最新機器で“線状降水帯”予測精度アップ!災害に立ち向かう「気象庁気象研究所」とは?ドラマや映画の気象監修も

台風、集中豪雨、熱波、寒波、雷、暴風…気象災害は時に私たちの生命や財産を脅かす。

私たち気象予報士は、日々の天気予報はもちろん、自然災害の被害を少しでも抑えるために情報発信しているが、私たちが発信する防災気象情報の元になる研究や、新たな技術開発を専門にしているプロフェッショナル集団がある。

それが気象庁気象研究所だ。

今回、現役の気象研究所・主任研究官で雲の専門家であり、大ヒット映画「天気の子」の気象監修でも知られる荒木健太郎さんから、気象のプロ「気象研究所・研究官」のお仕事について聞いた。

気象庁唯一の研究機関

気象研究所は茨城県・つくば市にある。

その歴史は古く、前身の「中央気象台研究課」は1942年に設立された。気象予報研究部や台風・災害気象研究部など8つの部に32の研究室を抱える、日本最大の気象に関する研究機関だ。

荒木さんはここで、台風・災害気象研究部の主任研究官を務めている。

――荒木さんが所属されている気象庁気象研究所について教えてください。
気象観測や予測の基礎的な技術開発とか、大規模な自然災害を起こす集中豪雨や台風、地震、火山噴火などの発生の仕組みを解明するための研究機関です。これらを通して、気象庁が発表する防災気象情報の高度化に関する研究を行っています。

――天気予報の精度を上げる研究、検証をされていると考えて良いのでしょうか。
そうですね。天気予報は防災気象情報の中の1つです。そこで予測技術そのものを高めるという意味合いで、結果的に天気予報の精度向上にも貢献すると思います。

むしろ、災害を引き起こす大気現象のメカニズムを解明して、観測や予測の技術を開発し、予測精度を高める。そして、気象庁の防災気象情報を高度化するのが目的というところです。

豪雨もたらす線状降水帯の予測精度を向上させる

気象研究所の研究対象は多岐にわたる。

毎年のように梅雨期に集中豪雨による水害をもたらす「線状降水帯」についても、研究を行っている。地上マイクロ波放射計という特殊な機器を使って、地上から上空の水蒸気量を高頻度に計測し、線状降水帯の予測精度を向上させるものだ。

荒木さんは、雲ができる前の大気がどのようになっているか、どのように雲が発達するのかを研究していて、地上マイクロ波放射計による観測の技術開発を行ったという。

荒木さんによると、地上マイクロ波放射計は、水蒸気と気温の高度分布を1秒間隔という高頻度で観測できるとのこと。これまでは気球をあげる観測により、12時間間隔でしか観測できなかったので、地上マイクロ波放射計の導入により、積乱雲や線状降水帯による大雨の監視・予測精度向上に繋がるということだ。

防災のため「日常的に気象を楽しむ」

荒木さんに、今後の研究や活動でやりたいことを聞くと、「基本的には防災をやりたいんですね。防災のために研究活動から、執筆や監修もしています。研究は気象庁の発表する防災気象情報を高度化するために行いますが、結局その情報が使ってもらえないと意味がないんです」と話す。

誰しもが能動的に「防災」に取り組むには「日常的に気象を楽しむための仕組みが必要」という信念を持つ荒木さん。SNSではきれいな空の情報を発信したり、危険な時には防災気象情報を発信したりする以外に、ユニークな取り組みをしている。

「関東の雪の研究の際は気象研究所で『#関東雪結晶』というプロジェクトを行い、一般の人にスマホで撮った雪結晶の写真を共有してもらって解析をする、市民参加型の研究『シチズンサイエンス』をしました。参加してくれた方を私は『雲友』って呼んでいるんですけど、防災意識やリテラシーを育むのにも有効で必要なプロセスかなと思います」

また、虹は偶然でしか出会えないと思われがちだが、レーダーで雨雲が頭上を通り過ぎるタイミングを見計らって、太陽と反対側の空を見れば虹が見える、といった体験が大事であり、「空を楽しむために気象情報を使うことを習慣づけて、いざという時に役立つ」という。

こうした体験が、結果的に防災に役立つのだ。

映画やドラマの監修も

荒木さんは、個人での活動の一環として、大ヒット映画「天気の子」(新海誠監督)の気象監修を担当した。

「メインストーリーがあって、その中で気象に関する描写や表現など、科学的に整合性をとっていくというスタンスで監修をしました。新海さんからビデオコンテというセリフをかぶせた動画が送られてきて、それを見ながらシーン毎にどんな雲や雨の表現が妥当かを検討しました」

作品に登場する「薄明光線」、いわゆる「天使のはしご」についても、時間や太陽の高さによって色が変わる様子などについて、専門的な観点から監修したという。

SNSや著書、ドラマや映画の気象監修など、様々な活動は、全て気象に関心を持ってもらうことを通じて「防災につなげたい」との熱い思いから始まっているのだ。

【執筆:日本気象協会 石榑亜紀子】

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