栄養の入り口である「口」を理解していますか?

口腔環境が及ぼす味覚への影響

摂食嚥下障害患者さんが、「口」から安全においしく食べられるようサポートしていくのはなかなか大変です。硬さ、付着性、凝集性などに配慮した食品の形態調整について、患者さんや調理者へ説明し実行できるようにすることは、決して容易ではありません。しかし、患者さんの摂食嚥下機能に合った食形態に調整することで、誤嚥や窒息のリスクを減らし、栄養状態の改善や「食」の楽しみをサポートすることは、管理栄養士にしかできない「技術」だと思います。

口腔内の環境によって、咀嚼・嚥下機能だけでなく、味覚にも影響が出ます。「味」は、唾液に溶けて味蕾を通ることで感じるため、唾液の量が少なかったり、口腔内が乾燥したりしている状態では感じにくくなってしまいます。また、加齢に伴って味蕾の数は減少するため、高齢者は味を感じにくくなると言われています。ほかにも、疾患や治療の過程における薬剤との関連や亜鉛欠乏、口内炎や舌炎などでも味覚異常が起きます。そのため、味覚異常を訴える患者さんについては、疾患や薬剤だけでなく、口腔環境も確認する必要があるでしょう。

口腔機能のどこに障害があるのか把握する

咀嚼も食事摂取に大きな影響を与えます。
咀嚼するには、唇を閉じ、舌や頬の筋肉を使って歯の上に食べ物を載せなければならないため、歯だけで咀嚼しているわけではないことを、皆さんもよくご存じだと思います。したがって、口唇閉鎖ができなかったり、舌の動きが悪かったり、頬の筋肉が弱かったりすると、うまく食べ物を歯の上に載せることができず、食べ物を細かくしたりすりつぶすことができません。口をもぐもぐと動かしているように見えても、実際には上下運動しかできておらず、噛んでいないため食べ物の形は変わっていない、ということもあります。かといって、何でも刻めば食べやすくなるというわけでもなく、対応方法は個人差が大きいところです。

その人に適した食形態を提案するためには、口腔機能のどこに障害があるのかを把握する必要があります。ただ単に噛み合う歯がない場合もありますし、嚥下機能が落ちていることが原因であることもあります。

口から食べ続けてもらうための聞き取り

痩せていて余力のない方は1週間程度で食べづらさが急に増すことがあるので、誤嚥や窒息に注意が必要です。また、摂食嚥下障害がある場合、使えない機能を補うために、すすり食べをしたり、飲み込む時に顎が上がったりすることがあります。どちらも誤嚥のリスクが高くなるので、食事場面はしっかり観察したほうがよいでしょう。

不顕性誤嚥の場合はむせないため、誤嚥しているという自覚がない方が多い印象です。しかし、検査をしてみると誤嚥していることが多く、検査の画像を患者さんと一緒に見ながら説明するなど、説明の際も配慮が必要だと感じます。
ある程度咀嚼も嚥下もできるけれど、液体で不顕性誤嚥がある場合、食べ物の離水に注意が必要でます。安全に食べられる食形態が、日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021のコード2であればある程度均一ですが、これがコード3~4にステップアップすると、患者さんもいろいろなものを試してみたくなることがあります。そのような時には、改めてご自身の嚥下機能を理解してもらいつつ、介助者は特に気を配るようにします。

発熱や痰の増加、痰の色の変化など、誤嚥を示唆するような所見がないかを確認しながら、栄養指導を行います。特に食形態の変更時には注意深く確認します。入院中であれば病院食を食べていますので、献立を明確に把握できます。しかし外来の栄養指導では、よく聞き取りを行わないと、誤嚥しやすいものを食べていても気づけません。
また、お茶や水などはとろみを付けていても、パンをスープやコーヒーに浸して食べていたり、高野豆腐の煮物を食べていたりと、「大丈夫だったのかな?」と思うようなこともしばしばです。
ただ、患者さんが好きなものやおいしいものを食べている時は、嚥下機能がいつもよりよくなっているような気がします(あくまでも「感覚」ですが)。

管理栄養士も口腔環境にアンテナを張ろう

おいしく安全に口から食事をするためには、口腔環境を整えることが必須です。口腔内に何らかの問題があると、食事摂取量や栄養状態の低下に直結します。
食形態の調整や摂取栄養量を増やすためには、栄養指導が必要ですが、退院したあとも継続してサポートを受けている患者さんは多いとは言えない印象です。退院後も十分な支援が受けられるよう、急性期から在宅まで管理栄養士同士がつながりをもち地域連携を進めていけば、あらゆるステージで食べることに困っている方のサポートを可能にすると思います。
同じように、歯科との連携の必要性を痛感する場面が多々あります。摂食嚥下障害だけではなく、義歯の使用や矯正、口内炎などに義歯より食事摂取が困難になった場合のアドバイスはもちろんのこと、食育や虫歯予防、生活習慣病との関連からのかかわりにも期待できます。

栄養(食事)を専門とする管理栄養士は、関連の深い歯科と医科をつないだ栄養サポートをめざし、栄養の入り口である「口」についてもっと知識を深めるべきです。また、安全に食べられる嚥下調整食を調理する技術をもっと習得し、病態も理解して患者の「食」を含めた生活をサポートしていくことが重要なのだと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2023年7月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士

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