大リーグ選手会副委員長ブルース・マイヤーの解任問題は今後の労使交渉を左右する(鈴村裕輔)

大リーグ選手会のクラーク委員長(左)とマイヤー副委員長(C)ロイター/USA Today Sports

【メジャーリーグ通信】

今年3月、大リーグ選手会の一部の執行役員が、副委員長のブルース・マイヤーの解任と元選手会の弁護士であったハリー・マリノの起用を、委員長のトニー・クラークに求めた。

マイヤーは2018年にNHL選手会から移籍し、選手会の副委員長に就任。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した20年には、選手会の責任者として経営者側との交渉に臨み、経営者側の案を拒否。日割り計算で年俸の60試合分の金額を勝ち取った。

21年オフの労使協定の改定の際には経営陣による施設封鎖を受けながら、最低年俸額の引き上げやぜいたく税の上限額の引き上げなど選手側に有利な条件での妥結を導いた。

球団経営者に対する強硬な姿勢と妥協を排した交渉から、マイヤーはしばしば好戦的と称される。

そのようなマイヤーが招聘されたのは、13年に委員長となったクラークが交渉事を得意としておらず、16年オフの労使交渉でも経営者側に有利な内容を受け入れたという過去があるためだった。すなわち選手の一部から、クラークはあまりに妥協的であり、解任を画策する動きがあったのである。

委員長の解任は実現しなかったものの、求心力が低下したクラークは労使交渉の経験を持つ弁護士を要職に迎えることで事態の打開を図った。

こうして1986年に名門法律事務所のワイル・ゴッチェル&マンジェスに入所して労使交渉を担当し、後にNFL、NBA、NHLの選手組合で十分な経験を積んだマイヤーが副委員長となったのだった。

だが、一部にはクラークとマイヤーが有力な代理人スコット・ボラスと親密な関係にあり、ボラスと契約する選手が有利な契約を結んでいるという批判があった。そうした不満が今回の騒動をもたらしたのである。

クラークは、マイヤーの解任を拒否したとはいえ、他の役員がこのまま引き下がるとは思えない。

もしマイヤーが解任されれば、マイナーリーグ経験者でマイナーリーグの選手会を結成したものの、労使交渉の経験のないマリノを相手とする方が経営陣にとっては有利となる。それだけにマイヤーの処遇が今後の労使交渉に大きな影響を与えることになるのである。

(鈴村裕輔/野球文化学会会長・名城大准教授)

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