“地味な人”扱いだったが…月収20万円の25歳契約社員が「まさかの独立」→1年で大成功も、元同僚たちが驚かなかったワケ【経営コンサルタントが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

起業と聞くと「特別なスキルや才能、資産がなければ成功しない」と考える人は少なくありません。しかし、日本では1日におよそ400社近くの法人が設立されています(東京商工リサーチ:2022年「全国新設法人動向」調査より)。今回、経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が、起業に対するイメージが変わるかもしれない具体的な事例を紹介します。

会社では“地味なオタク”のレッテルを貼られていたTさん

あなたの会社にも、派手な成果を上げるわけでもなくどちらかというと目立たないが、ある特定の分野ではものすごい知識と情熱を持ち合わせている、いわゆる“オタク気質”の人はいないだろうか。

残念ながらたいていの場合、こうした人の周囲からの評価は高くなく、普段は「変わった人」「地味」といったレッテルを貼られ、重宝されているとは言い難いケースが少なくない。

都内にある、30人ほどの従業員を持つシステム会社に契約社員として勤めていたタクミさん(仮名・25歳)も、そんなうだつの上がらないエンジニアのひとりだ。

アニメやゲームに対する情熱が人一倍強い青年だったタクミさんは、与えられた仕事を一応はこなせるものの、勤務中は淡々としているため、周囲からは「大人しくて地味な人」という印象を持たれていた。

彼の専門知識が仕事のパフォーマンスに直接活かされることもないため、職場では彼の強みが十分に理解されていない。収入も成果報酬型であるため、平均すれば月収20万円をキープしていたものの、時にはほとんど収入のない月もあった。

目立たない存在だったタクミさんの「転機」

そんな鳴かず飛ばずなイメージだったタクミさんに、あるとき、とんでもない転機が訪れる。

アニメ関連の業務を任されたことがきっかけで、タクミさんは人知れず持っていたデータ分析能力を開花させ、大きな成果を残すことができたのだ。

自分でも驚いた彼は、その経験を活かして独立し、彼独自のビジネスを興すことに成功。わずか1年で飛躍的に成長し、年商5,000万円にまで成長させることができたのである。

タクミさんの成功の裏には、本人が「無形資産」の存在に気づき、それを最大限に活用できたことがある。

無形資産とはいわゆる「財産リストには載らない資産」のことであるが、誰しも持っているものでありながら、見えないがゆえに気づかないことも多い。

「潜在能力×こよなく愛するアニメ」で才能が開花

当時、とあるアニメの新シリーズがリリースされたタイミングで、タクミさんはその作品の特定のキャラクターについてファンの反応を分析することになった。

社員の間で「どうせならアニメに詳しい人にやらせたほうがよいのではないか」と、タクミさんをチームに加えようという話が持ち上がったのだ。

それまでは、人に言われたとおりにソースコードを書くことが仕事だったタクミさん。「あいつにマーケティング分析なんてできるのか?」と心配する声もあったが、声をかけてみると本人もまんざらでもなく、試行的にアサインされることになった。

マーケティング分析をするにあたって、タクミさんはまず当該作品に関するフォーラムやSNSで、ファンが共有するキャラクターのイラストや物語の考察を追いかけた。

特に注目したのは、人気のあるキャラクターの特性やファンが求める物語展開だ。ファンの好みも一定ではなく、どうやら時間とともに変化しているらしい。また、キャラクターの特性によって人気に差が出ることも改めて理解できた。

その後、順調に分析を進めていると、ふと、クライアントが自社の製品やサービスに関する類似データを活用していないことに気づいた。そこで彼はチームのメンバーに、マーケティング効率を大幅に向上させるためのデータ分析を提案。自身のアイデアをサービスとして確立したのであった。

