ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

年金の納付期間を5年延長する案が検討されるが…(C)日刊ゲンダイ

おおむね5年に1度行われる厚労省の「年金財政検証」。2019年の検証では約30年後の標準的ケースの給付水準が2割減ると公表されているが、今回は国民年金の保険料納付期間を5年延長する案(65歳まで)が検討される。契約時と支払い時の約束事が違う。民間保険会社なら訴えられるレベルだ。

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国民年金の納付期間延長の狙いは「給付額を増やす」ためと説明されている。

現在の保険料は月1万6980円。5年分の負担額は101万8800円となる。これに対し満額の受給額は月約6万8000円。納付期間が40年から45年に1.125倍に増えるのなら、受給額もその倍率の月7万6500円(8500円増)にならなければおかしい。国民年金は、自営業者や20歳以上の学生のほか、会社を定年退職した人も加入する可能性があるので他人事ではない。

「国民年金の保険料1万6980円は定額負担ですので、厚生年金の最低負担額8052円(折半額)の2倍ほど。会社員でも60歳を越えると雇用が不安定になる人もいますし、1万6980円の負担は心理的な不安感になるでしょう。もちろん5年長く納付した分、受給額も増えるのなら納得できますが、今の年金制度上では難しいと思われます」(特定社会保険労務士・稲毛由佳氏)

突然のルール変更。タレントのパトリック・ハーラン氏は情報番組で「アメリカだったら大きな反発、フランスだったら暴動が起きるくらいの条件だと思うんです。ずっと払っていた時の約束ともらう時の約束が違うじゃないかと」と疑問視。「皆さん素直なのはいいですけど、もう少し声を上げていいと思いますよ」と続けていた。

実際、フランスでは昨年、受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる政府方針に対し各地でデモや暴動が起き、ボルドー市庁舎の玄関が放火される事件まで起きた。結局、マクロン大統領は批判を押し切って64歳支給に引き上げたが、支持率は20%台にまで急降下している。さすがに放火はいただけないが、日本人は少しおとなしすぎるのではないか。

■「しょうがない」という声も多い

「しょうがないよねという声は確かに多いですね。国に『少子高齢化』『子や孫世代の負担を減らすため』だと言われれば、余計に反対しづらくなります」(稲毛氏)

しかしこれ、見事に政府の術中にハマっているのではないか。社会保障審議会(年金数理部会)の資料によれば、これまでの年金積立金がなかなかゴッツイ金額に膨らんでいるのだ。

■「財源が足りない」という国のウソに騙されるな

「22年度の年金収支状況は、収入総額が54.6兆円。内訳は保険料収入40.7兆円、公費負担13.4兆円などです。対して高齢者にお支払いしている年金給付費は53.4兆円。差し引き0.9兆円のプラスでした。さらにこの年の運用益は3.5兆円のプラス。これらの結果、年金積立金は前年度に比べ4.4兆円増の250.5兆円にまで膨らんでいます」(ジャーナリスト・中森勇人氏)

何かというと、保険料を払ってくれる若者が減っている、受給者が増えたと言われるが、今の高齢者や現役世代がコツコツ貯めた積立金が250兆円もある。「そこから補充すればよいのでは」という意見が出てくるのももっともだ。

民間保険会社がやったら訴えられるレベル

そもそも小泉政権だった20年前の「年金100年安心プラン」の試算では、1961年度生まれの会社員男性の厚生年金は「月額平均32万円」と公表されていた。もちろん、そうはならず、むしろ財政検証のたびに「マクロ経済スライド導入」「受給年齢の繰り上げ拡大」「パート労働者の年金加入」などどんどん条件が悪くなっていく。

これと同じことを民間保険会社が個人年金や養老保険でやったら、訴えられてもしょうがないレベルだろう。

企業年金の制度改悪でも、一方的な減額は認められないという最高裁の判断が出ている。

例えば、NTT退職者(約14万人)の企業年金減額をめぐって争われた裁判。NTT(原告)が支給額の減額を承認しない厚労相(被告)を訴えたものだが、東京地裁、東京高裁とも減額を認めず、最高裁も上告を棄却している(2010年6月)。特に東京高裁は株主配当を優先するNTTの姿勢を強く批判したほどだった。

もみじ銀行が退職役員の慰労年金を廃止したことで争われた裁判でも、最高裁は退職時に会社との間の契約内容が確定しているとし、原告の同意なく年金を廃止するのは無効と判断している(同年3月)。

一方で、企業年金の減額が認められたケースもある。松下電器産業(当時)が退職者年金の算定の基礎となる約定利回り年7.5~10%を2%引き下げる改定を行ったことで元社員たちから訴えられた裁判。当時の松下は経営状況が悪く、さらに年金規定に経済状況に変動があった場合の改定・廃止条項があったため、最高裁は「被告会社の経済状況からすれば、規定の改定は認められる」と判断した(07年5月)。

時の政権によって司法判断も変わる

前者の判断は民主党政権時、後者の判断は自民党政権時。あまり考えたくはないが、単なる偶然だろうか。

自民党政権に戻った現在はどうか。公的年金の受給者が支給額が段階的に引き下げられたとして国の減額処分取り消しを求めた集団訴訟。昨年12月、最高裁は減額を「合憲」と判断した。

その理由を裁判長は「年金を引き下げずに給付額を維持すると、現役世代に負担を強いることになり、財源の圧迫にもつながる」と指摘している。

ハテ? どこかで聞いたような話だ。

「加入年数を延長しないと維持できないような年金制度は、寿命が尽きた制度と言わざるを得ません。また、保険料の増額だけでは限界があり、最終的には税金として徴収するしかないでしょう。立憲民主党の肩を持つわけではありませんが、税金と年金保険料などを一体的に徴収する『歳入庁』の創設もひとつの案だと思います」(稲毛氏)

税金と聞くとアレルギー反応を起こす人もいるだろうが、所得の多い人には少し多めの負担をお願いし、また税方式なら国民年金の未納問題もクリアできる。

果たして、国の言っていることが正しいのか、それとも国民がおとなしすぎるのか。少なくとも「しょうがない」と言っているうちは何も変わらない。

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