不登校経由「埼玉発世界行き」 県奨学金で米留学の森さんが“恩返し” 夢の手助けに…個人で240万円寄付

「一人でも多くの若者に海外の扉を開かせたい」と話す森竜太郎さん=都内の自宅で

 埼玉県が2011年から行っている『埼玉発世界行き』奨学金。海外留学を希望する若者が経済的な理由で断念することがないよう、返還の必要がない給付型制度だ。これまで同制度を利用して約2200人が海外留学の夢をかなえている。過去に県の奨学金を受けて海外留学を果たした会社員、森竜太郎さん(33)=戸田市出身=が今回、「学生の夢の手助けになれば」と個人で奨学金計240万円分を寄付し、活用してもらうことにした。「今があるのはあの時の留学のおかげ。少しでも恩返しできたら」と若者にエールを送っている。

■小学校をドロップアウト

 現在、複写機などの大手電気機器メーカーの執行役員として多忙な日々を送る森さん。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)国際開発学部を首席で卒業し、これまで「空飛ぶ車」や「培養食肉」などの事業を立ち上げた。

 輝かしい経歴の森さんだが、「実は小学5年生で“ドロップアウト”してしまったんです」と苦しかった子ども時代を振り返る。周囲との人間関係になじめず、思い悩み不登校になった。

■世界中に「ラブアンドピース」

 10代半ばはバンド活動に明け暮れ、歌うテーマは「ラブアンドピース」。物心ついた頃から平和(平穏な日々)を願うようになり、17歳の時、高卒認定(旧大学入学資格検定)に合格。世界中に“愛と平和”を広げるには「将来は国連か世界銀行で働くしかない」と米国への留学を決意した。森さんは日本の短大に当たるコミュニティーカレッジに進学。その後、奨学金を獲得できたことでUCLAに編入した。「世界中の仲間と出会い、視野を広げることができた」と感謝する。

 森さんは現在、神経科学と情報技術の掛け合わせで、脳疾患の治療や新たなコミュニケーション手段の確立を目指す「ブレイン・マシン・インターフェイス」について研究。また、社会工学の力で世界に調和をもたらし、環境問題や経済的格差など地球規模の課題解決を真剣に考えている。

■平和に貢献できる人材支援

 今回、森さんが設定したコースは「宇宙平和奨学金」。学生2人に120万円ずつ支援し、世界をリードする技術革新で世界平和や、さらには宇宙平和に貢献できる人材が育つことを願っている。39歳まで応募可能だ。

 森さんは「日本の若者は平和慣れし過ぎ。世界における日本人の立ち位置を再認識する意味でも外に飛び出してほしい。たたかれるくらいの杭(くい)(才能)となって世界を変えてほしい」と呼びかける。

 本年度の『埼玉発世界行き』奨学金の募集は全23コース142人。県国際交流協会では今月30日まで受け付けており、6月下旬に選考、7月下旬に奨学生を決定する。

 問い合わせは同協会グローバル人材育成センター埼玉(電話048.833.2995)へ。

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