一度は引退して大工へ転身した男が32歳でメジャーデビュー!レッドソックス左腕のハリウッド映画顔負けの激動キャリア<SLUGGER>

ダグアウトに座り、ウイニングボールを手にして伏し目がちに感慨に浸る姿が、それまでの長い長い苦闘の道を物語っているようにも見えた。

4月19日(現地)、敵地ピッツバーグでのパイレーツ戦で、キャム・ブーサー(レッドソックス)がメジャーデビューを果たした。x対xで迎えた9回にマウンドに上がった左腕は1点を失ったものの、MVP受賞歴もあるアンドリュー・マッカッチェンを空振り三振に切って取るなどして1イニングを切り抜け、勝利に貢献した。

ブーサーは現在31歳。彼は、一度は球界から足を洗ったはずだった。

強豪オレゴン州立大からドラフト外で2013年にツインズに入団したが、トミー・ジョン手術やバイク事故など相次ぐ不運に加え、本人の素行不良もあり、17年のシーズン終了後に25歳で現役引退。その後は、父が長年勤める建設会社で大工として生計を立てていた。

当時を振り返り、ブーサーは「現役に戻るつもりはまったくなかった」と語る一方で、「現場で働いている時も、毎日野球のことを考えていた」と未練があったことを認める。

アマゾンやマイクロソフトのオフィス、シアトルのダウンダウンの高層ビルの建設に携わる傍ら、地元の子供たちに野球を教えるようになったことが転機となる。野球への情熱を取り戻すとともに、肩や肘の痛みが消えていたことに気付いたのだ。 少年野球のチームの練習が終わった後も、一人フィールドに残って投球練習を続けた。ある日、マウンドに上がって球速を計測すると97~98マイル(約156.1~157.7キロ)を計測。ブーサーはカムバックを決意した。

21年、独立リーグのシカゴ・ドッグスに入団。ダイヤモンドバックス、再び独立リーグのチームを経て今年2月にレッドソックスとマイナー契約を交わすと、春季キャンプで首脳陣の目に留まり、今回のメジャー初昇格につながった。

かつて、35歳でメジャーデビューを果たした高校教師を主人公にした『オールド・ルーキー』という映画がヒットしたことがあった。近い将来、ブーサーの波乱万丈のキャリアも同じように映画化されるかもしれない。

構成●SLUGGER編集部

© 日本スポーツ企画出版社