年金月10万円・認知症の母、ようやく特養へ…「バツイチ・無職・50代出戻り娘」が、周囲に助けを求められなかった、気の毒過ぎる理由

(※写真はイメージです/PIXTA)

親の介護は突然降りかかってくる。もしそのとき、子どもの人生が不安定な状況だったら、その負担は計り知れない。介護施設に入所させられればいいのだが、いろいろなしがらみがあり、ひとり抱えて苦しんでいる人もいる。実情を見ていく。

50代バツイチ女性…実家に身を寄せたとたん、母が要介護状態に

神奈川県在住の50代女性は、40代のときに離婚し、転居先のアパートが決まるまでの期間、一時的に実家へ身を寄せていた。ところが、女性の母親が外出先で転倒し、骨折。要介護状態になってしまった。想定外の出来事が重なり、女性の介護生活がスタートした。

女性は介護をしながらも片道1時間半をかけて仕事を続けていたが、1年後、今度は父親のがんが発覚。介護負担が一気に重くなり、やむなく離職した。

父親は、数回の入院と手術を繰り返したあと、がん発覚から3年後に他界。そのころから母親には認知症の兆候が見え始め、女性の負担はさらに増してきた。

日本では、今後一層の高齢化の進展が想定され、それに伴って認知症患者もさらに増加すると考えられている。ある試算では、2025年には675万~730万人(19.0~20.6%)、2030年には744万~830万人(20.8~23.2%)、2040年には802万~953万人(21.4~25.4%)になるともいわれている。

「両親それぞれの食事を作り、食べさせ、薬を飲ませ…。洗濯はお天気に関係なく毎日あります。日々、目が回るような忙しさで、あっという間に年単位で時間が過ぎてしまいました」

「母は認知症で足腰も不自由でしたが、それでも目を離すと勝手に移動してしまい、本当に大変でした。洗濯が終わる寸前の洗濯機に、粗相で汚した下着を入れて台無しにしたことも、乾燥機を勝手に止めて、着るものがなくなってしまったこともあります」

頭に血がのぼり、思わず母親を怒鳴ってしまったこともあるという。

介護経験者の元同僚が助けてくれて…

そんな追い詰められた状況に救いの手を差し伸べたのは、久しぶりに連絡をくれた、以前の勤務先の同僚だった。

「会社に勤めていたときは一緒に旅行に行くほど親しくしていたのですが、両親の介護で離職してからは、ずっとご無沙汰していました」

すでに両親を見送ったという元同僚は、女性の近況を聞くと、母親をすぐ介護施設に入所させる手続きを取るようアドバイスした。

「もちろん〈施設への入所〉という選択肢があることはわかっていました。ですが…」

女性が離婚したことで両親には多大な心労をかけ、それが原因でいまのような状況になったと、女性のきょうだいや親族から責められているというのだ。

「母が歩けなくなって認知症になったのも、父ががんになってなくなったのも、私が離婚して心配をかけ、実家に甘えすぎて迷惑をかけたからだ、責任を取るべきだと、姉やおばたちから責められました。私も自分が悪いと思いましたし、とても〈助けて〉とはいえませんでした」

しかし、女性の元同僚はその話を一蹴。親切なことに、わざわざ仕事を休んで女性のもとを訪れ、やるべき措置をテキパキと伝授してくれた。限界まで追い詰められていた女性は、同僚の行動に救われ、思わず泣いてしまったという。

老人ホームのタイプ…すべてが認知症を受け入れるわけではない

老人ホームには複数のタイプがあり、すべてが認知症患者を受け入れてくれるわけではない。受け入れがあるのは主に下記の施設になる。

■グループホーム(認知症が対応型生活介護)

認知症の症状をもつ9人を1グループにした少人数制のホーム。医療ケアや重度の介護が必要になった場合の対応は施設によって差がある。相場は初期費用が0~100万円程度と幅があり、月額費用は15万円程度。

■特別養護老人ホーム(特養)

公的な介護施設にあたり、原則要介護度3以上の方を対象とする。認知症患者は要介護度2以下でも入居可能な場合も。ある程度の医療ケアも可能なことも多い。初期費用は0円。月額費用は多床室で約10.42万円、ユニット型個室で約14.14万円。

■有料老人ホーム

民間企業が運営するホーム。主に3つのタイプがあるが、認知症患者の受け入れは「介護付き」「住宅型」で、前者のほうが介護度の要件は幅広い。初期費用の相場は500万~1,000万円で、月額費用は20万~40万円程度。

■サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

民間企業が運営するバリアフリー住宅。認知症患者への対応は幅がある。初期費用の相場は10万円程度、月額費用は15万~30万円程度。

父親の相続時に現預金が激減。今後、費用の不足が生じたら…

女性の母親の年金は月10万円程度。民間の老人ホームへの入所は予算的にむずかしく、特養へ入所することになった。特養は人気が高く、都市部では何年も順番待ちをするケースもあるが、女性の実家があるエリアは郊外であり、比較的早く順番が回ってくるという、ラッキーなケースだった。

「母はまだ70代です。認知症の症状は進み、足腰も悪く満足に歩けませんが、内臓は丈夫で、食事は私よりよく食べ、体重も私より10キロぐらい重いです」

母親の介護から解放された女性だが、表情はさえない。

「父が亡くなったとき、姉はきちんと権利を主張し、預金の大半を持って行ってしまいました。母は姉に甘く、言いなりです。特養の入所も、現状では母の年金10万円でギリギリ回っていますが、もし追加の費用が発生したらアウトです。母名義の実家を売りたいですが、母があの状態ですから、現状では無理。わずかな母の貯金が尽きたら、恐らく私が負担するしか…」

女性はいま、近所でパート勤務をして生活費を稼ぎながら、なんとか正社員として働きたいと、必死で就職活動をしている。

親の介護により、中年世代の子どもの人生に大きな負担がかかっているケースは多い。仕事にしろ家庭にしろ、子どもの人生の基盤が安定していればまだいいのだが、転職や離婚等で子どもの生活が不安定なところに介護が重なると悲惨だ。いっそのこと、子どもが手を引いて行政に丸投げできればいいのだが、なかなかそこまで思い切れる人ばかりではない。

だが、不安定な状態で親を背負い込み、周囲からの協力も得られないとなれば、負のスパイラルにはまり込んでしまう。

そのような状況はぜひとも回避すべきであり、親族や周囲の人たちも、気づいた時にはぜひとの手を差し伸べ、ともに解決の道を探ることが重要だ。

[参考資料]

内閣府『認知症年齢別有病率の推移等について』

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