【霞む最終処分】(35)第6部 リーダーシップ 政府㊦ 政治責任に危うさも 処理水の「強引さ」懸念

与党の復興加速化のための第12次提言。「政治主導」の文言が書き込まれたが、危うさもはらむ

 3月19日に閣議決定された東日本大震災からの復興の基本方針の改定。政府は東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の福島県外最終処分に向けた除染土壌の再生利用について「政府一体となった体制整備を進め、具体化を推進する」と明記し、政治主導の姿勢を打ち出した。

 こうした判断の背景には、除染関連事業を担当する環境省への政府内の不満がある。関係者からは「(県外最終処分、再生利用という)日本全体の課題に臨む体制が、環境省だけというのは荷が重過ぎる」という声が上がる。

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 政府の基本方針の改定に影響を与えた自民、公明両党による復興加速化のための第12次提言は除染土壌の再生利用先を確保するに当たり、福島第1原発の処理水海洋放出を決めた際の経験を踏まえるように進言している。

 政府は2021(令和3)年4月の海洋放出方針や昨年8月の放出開始日など大きな政策決定に際し、関係閣僚会議を開いてきた。議長は官房長官だが、重要な局面では原子力災害対策本部長を務める首相が直接、決断を下してきた。

 提言取りまとめを主導した自民党東日本大震災復興加速化本部長の根本匠(衆院本県2区)はこうした対応を念頭に、「政府一体」との文言を提言に盛り込んだと明かす。「復興については首相が先頭に立つ。処理水の時も最後は首相が決断した」と意義を強調する。除染廃棄物の県外最終処分の問題にも政府が一丸となって対応し、日本全体の問題として臨む姿勢を明確にする狙いがあった。

 処理水の海洋放出の事例が示すように、政治主導は省庁の垣根を取り除き、トップダウンで難題を進展させるやり方だ。一方、霞が関には「権力者が国民の声を無視して物事を進めかねない―との危うさもはらんでいる」と見る向きもある。実際、処理水の海洋放出に至るまでの政府の決定過程を「強引に進められた」と受け止めた県民は少なくない。政府への批判は今も根強く残る。

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 環境省は2024年度、国際原子力機関(IAEA)による安全性評価を踏まえ、除染土壌の再生利用や最終処分のための基準を策定し、理解醸成を図る活動を本格化させる方針だ。処理水の海洋放出に先立っても、IAEAから「国際的な安全基準に合致する」という「お墨付き」を得たことが理解浸透への助けになったとみている。

 ただ、政府は処理水を巡っては「結論ありき」のみならず、「その場しのぎ」の進め方を繰り返し、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」とした「約束」の解釈をすり替えてまで海洋放出に踏み切った。2045年3月までの除染土壌の県外最終処分の完了は、法律に明記された県民との「約束」だ。県民からは処理水を巡る対応のように、ないがしろにされないかといぶかしむ声も出ている。

 復興事業に長く携わってきた政府関係者の一人は「除染土壌の県外最終処分には処分場所の選定が必要になる。処理水放出の教訓を踏まえ、国民の声に真摯(しんし)に耳を傾けなければ、物事は進められない」と自らを戒めた。(敬称略)

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