「みんなのボルテージは管理したい」開催国カタール戦で、CB木村誠二は冷静さを貫く構え「逆に審判を味方につければ、かなりプラス」【U-23アジア杯】

FC東京のアカデミー育ちで、世代別代表に名を連ね、大岩ジャパンではチームの立ち上げ当初から継続して活動に参加してきたCBの木村誠二。現在は、カタールで開催されているU-23アジアカップ(パリ五輪アジア最終予選を兼ねる)に参戦中だ。

同大会の直前に行なわれた3月シリーズは招集外だった。今季から加入した鳥栖で、シーズン前のキャンプで負傷。左のハムストリングを痛め、いきなり2か月弱の離脱を余儀なくされた。

ピッチに戻ってきたのは、4月3日に行なわれたJ1第6節の神戸戦(0-0)。89分からの途中出場だった。それでも、翌日のメンバー発表では、U-23日本代表のリストにその名前があった。

「僕自身、選ばれる可能性は本当に低いと思っていた。そのなかで選んでいただいたので、すごく感謝している」(木村)

望外の代表選出を経て、続く7節の浦和戦(0-3)はフル出場。状態が上がってきたタイミングで、カタールへ渡れたのはポジティブな要素だった。もっとも、ギリギリで間に合ったのも事実。怪我明けの状態で選んでもらったのだから、より一層、モチベーションも高まる。

グループステージ初戦の中国戦(1-0)。CB西尾隆矢(C大阪)の退場によって、22分からスクランブル出場。右CBで安定感のあるプレーを見せ、怪我の影響を感じさせない出来で勝利に貢献した。

続くUAE戦(2-0)には先発。左CBで奮起しつつ、攻撃面でも活躍する。0-0で迎えた27分、CKの流れからMF山本理仁(シント=トロイデン)のクロスに反応し、豪快なヘディングシュートでネットを揺らした。

「感謝するだけではなくて、しっかり結果で恩を返したい。この大会は優勝とか、パリオリンピックの切符を掴むことをチーム全員で目標設定しているけど、僕自身で言えば、結果でやっぱり感謝を表わしたい。UAE戦で1点を取って結果を出せたのは、すごく嬉しいですね」

貴重な先制点が、自身にとって大岩ジャパンでの初ゴール。「今までも何回か打っている場面があったので、やっと入ったかという感じ」と苦笑いを浮かべたが、グループステージ突破が懸かる大事な試合で奪ったゴールの喜びは格別だった。

0-1で敗れた最終節の韓国戦はベンチで戦況を見守ったが、高さとスピードを兼ね備える木村の存在感は日増しに高まっている。ノックアウトステージでもその力が必要であり、25日の準々決勝・カタール戦でも活躍が期待されるのは言うまでもない。

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23日は夕刻からトレーニングをスタートしたなかで、チーム全体でカタールの情報はまだ共有されていなかった。警戒すべき選手などはインプットされていないが、気をつけたいポイントがあると木村は言う。それがレフェリングだ。

「アウェーの雰囲気に飲まれないようにして、どれだけ自分たちの力を100パーセント発揮できるか」と前置きしたうえで、主審のジャッジに細心の注意を払いたいと話す。

「(相手が開催国なのでジャッジが)厳しくなるのは分かる。ただ、VARもあるので、真っ当なプレーであれば、カードは取られないし、ファウルもしっかり見てくれると思う。それでもペナルティエリア内とか、ゴールに近いところでは気をつけないといけない。逆に審判を味方につけることができれば、かなり僕らにはプラスになる」

冷静沈着に振る舞い、どんな状況でも惑わされない。万が一、チームとして熱くなるような場面があれば、木村は積極的に落ち着かせる役割も担いたいと口にする。

「ジャッジはしょうがないので、何か言ったところで変わるわけでもない。本当にダメなジャッジだったら、後から何か処分があるはず。いちいち怒って審判に詰め寄ってしまうと、無駄に時間が削られるし、より審判を怒らせて相手側につかせてしまうかもしれない。

なかには怒ることも必要かもしれないけど、僕は守備の選手として落ち着きたい。熱い雰囲気になってしまったのであれば、みんなのボルテージは管理したいですね」

実際に今大会は際どい判定が目立ち、VARが介入し、オン・フィールド・レビューの末に退場処分になるケースも少なくない。そうした状況下で我を見失っては勝利が遠ざかってしまう。だからこそ、木村は仲間を落ち着かせ、冷静に戦う姿勢を貫く構えでいる。

ノックアウトステージは、負ければ終わりの一発勝負。ひとつのミスや不要な振る舞いが命取りになる。怪我から戻ってきた木村は、日本を代表して戦える喜びと責任を感じながら、チームを勝利に導くために、全身全霊を注いで戦う。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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