷美津子氏(写真左から2番目)

イオントップバリュは2月28日に発表会を開き、「トップバリュ」の50年の歩みを振り返るとともに、24年度の売上目標や方針について説明を行った。

冒頭に紹介されたのが、1974年に発売されたスナックラーメン「ジェーカップ」の開発エピソードだ。
前年に起こったオイルショックの影響で、同年の消費者物価指数は約25%上昇した。メーカーによるカップラーメンの値上げが続くなか、ジャスコ(イオンの旧社名、2001年に名称変更)は対抗策として独自商品の開発に着手。「ジェーカップ」では既存商品に付属していたフォークを省き、85円という低価格を実現した。
「トップバリュ」の前身となるプライベートブランド「トップバリュー」が誕生したのは1994年だが、ジェーカップは現在も、ブランドの原点となる商品として位置づけられている。
「値上げが続くなかでも、価格と価値の双方において消費者に寄り添い続け、お客さま視点に立った商品づくりを行った。『ジェーカップ』の開発は、今日にまで続くイオンの姿勢そのもの」と土谷美津子社長は話す。

ブランドの名称が「トップバリュー」から「トップバリュ」に変わったのは2000年。ブランド名称は、「トップ(最高)」と「バリュー(価値)」を組み合わせたもので、低価格と品質の両立という意味合いが込められている。

同社の調査では、近年ではお客の買物行動意識が変化し、価格だけではなくより質の高い商品を重視する傾向が高まっているという。
こうしたことから24年度は、「お客さまがもっと『ワクワクする』商品の創造」を基本方針として、全国の小売店で販売されるナショナルブランド(NB)にない挑戦を行う「価値提供」、また物価上昇のなかでも生活必需品を中心に価格面でのリーダーシップを発揮する「価格戦略」の2軸に重きを置く。

23年度通期のPB売上高は、目標に掲げていた1兆円を達成。24年度は対前期比10%増の1兆1000億円を売上目標に定めている。

具体的な取り組みとして力を入れるのが、1980年代半ばから90年代初頭に生まれた「ミレニアル世代」や、90年代後半から2010年の間に生まれた「Z世代(ジェネレーションZ)」を合わせた「MZ世代」をターゲットに据えた商品開発だ。

とくにZ世代はスマートフォンになじんで育った「デジタルネイティブ」世代で、SNS上での影響力が高く、情報発信のカギになる存在としてとらえている。

MZ世代をターゲットとするシリーズ展開を継続

2月21日から販売が始まったのが「ガッツリ飯×ガッツリ飯」シリーズ。商品はいずれも400~420g、男子学生も満足できるボリュームだ
3月19日に発売された「トキメクおやつ部」シリーズ。ポップなイラストと色彩に、発表会会場でも「かわいい!」の声があがった

23年度にはすでにMZ世代をターゲットとした複数のシリーズ展開を始めており、いずれも好評を得ている。うち1つがおつまみに限らないナッツの可能性を追求する「Nuts & Joy」シリーズだ。ナッツ&DF(ドライフルーツ)カテゴリーにおけるMZ世代の客数昨対比はイオンリテール(千葉県千葉市)が113.6%、まいばすけっと(千葉県千葉市)が109.4%と伸長した。

飲料では、ノンアルコールでありながら、スパイスや果実を混ぜ合わせることで複雑な味わいと香りを表現する「クラフテル」シリーズが人気を呼んだ。MZ世代の客数昨対比はイオンリテールが同104.0%、まいばすけっとが同262.7%で、まいばすけっとについては2倍以上の伸びとなった。

24年度も、MZ世代をターゲットとした新シリーズや商品の投下を続けていく。
2月21日から販売を始めたのが、冷凍食品「トップバリュベストプライス ガッツリ飯×ガッツリ飯」シリーズだ。以前から「冷凍食品でボリューム感のある食品が食べたい」という声は寄せられていたといい、手軽に食べられるだけでなくメインディッシュにもなる付加価値型の商品をめざし開発された。

「バターチキンカレー×牛丼」(税抜498円)や、「中華丼×麻婆丼」(同498円)、「炒飯風ごはん&汁なし担々麺 から揚げのせ」(同498円)など、手軽でもボリュームがあり、学生でも満足できるメニュー同士をワンプレートにまとめている。

3月19日に発売した「トキメクおやつ部」シリーズは、「がんばる自分に寄り添うおやつ」がコンセプト。
トップバリュが10~30代前半に実施したアンケートやグループインタビューでは、おやつには空腹解消だけではなく、ストレス解消やリラックスなどの側面があるという回答が見られた。

そのような傾向を踏まえ、勉強や家事のストレス解消を目的とする「ムードフード」、栄養を補給する「チャージ」、カロリーを抑えお菓子を食べる罪悪感を減らす「ギルトフリー」などのテーマを設け、「癒しの魔導士グミ」や「がんばる戦士グミ」(同158円)、「糖質50%オフのチョコビスケット」「糖質50%オフのチョコレート」「完熟干し梅」「割り梅」(同158円)など、全37種類の商品を展開する。

MZ世代の反応見ながら商品開発を繰り返す

トップバリュ50年の発展を支えた商品たち。50年後にはどのような商品が並ぶのか

お客の高齢化が進むなかで、若年層の獲得に向けてPBを強化する動きは他の食品小売業でも見られる。イズミ(広島県/山西泰明社長)は23年4月、商品の企画から販売までを自社で一貫して行うオリジナル総菜ブランド「zehi」に「premium(プレミアム)」「season(シーズン)」「balance(バランス)」「trend(トレンド)」という4シリーズを追加した。このうち「trend」では「ビビンバ巻き」「ローストビーフ巻き」など、流行や話題性を取り入れた商品開発を行っている。
また、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長:U.S.M.H)も、サステナビリティに配慮した商品を取り扱うPB「GREEN GROWERS(グリーングロワーズ)」を22年6月よりスタートしている。いずれのブランドも若年層の取り込みを念頭に置いた動きだが、両者の商品担当からは実際に商品を購入する層は30~40代を中心に想定より上の世代が多く、より若い世代を取り込むことが今後の課題だという声も聞く。

MZ世代の来店動機をさらに高めていくため、イオントップバリュでは今後、どのような取り組みを行っていくのか。
土谷社長はMZ世代をターゲットとした商品開発で、学生とのディスカッションを取り入れている事実に触れ、「MZ世代の方は普段さまざまな場所で買物をしており、情報に敏感」と断った上で、「こちら側で考えたものを発信するよりも、MZ世代に受け入れられる商品がどのようなものかをきちんと聞き、発売後もMZ世代の反応を見定めたい。その上で反響があった商品にさらに注力することの繰り返しを通じて、来店頻度を高めていきたい」と話した。

お客の声を聞き、顧客視点に立った商品を提供するーー「ジェーカップ」の開発当時から一貫して変わらない商品開発の姿勢は、今後もトップバリュの発展を支える要となりそうだ。

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