【社説】食料安全保障 農業の基盤強化こそ急げ

 ロシアによるウクライナ侵攻や、気候変動の影響による凶作の頻発などで、世界の食料事情は逼迫(ひっぱく)している。大半を輸入に依存する日本にとっては極めて厳しい状況だ。

 政府は、食料安全保障の確保を基本理念にしようと、食料・農業・農村基本法の改正を目指している。改正案は既に衆院を通過した。

 輸入が途絶えた場合を想定した、食料供給困難事態対策法案も国会に提出している。万一への備えは当然だ。ただ実効性を高めるには、農業従事者はもちろん、国民の幅広い理解と協力が欠かせない。

 食料供給が不安定になった要因の一つは世界の人口だ。この四半世紀で20億人増え80億人に達した。国連の推計によると2050年には97億人にまで膨らむ。穀物需要が急増するのも無理はなかろう。

 干害や冷害に加え、戦火も障壁となる。ウクライナを見れば明らかだ。穀物の輸出が停滞し、中東や北アフリカなどで食料不足が起きた。

 日本はさらに、歴史的な円安に苦しんでいる。20年ほど前は、農林水産物の純輸入額の国別シェアで40%を占めていたが、今は18%になった。購買力が低下し、思うようには買えなくなっている。

 対策法案で政府は、段階的対応を想定している。まず、コメ、小麦、大豆といった特定食料が不足しかねない「困難兆候」の場合、コメの生産促進などを要請する。コメの大幅不足など「困難事態」になれば、農家に増産計画の届け出を指示し、従わない場合は20万円以下の罰金を科す。

 さらに悪化して、最低限必要な食料供給が確保できなくなれば、カロリーの高いサツマイモへの生産転換などを政府が要請・指示する。国民への配給を含め、戦時中を思わせる内容となっている。

 自然相手だけに、農作物は収穫までに月日が必要だ。緊急時に政府の思い描くようなスピードで生産が転換できるのか、不安は拭えない。

 むしろ、平時からの備えに力を入れるべきである。22年度の食料自給率はカロリーベースで38%と、先進国では最低レベルだった。政府が立てた30年度に45%という目標は遠のくばかりだ。

 自営農業を主な仕事とする基幹的農業従事者は年々減少し、高齢化も進んでいる。こうした課題は長年、解決の見通しが立たないままだ。

 予算を見ると、政府は近年、農政を軽んじているようだ。農林水産関係は1982年度の3兆7010億円をピークに減少。近年は2兆2千億円程度で推移している。

 農地の集約や大規模化といった構造改革を重視し過ぎている。北海道などでは理にかなっているが、平地が乏しく傾斜地の多い中国地方の中山間地域では無理筋だろう。

 農地は、治水などの国土保全や景観維持、水源と生物多様性の維持といった多面的な機能を持っている。いったん失われれば、おいそれとは取り戻せない。国費を思い切って投じ、各地域の特色を踏まえた農業基盤の強化策こそが今、求められている。食料安保にもつながるはずだ。

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