転がる石には

 〈転がる石には苔(こけ)が生えない〉という英国産のことわざがある。元々は、転がってばかりいると本来身につくべきものが一つも獲得できない…という意味だったようで「石の上にも三年」と同じ趣旨の戒めだったらしいが▲このことわざには有力な“別解”があることが広く知られている。活発に動き続ける石には苔なんか生えない、時代に取り残されることなくいつもフレッシュでいられる…というポジティブな解釈がそれ▲昨今はポジティブ派が優勢なのかもしれない。「就職先の会社でいつまで働きたいか」を問われて26%が「チャンスがあれば転職」と回答した-という新入社員意識調査の記事が昨日の経済面にあった▲「チャンスがあれば」の条件付きとはいえ「4人に1人」はなかなかの高率に思える。ちなみに「定年まで」と答えたのは21%。両者が逆転したのは18年ぶりという▲もとより、年功序列も終身雇用も「揺らぎ始めている」とささやかれて久しい。企業への帰属意識や忠誠心が変化していても不思議ではない。記事には人手不足で転職しやすい環境が整っている、との分析もあった。そういえば、自治体職員の中途退職が激増している、という記事も少し前に読んだ▲ウチのルーキーはどうだろう、と案じる人事担当者の心配顔が浮かぶ。(智)

© 株式会社長崎新聞社