没後100年。文学を変えた作家カフカの傑作短編をまとめた『決定版カフカ短編集』が4月24日発売

遺言で原稿の焼却を頼むほど自作への評価が厳しかったカフカ。しかしその中でも自己評価が高かったといえる15編を厳選。20世紀を代表する巨星の決定版短編集が4月24日、新潮文庫より刊行される。 6月3日に没後100年を迎えるフランツ・カフカ。発行元の新潮社はカフカがまだほとんど知られていない1953年から1959年にかけて『カフカ全集』(全6巻)を刊行。そしてカフカの知名度が挙がった1980年から1981年に一回目の全集には収録されていなかった手紙などを新たに加え、『決定版カフカ全集』(全12巻)を刊行した。 本作はその『決定版カフカ全集』より短編を厳選して収録。編者は『絶望名人カフカの人生論』や『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』など、数多くのカフカに関する作品を編訳している頭木弘樹。『決定版カフカ全集』を各巻100回以上読んでいる頭木が、カフカの自己評価や読者の評価を鑑み、「これだけは読んでおきたいカフカ」といえる、カフカの王道作品をセレクトした。

▲フランツ・カフカ

カフカの自作への言葉

遺言で原稿の焼却を頼むほど自作に厳しかったカフカ。しかしその中でも自己評価の高かったものも存在する。例えば父との対峙を描く「判決」についてカフカは「この物語はまるで本物の誕生のように脂や粘液で蔽われてぼくのなかから生れてきた」と述べ、独特の表現で本作の出来の良さを語っている。 また、特殊な拷問器具に固執する士官を描く「流刑地にて」では、「『流刑地にて』を朗読した。紛れもないうち消しがたい欠点を除けば、必ずしも完全には不満ではない」と述べている。「紛れもないうち消しがたい欠点」とも言っているが、これはカフカにしてはかなり褒めているほうだ。このようなカフカの日記やメモに残された自作への評価は編者解説に収録され、決定版の名にふさわしい作品となっている。

カフカが与えた影響

カフカが逝去した1924年に生まれ、今年生誕100年を迎えた安部公房はカフカに影響を受けた作家の一人。対談の中でカフカについてこのように語っている。 「カフカはひとつの世界を提出した、そのオリジナルな世界はカフカが書かなければ存在しなかった。本当の世界は無限に解釈できるけれど、解釈つくされることはない。いくら時代背景とか、創作方法を詮索してみたところで、人間を見るのにレントゲンで透かして見たのか、今話題の超音波で見たのかの違いがあるだけで、けっきょく側面を覗くだけでしょう。カフカは世界そのものの存在を提出しえた、途方もない作家だったと思う」(『安部公房全集027』「カフカの生命」より) また「カフカを読まないということは残念で不幸なことだよ。」(同上)とも語るほど。他にもカフカに影響を受けた作家は数多く、村上春樹をはじめ、平野啓一郎、上田岳弘、小山田浩子など数多くの作家が挙げられるる。 新潮社では本作に続いて、6月新刊(5月28日発売)に、短く未完成な小説のかけらをまとめた『カフカ断片集 海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ』を刊行。絶望的な言葉から、不条理な物語の片鱗、ハッとさせられるほど美しい言葉まで、カフカがメモや日記に遺した物語の断片を集めた。『変身』『城』『絶望名人カフカの人生論』も書店で展開。まだ読んだことのない方、『変身』だけは読んだことのあるという方、かつて愛読していた方も、この機会にぜひ、改めてカフカと出会ってみてはいかがだろうか。 【著者紹介:フランツ・カフカ(1883-1924)】

オーストリア=ハンガリー帝国領当時のプラハで、ユダヤ人の商家に生る。プラハ大学で法学を修めた後、肺結核で夭折するまで実直に勤めた労働災害保険協会での日々は、官僚機構の冷酷奇怪な幻像を生む土壌となる。生前発表された『変身』、死後注目を集めることになる『審判』『城』等、人間存在の不条理を主題とするシュルレアリスム風の作品群を残している。現代実存主義文学の先駆者。

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