パナソニック ホームズ 肺がん患者数は増加中、PM2.5の悪影響が懸念

大気を汚染する物質として一般消費者の間でも関心が高まっているPM2.5。中国で大気汚染が深刻化する中、日本においても健康被害が懸念されるようになっている。パナソニックホームズは「空気質」をテーマにメディア向け勉強会を開催。慶應義塾大学 医学部 井上浩義教授および、同社R&Dセンター環境技術研究室長の梅本大輔氏が共同研究の成果などを解説した。

パナソニック ホームズは、住宅の空気質や温熱環境が快適な住まいを実現する重要な要素であると考え、社内研究部門のR&Dセンターにおいて開発商品の有効性を検証し、商品の改善や新技術の開発に取り組んできた。2015年に慶應義塾大学 医学部 井上浩義教授との共同研究を開始。実住宅でのPM2.5の低減効果などを科学的に実証してきた。

「居住者の健康・抗加齢に寄与し、長生きできる住まいづくりに貢献していきたい」と話す梅本室長
井上教授は「PM2.5は、呼吸器や循環器、消化器など、様々な疾患リスクを高める」と話す

井上教授は、医薬品の開発を通じて1990年代からPM2.5の研究に携わる。「日本では男女ともに長寿になればなるほど肺疾患が増えている。喫煙率が下がってきている現在も死亡原因の第1位は肺がんで、年々増加し続けている。これはPM2.5などが及ぼす肺への悪影響によるものと考えられる。近年は世界的な工業化が進み、PM2.5が国を超えて飛来するようになっている。つまりどこに住んでいてもPM2.5にさらされ続けている」と指摘する。

PM2.5とは、直径2.5マイクロメートル以下の粒子のこと。1㎜の400分の1の非常に小さな粒子で水滴などにも含まれる。現在、問題になっているのは硫黄酸化物(SOX)、窒素酸化物(NOX)を含むPM2.5で、井上教授はこれらが人体に悪影響を及ぼす懸念があるという。環境省が公表する、ばい煙年間排出量の推移によると、SOXは減少傾向にあるが、NOXは高い水準を維持したまま推移している。

PM2.5にさらされ続けることで呼吸器や循環器、消化器などの病気のリスクが高まる懸念がある。まず懸念されるのが呼吸器系の疾患だ。「恒常的に吸い込んでいると、気管支、肺などの病気を発症する可能性がある。気管支炎や気管支喘息、肺がんなどの原因になる」。また、「肺の奥に入りやすく、肺胞から血管に入り込んでしまい、血管を詰まらせる恐れがある。そうなると高血圧や心不全、脳梗塞を引き起こす。さらに、口から吸いこんだPM2.5はのどなどの粘膜に付着し、胃や小腸にも入る。ここには栄養を吸収するための小さな血管がたくさんあり、これらを詰まらせる恐れがある。小さな血管なので詰まると破裂し、消化管出血、つまり下血を引き起こす」。そのほかにも、眼疾患、アレルギー疾患、各種臓器の発がんなど様々な疾患の原因になる懸念があるという。

PM2.5がさらに厄介なのは、家の中に逃げても防ぐことができないことだ。「PM2.5は、あまりに小さな粒子なので、どこにも入り込んでしまう。調査を行うと、家の中にもPM2.5は出てくる。家の中が安全ということではない。PM2.5の濃度が高い日は外出を控えるように注意喚起がされるが、家の中に逃げ込んでも全体の15%程度しか防ぐことはできない」という。

井上教授と共同研究

空気質改善の効果を実証

全館空調システム『エアロハス』イメージ

同社は、2015年に、顧客の協力を得て0.3μmの微小粒子を99.97%捕集できる高性能な「HEPAフィルター」搭載の換気システムを採用し実際の住宅を用いて効果実験に取り組み、室内のPM2.5が外気に比べて80%以上低減できるという結果が得られた。2021年にも同じ内容で実験を実施しほぼ変わらない効果を維持していたことを確認した。2017年4月には、全館空調システム『エアロハス』を発売。専用エアコン1台で、居室だけでなく廊下や洗面室などの非居室空間も換気・空調し、四季を通じて、家の中を快適な温度にし、心地よく過ごすことができる。また、専用エアコンが入る空調ユニットから宅内へ搬送する空気は、「HEPAフィルター」でしっかり浄化することで、ホコリや花粉はもちろんPM2.5にも対応し、安心の空気環境を保つ。

梅本室長は、「『エアロハス』は、床下から取り込んだ空気を、HEPAフィルターを通して室内に供給し、室内の空気を素早く循環浄化することができる。外から取り込む空気を徹底的にきれいにする仕組みと、窓開け換気や調理・布団の上げ下ろしなど、生活の中で発生するPM2.5を含んだ室内の空気を循環浄化する仕組みの2つがそろっているからこそ、住まいの空気が一定して正常な状態に保たれやすくなっている」と説明する。

2023年5月には、同社の既築住宅に住む顧客に向け、快適・省エネな暮らしを提案する『リフォーム用全館空調』を発売した。各階に室内機を設置することで、全階はもちろんワンフロアだけの空調も可能なほか、「HEPAフィルター」を採用した換気システムにより、きれいな空気を均一な温度で室内に巡らせ、建物内外の温度差を感知して自動で省エネ運転。居室や共用部の温度差を解消し、冬場に発生しやすいヒートショックのリスクを低減する。

そのほか、全館空調(HEPAフィルター搭載)・床暖房・個別空調、それぞれの住まいで、戸建住宅から転居した居住者を対象とした転居前、転居後の比較調査では、花粉症・アレルギー性鼻炎・手足の冷え・睡眠・活動意欲など、の項目で、全館空調(HEPAフィルター搭載)での改善率が優位に高いことなども分かり始めている。梅本室長は、「空調方式の選定は、健康症状・生活の質に及ぼす影響が大きいことが示唆される。HEPAフィルター搭載の換気システムが、どのように住まう人の健康に寄与するのか、井上教授との共同研究をさらに進めて、居住者の健康・抗加齢に寄与し、長生きできる住まいづくりに貢献していきたい」と話す。

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