マイナスイメージから一転、“オタク気質”はタクミさんの「強み」に

「好きなものをとことん愛す」という“オタク気質”は、他のチームメンバーにない彼独自の視点であった。結果として、彼がアサインされたことでチームは革新的なビジネスモデルを生み出すことに成功。いままで水面下にあった彼の才能が仕事として結実し、最終的にクライアントからも大きな評価を得たのであった。

これをきっかけに、会社はマーケティング効率が飛躍的に上がるサービスを他のクライアントにも積極的に提案するようになった。

タクミさんは当然社内で評価されるようになったが、やがて「自分がもっとワクワクできるテーマを自由に選びながら、自分のアイデアをサービスとして拡大したい」と独立を決断。会社から離れ、フリーランスとして自らビジネスを立ち上げることになった。

起業当初は、クライアントの信頼を失う場面も…

もちろん、最初はうまくいかないこともあった。そのひとつが、「個人情報保護」に関する問題だ。

彼のビジネスは顧客データの分析に重点を置いていたが、顧客データの取り扱いについての明確な方針がなかった。そのため、彼の分析したデータが、十分なセキュリティ対策なしに外部に漏れてしまったのだ。

クライアントの信頼を失墜し、一時は売上も大きく落ち込んだ。自信を失ったタクミさんであったが、この問題でタクミさんはデータ保護の重要性を痛感し、弁護士の友人からのアドバイスを得て、データ保護を重視したビジネスモデルへと軌道修正を行う。

厳格なデータ保護方針を設け、技術的なセキュリティ対策も強化した。これにより、顧客データを安全に管理する体制が整い、クライアントとの信頼関係を再構築することができた。

独立してわずか1年、年商は5,000万円に

タクミさんが提供するサービスは、独自のデータ分析によってマーケティング戦略を最適化し、顧客エンゲージメントと売上を顕著に向上させることができる。ターゲットとなる顧客にパーソナライズされたキャンペーンを展開することで、広告のコンバージョン率と顧客満足度が大幅に改善。

利用したクライアントからの評判は上々で、リピーターとなる企業も増え、いまや年商は5,000万円を超える。

いまでは契約社員として勤務していた企業からも受注があるという。もっとも、タクミさんが自身の無形資産に気づくきっかけとなったプロジェクトで一緒に働いていた元同僚たちは「上手くいくと思っていたよ」と驚いていなかったそうだ。

「無形資産」こそが、ビジネスの可能性を広げる

タクミさんの成功を支えた「無形資産」。タクミさんは数多くの無形資産を持っているが、あえて挙げるとすれば、以下のようなものだろうか。

情熱……興味を持ったコンテンツへの深い愛情と関心

専門知識……データ分析に関する高度な知識

技術スキル……最新のテクノロジーとデータ分析手法の適用能力

革新的なアイデア……独自のアルゴリズム開発とビジネスモデルの構想

人脈……分野内外の専門家や顧客との関係

法的知識……学びから得たデータ保護とセキュリティに関する理解

タクミさんの成功は、単なる「運」によるものではない。もちろん、彼が大好きなアニメに関連する仕事が舞い込んできたことはラッキーだったのかもしれないが、それはあくまでもきっかけに過ぎない。

そのきっかけを、彼は「偶然入った面白かった仕事」で終わらせることはなかった。個人の情熱と専門知識が生み出す価値に気づき、自分が活躍できる世界に一歩を踏み出したのは彼自身である。

独立後もおごり高ぶることなく、失敗をもとに法的知識や倫理的配慮も重要であることを学んだ彼は、すぐさま実行に移し、自身のビジネスを軌道に乗せることができた。

無形資産は、先述のように、実は誰しもすでに持っているものだ。大事なのは、たとえすぐには仕事に使えない情熱やスキルでも、自分の価値観を信じて、磨いておくこと。そして、活かせる機会が訪れたときには、恐れずにチャレンジすること。

タクミさんのように、常に改善と成長を目指す謙虚な姿勢も、無形資産を活かす大切な要素になるだろう。

鈴木 健二郎

株式会社テックコンシリエ

代表取締役

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