勉強だけじゃない!「落語」を通じ子どもの表現力や想像力を育む 話芸と人間性を磨くユニーク塾【島根発】

「塾」と言えば勉強を教えてもらうために通う場所だが、島根・松江市には、子どもたちに勉強だけでなく、「落語」を教える塾がある。落語を学ぶことで豊かな感性や想像力も育まれ、学力向上も期待できるという。ユニークな塾の“授業風景”を取材した。

全国表彰されるユニークな取り組み

島根・松江市にある一見、普通の民家。訪ねてみると、聞こえてきたのは寄席の「出囃子(でばやし)」だった。

中では小さな女の子が座布団に正座し、ぺこりと頭を下げ、「活塾亭ぬり江と申します。どうぞよろしくお願いします」と元気いっぱいに挨拶。どうやら落語家のようだ。

女の子が自作の絵を使ったネタを披露すると、「(絵を)見せるとき、(腕が)動かないようにして。ピッと止めて。もう一回、出してごらんなさい」と声が飛んだ。

声の主は、この塾の先生、宮森健次さん。
年中から小学6年生までの9人に落語を教えている。

宮森さんは、以前、勤務していた奥出雲町の高尾小学校で授業に落語を取り入れた。

高尾小学校は全校児童が10人に満たない小規模校で、内向きの性格の子どもが多く、多様な出会いによる刺激も少なかったことから、社会とかかわりを持ち、積極性を身につけるきっかけになればと、“教材”に選んだのが落語だった。

児童たちはそれぞれ「高座名(こうざめい)」を持ち、授業で教わった落語を「にこにこ寄席」と銘打って地域の人に披露する。

落語を通じて地域とつながり、子どもたちの豊かな感性を育むユニークな取り組みは、全国表彰を受けるなど注目されているが、2013年に初めて取り組んだのが、ほかならぬ宮森さんだった。

教員を退職したあと、半年ほど前に、かつて高尾小学校で一緒に落語の授業に携わった元同僚と、この「松江算数活塾」を開いた。

なぜ塾で落語を教えるのか、宮森さんは「高尾小学校で落語をやったときに、子どもたちが落語を通してぐんぐん育つのを見たので、できるならやってみようかな」と思い、この塾を始めたそうだ。

恥ずかしがり屋も積極的に

レッスンは、1人45分程度、マンツーマンだ。この日は、目前に迫った寄席に向けて、最終チェックをしていた。

活塾亭つや姫:
どろぼうめ、池の中へ飛び込んだぞ。どこにいるのかな…

子どもたちは、落語を文章として覚えるだけではない。

宮森さんによると、落語を覚えたところが「入り口」だという。そこから話の世界、想像を細かく、広く広げていって、言葉の一つ一つを大事にして、きちんと届けるにはどうしたらいいか、どう直せばいいか自分で考えることで、子どもたちの国語力、想像力や表現力が育まれ、さらに、人前に立つ“度胸”も養われるそうだ。

保護者も「少し恥ずかしがり屋で後ろに隠れるような性格の子どもだったが、だんだん積極的になってきて、自信がついた」と、落語の力に驚いていた。

活塾亭つや姫:
けんちゃん、うそをついちゃあいけないよ。たんこぶなんか、どこにもできていないじゃないか!

名作「寿限無」の一節、せりふ回しも、登場人物になりきって表情豊かに表現できるようになってきた。

“玄人はだし”な話芸にプロも絶賛

数日後、寄席の本番。会場の松江市内のお寺には、約100人の観客が集まった。

この日は7人が、それぞれ考えた「マクラ」と古典落語を披露する。

宮森さんとマンツーマンで最終チェックをしていた「活塾亭つや姫」さんも、おなじみ「寿限無」の長い名前をよどみなく、言い切ることができた。

その様子に、観客も「すごく滑舌が良くて、『寿限無寿限無』も覚えるのが大変だろうし、それをしゃべるのもすごい。かわいらしいし」と感心しきりだった。

出番を終えた「活塾亭つや姫」さんも「楽しかった。ちょっとだけ間違えちゃったけど、そこを直して、もう一回やりたい」と向上心を見せた。

まさに“玄人はだし”の子どもたちの話芸、ゲスト出演したプロの落語家・笑福亭喬若さんも「子どもで舞台に出られるってすごいなと思いました。人前であれだけしゃべれるってすごいし、あれだけ笑わせられるってすごいし、先生の熱意もすごい」と絶賛した。

松江算数活塾・宮森健次さん:
今回の経験をもとに、子どもたちはまたグンと伸びていくと思います。もっともっと表現したいとか、お友達がやった表現に刺激を受けるでしょうし、とてもよかったと思います。今のまま楽しんでやってもらえたら。

「落語」を教えて、学力だけでなく、表現力や想像力を養うユニークな塾で、小さな落語家たちは稽古を積み、話芸を通じて笑いの腕と人間性を磨いていく。

(TSKさんいん中央テレビ)

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